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13話 魔法師ギルドなう

 そんなこんなで俺はリューと魔法の練習――もとい、その基礎である魔力を感じる練習――を始めて二週間が経った。

 毎朝、俺は鍛錬を終えた後リューと魔力を感じる練習するという流れでやっている。

「さて、瞼の下にもう一つ目があるようなイメージデスよ」

「そうは言うけどね……って、おお!?」

 いつものように目を閉じ、「魔力ってなんだよ」と思いつつジッと意識を集中させていると……いきなり、目の前が緑がかった紫色に染まった。

 眼を閉じたままよく目を凝らす(字にすると意味不明だね)と、その紫色にも更に濃い場所と薄い場所があるように感じる。

「これが……魔力なのか?」

 俺が目を閉じたまま、ポツリとそう漏らすとリューの声が聞こえてきた。

「ヨホホ……では、今ワタシが魔法を発動させてみますデス。その魔法の形を当ててみてくださいデス。もちろん、目を閉じたままデスよ?」

「うん」

「では……ゴニョゴニョ」

 俺に聞こえないようにか、小さい声で呪文を唱えるリュー。ふむ、小さい声でも唱えられるんだね。戦闘中にも有効かもしれないから覚えておこう。

 目を閉じたまま目を凝らしていると、魔力の濃い場所から丸い形に切り取られるように――まるで水の中に浮かぶ泡のように、魔力が形になる。これが魔法だろうか。

「えっと……丸?」

 恐る恐ると言う風に答えると、リューが嬉しそうな声をあげる。

「ヨホホ! 正解デス。どうやら、本当に魔力が見えているみたいデスね!」

「……なるほどね」

 薄っすら目を開けると、視界は普通だった。いつもの世界はいつも通り彩られている。しかし、ジッと目をこらすと……先ほどのように魔力が感じられる。緑がかった紫色として。

 視界の切り替えは意識的に出来るようで、パチッと目を閉じたら普通の視界に戻った。

「それで? どんなイメージでしたデスか?」

 でしたデス、て。

「ん……やや緑がかった紫色って感じかな」

「ヨホホ、では紫色の力デスね。では、この前教えた呪文を唱えてみるデス」

「えっと……『紫色の力よ、はぐれのキョースケが命令する、この世の理に背き、我が目の前に灯りを! トーチ!』」

 すると、俺の身体の中から『何か』がスーッと指先に流れていき……その『何か』が一定量に達するとポンッ、と俺の指先に火がともった。

 おお……成功した。俺にも、魔法が使えたね。

 らしくないけど、かなり嬉しくなる。

「ヨホホ、素晴らしいデスね。一度で成功デスか。これなら攻撃魔法もすぐに教えられるデスね」

 リューも少しテンションが上がってるっぽい。

 ファンタジーって凄いね……魔法が使えたよ。今まで何度も『職スキル』は使ってるんだけどね。

「これから先マッチを買わなくても良くなるのは嬉しいな。……あ、早速活力煙につけてみよう」

 指先にともした火をそのままに、俺は懐から活力煙を取り出して口に咥えると火をつけた。

 ……この火、どうやって消すんだろう? パッパッと手を振ってみるとすぐに消えた。

「いやぁ、ファンタジーだね」

 物理法則なんて、あってないようなものなのかもしれない。

 俺が魔法を珍しがっていると、リューが不思議そうな顔をしてきた。

「魔法が珍しいのデスか?」

「んー? いやぁ、俺ド田舎の村にいてさ、そこだと誰も魔法なんて使えなかったんだよね。まさにおとぎ話の中だけ、って感じ」

 ……いつも通り、田舎者のフリ。

 それを見たリューはおや、と手を口もとに当てた。

「ヨホホ……それはそれは、さぞ暮らしが不便だったでしょう、デス」

「そうでもないよ。戦闘力はあったしね」

 ヒュン、と槍を振ってみせる。嘘をついているのに心配されるってのはあまりいい気分じゃないんだよね。

「そうデスか。もう魔力は感じられるようになったので、殆どの生活魔法は使えると思いますデス。後で生活魔法の呪文を纏めてお渡ししますデス」

「え、そこまでしてくれるの? ありがたいけど」

「いえいえ、デス。弟子デスからね。ヨホホ!」

 リューはひとしきり笑うと、俺に真剣な顔を向けてきた。

「さて、魔力を感じられるようになったので、おそらく簡単な攻撃魔法は使えると思いますデス。今から簡単だけど威力もあり、かなり使い勝手のいい魔法をお教えしますデス」

「はい、お願いします」

 すっとリューが右手を前に突き出し、詠唱を開始した。

「『大いなる恵みの力よ、魔法使いリリリュリーが命令する、この世の理に背き、炎の玉を打ち出せ! ファイヤーバレット!』」

 突き出された右手の前に火球が産まれ、一直線に飛んでいく。

 ボン! と地面に当たり、地面が抉れる。中々の威力と見て取れるね。

「こんな感じデスね」

「やっぱり、魔法っていうのは凄いね」

「大事なのはイメージ力デス。先ほどの生活魔法はそんなに魔力を消費しませんデスし、イメージもしやすかったでしょうデスが、攻撃魔法のイメージは中々出来ませんデス」

 何故なら、と一度言葉を切ってから指を立てる。

「普通に生活していたら攻撃魔法はそうそう見るものじゃないデスし、さっきのファイヤーバレットで言えば『火の玉を出す』、『撃ち出す』と、一度に二つのイメージを正確に浮かべる必要があるのデス。ではやってみてくださいデス」

「よし。えっと……『紫色の力よ、はぐれのキョースケが命令する……』」

 俺は詠唱とともにイメージする。

(えっと……火の玉は、そうだ、花火をイメージしてみよう。それが回転して飛んでいく感じで。よし、具体的になったぞ。なんかイケる気がする!)

「『……この世の理に背き、炎の玉を打ち出せ! ファイヤーバレット!』」

 言い終わると同時に、バッと右手を突き出す。すると魔法が成功したのか、右手の前に火球が現れる。……リューの火球の倍くらいの大きさの火球が。

「「え?」」

 俺とリューは同時に驚いた声を出すが、リアクションする暇もなく火球は物凄いスピードで飛んでいき……地面に着弾すると同時に爆発した。

「「…………………………」」

 シン……と、異様な静けさが辺りに満ちる。鳥のさえずり、木々の揺れる音が余計静けさを際立たせる。

 先に口を開いたのはリューだった。

「………………………………………えっと、キョースケさん?」

「…………あ、はい」

「………なんですか今の魔法」

「…………えっと」

『炎魔法』、『エクスプロードファイヤー』を習得しました。

 頭にシステムメッセージが響く。うん、なんか久しぶりに聞いた気がするよ。

「あの、え、『エクスプロードファイヤー』って言うらしい……」

「……い、今の魔法、消費魔力に威力が釣り合ってませんデス」

「……ああ、やっぱり燃費悪い?」

「いや、籠められた魔力の割に威力が高すぎるデス」

「わぁお……」

 アレ? なんでだろう、魔法を使えて嬉しいはずなのに嬉しくないや。

「……………ま、まあ、それだけの魔法が使えるなら普通の『ファイヤーバレット』もすぐに使えるようになるでしょうデス。気を取り直していくデスよ」

「そ、そうだね!」

 結局、俺が『ファイヤーバレット』を覚えるのに、さらに2時間もかかってしまった。

 な、何故だ……。

~~~~~~~~~~~~~~~~

「ヨホホ……それでは、攻撃魔法も覚えられたことですし、魔法師ギルドに登録しに行きましょうデス」

「そうだね……」

 俺は『ファイヤーバレット』を覚えるまでに火魔法をもう一つ覚えていた。『ショットガンファイヤ』というらしい。

 リューが言うには、そっちの方が『ファイヤーバレット』よりも難しいとのこと。っていうか、同じ呪文を唱えたら同じ魔法が出るわけじゃないんだね……謎だ……。

「魔法師ギルドに行くと、さらに適性のある魔法を教えて貰えるデスよ。ワタシの場合、火だけデスね」

 魔法師ギルドへの道すがら、そんな話をされた。

「他にはどんなのがあるの?」

「ヨホホ……たくさんありますが、主なのは火、風、水、土あたりデスかねぇ……基本的には皆適正のある魔法は一つ、多くて二つデスね。稀に三つに適性がある人がいますデスが」

「なるほど……じゃあ、俺も火かな?」

「簡単なモノに限れば、適正ではない属性の魔法でも扱えるデス。相応の努力は必要デスが」

 相応の努力、というのがどれ程のものなのかは分からないが……少なくとも一日、二日で出来るものではないだろう。

「なので一概には言えませんデスが……まあ、火には間違いなく適性があると思いますデスよ。訳の分からない魔法を撃ってましたデスし」

「火か……」

 戦闘には役立ちそうだから、結構嬉しいね。さっきの『ファイヤーバレット』とか、『エクスプロードファイヤー』とかは戦闘でかなり使えそうだし。

 個人的には風とかの方が格好いい気もするけど……火も格好いいし、いいか。

「では着きましたデスよ」

「ここか……」

 看板に大きく、魔法師ギルドと書かれた、二階建ての……なんか、かなり怪しげな建物だった。

 いや、屋根の色が紫色ってなに? あと、ところどころ赤いのは? 恐すぎるんだけど。

 色合い以外はAGギルドと似てるんだけど……なんだろう、入ったら出られない気がする。

「ヨホホ、心配しすぎデスよ。中に入れば普通デスから」

「そうなんだ……ん?」

 なんか中から声が……

『お、おい! どうした!』

『な、なんか急に倒れたんだ!』

『どうしよう……このキラーマンドラゴラが悪かったのかな……』

『いや、こっちのヘルグリモアがよくなかったのかもしれん……すぐに治癒術を!』

『あ! やべぇ、俺の飼ってたアサシンバットが逃げた!』

『ばっきゃろう! ちゃんと鎖で繋いでおけ!』

「………………………みんな普通のいい人なんデスよ?」

「説得力無いからね!? 超ハプニング起きてるよね!?」

 なに!? キラーマンドラゴラって! 超恐い!

「ヨホホ……いつものことデスし」

「そこは異常事態であって欲しかった!」

「……ま、入りましょうデス」

「ちょっ、俺まだ心の準備が……アッーーーー!」

 首根っこを掴まれてずるずると引きずられる。観念して渋々中に入ると、どんよりとした空気に出迎えられた。不潔な感じではなく、雰囲気そのものが持つ「闇」とでも言うべきか。とにかく中が暗くて陰気な気分にさせられる。

 AGギルドのような酒場もなく、屈強な人も見当たらない。その代わり怪しげな薬品がこれでもかというほど置いてあり、ジョッキを交わす代わりに薬品を調合したりしている。

「カオス」

「ヨホホ、それが良いところなんデスよ」

 絶対違うと思う。

「……まあ、いいか。さっさと登録をすませよう」

「そうデスね」

 二人並んでカウンターへ向かう。

「……………魔法師ギルドへようこそ。本日はどんなご用件ですか?」

 対応してくれた人は……ギルド内の雰囲気としっかり一致するほど暗い人。何故か前髪で顔が全部隠れているし、ギルドの制服は真っ黒。髪色だけは金だけど、それもなんだかくすんで見える。

「ヨホホ、今日はワタシの弟子の登録にやってきたデスよ」

「はい、分かりました。お名前は?」

「キョースケ・キヨタ」

「キヨタ様ですね。では、こちらへ」

「はーい」

 黒服の受付に連れられ、地下へ。この辺はAGギルドの時と一緒だね。

 上と違って地下はギルドのそれと良く似ている。違うのは活用している人数が少ないことと、武器の代わりに人型の的が立っていることくらいか。

 印象的には修練場というよりは射撃練習場って感じ。

「………こちらで、あの人形に向かって攻撃魔法を放ってください。どんな魔法でも構いませんが、あくまで攻撃魔法なのである程度ダメージが出る魔法にしてください」

「ん、分かりました」

 さて、攻撃魔法か……まあ、『ファイヤーバレット』でいいだろう。

「『紫色の力よ、はぐれのキョースケが命令する、この世の理に背き、炎の玉を撃ち出せ! ファイヤーバレット!』」

 バスケットボールくらいの火球が俺のかざした手の前に現れる。そのまま勢いよく撃ち出し、人形を吹っ飛ばした。我ながらいい出来だ。

「…………リリリュリーさん、中々よいお弟子をお持ちで。彼なら一流の魔法師になるのも夢では無いですね」

「ヨホホ! 貴方もそう思いますデスか! しかし、彼は既にAG……それも、Bランクなのデスよ。魔法師として育てるのは中々厳しいと思うデス」

 後ろからなにやら褒められている。褒められて悪い気はしないけど……なんか照れくさい。

「攻撃魔法の、威力、無駄な魔力の少なさ……。その他諸々、どれをとってもかなりいいレベルです。彼ならBランク、いや、Aランクの魔法師になれるでしょうに……勿体ないですね」

 それに、たぶんその褒められてる部分……全部、異世界人の補正なんだろう。俺が、俺だけがそんな特別なはずないものね。

 神様かなんかがくれたチートなんだろう。そう思うと、素直に喜べない。

「ヨホホ」

「あとは、魔力量と適性魔法の検査ですね。こちらの水晶に手をのせてください」

 言われた通り水晶に手をのせる。すると、水晶の中になにやらモヤモヤと煙のような物が出てきて……それが、赤と青と緑色になった。

「これは?」

「す、凄いですね……火、水、風の魔法に適性があります。魔力量も、並以上……」

 どうやら凄いらしい。って、三つも適性があるのか。さっきリューも稀って言ってたもんね。

「――キヨタ様、文句なく合格です。上へ上がってください。詳しくご説明しますから」

「ん、了解」

 再びカウンターへ戻る。うーん、なんか非効率な気もするけど……まあ、しょうがないか。

「では、こちらが魔法師ギルドの証明バッヂです」

 銅色に鈍く光る、菱形のバッヂを渡された。え、ちょっと格好いい。

「って、バッヂ?」

「はい。本来ならばライセンスもお渡しするんですが、AGの方の場合はバッヂのみをお渡しすることになっています」

「へぇ」

 リューが胸元につけている青いバッヂはこれだったのか。

「ヨホホ、ちなみにランクごとに色が違うんデスよ」

「一目でわかるようになってるのか。いいね」

 AGもそういう工夫すればいいのに。

「さて、後はこちらの書類に必要事項を書き込んでください」

 ペラリと書類を渡される。内容は名前、使用魔法、宿屋などAGギルドで書かされたものと大体一緒だ。使用魔法の欄が増えたくらいかな。

 一緒に渡された『注意書き』と書かれた紙も読む。概ね、AGギルドで言われたことと変わらないね。クエストの受け方とかもそう違いは無いようだ。

 違うところと言えば……窓口対応はAGギルドの方が丁寧だった。マリルには今度改めてお礼を言っておいた方がいいだろう。

 なんて考えながら空欄を埋め、職員に渡す。彼女はギョロリと目を見開いてそれを確認すると、一つ頷いてから机に仕舞った。

 その後は注意書きの内容と合わせて魔法師ギルドについての簡単な説明を終え、晴れて俺は魔法師ギルドへの加入を認められた。

「とりあえず、リュー。俺に魔法を教えてくれてありがとう。これからもよろしく。後、Bランク昇格おめでとう」

「ヨホホ! ありがとう御座いますデス。そうだ、ついでに魔法師ギルドのクエストを受けていきませんデスか? すぐにDランクくらいにはなれると思うデスよ?」

「んー……いや、止めとくよ。それより、俺の生活魔法の練習に付き合ってくれない?」

「構いませんデスよ。では、行きましょうかデス」

~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふぅ……」

「ヨホホ、まさか一日で殆どの生活魔法を習得してしまうとは……」

「呪文を間違えずに唱えて、魔力の流れに集中するだけでしょ。結構みんなすぐ出来るんじゃない?」

「それがそうもいかないのデスよ。……おや、もう暗くなってしまいましたデスね。続きはまた今度にしましょうデス。いくつか攻撃魔法もお教えしますデスよ。ただ……火以外の攻撃魔法は自力で覚えてくださいデス。ワタシには使えないので」

「ん、分かった。さて、じゃあ俺は買い物があるからさ、先に宿に行っといて」

「ヨホホ? 分かりましたデス。では、ワタシはこれで」

 リューに手を振って別れる。さて、買いに行くか。

 ふらふらと街中を歩き、とある雑貨屋の前で止まる。ここなら目当ての物がありそうだ。中を伺い、店員らしきおじさんがいたので声をかける。

「あのさ、大きい桶ってない? 人が一人入れるくらい」

「あ? ……それならアレはどうだ」

 店員に指さされた先にあった桶は、大きさといい深さといい俺の求めているものだった。これならお風呂に出来る。

 火魔法と水魔法を組み合わせてお湯に出来ることは既に分かっている。ならば溜めてビバノンノン(死語)といきたいものだ。

「買うよ、いくら?」

「小金貨三枚だ」

 俺は店員に小金貨三枚を渡して桶を買い、意気揚々と店を出る。

(やっと……生活魔法も手に入れた。これで毎晩シャワーを浴びれる。お風呂にも入れる)

 身体を拭くだけじゃ綺麗になった感じがしないもんね。やっぱり人間、毎日シャワーくらい浴びないと。

 テンションをかなり上げて、俺は宿へと戻るのであった。

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