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9話 初クエストなう①

 忘れていたけど、ちゃんとホーンゴブリンの魔魂石を売った分の中銀貨も入っていた。中銀貨十枚だけど、何で大銀貨に変えてくれないのか……。ジャラジャラと金属がぶつかり合う音を鳴らす袋を揺らしつつ、クエスト板や魔魂石の売値が書いてある本を眺める。

 これを見る限り、ホーンゴブリン討伐を一回クリアすると大銀貨三枚……『三毛猫のタンゴ』一泊分稼げるってことになる。

 ご飯代と桶代を含めて一泊で二千八百円だから、毎日最低でも三千円くらいは稼がないといけないわけか。

 生活のことを考えつつクエスト板をさらに見ていく。常在クエストにはホーンゴブリンの他には、モノアイワーム、ウイングラビット……等々、Fランク、Eランクの魔物討伐クエストが載っている。

 その殆どはホーンゴブリンの討伐と変わらない報酬だ。Eランクの方が若干高いが、中銀貨一枚か二枚しか変わらない。

 常在クエストをこなすだけだと、日銭を稼ぐ分にはいいけど貯蓄は難しそうだ。

 Dランクのクエストになってくると、EやFと違って報酬の差が激しい。Cランク以上になれば差はあれど全て高額だけどね。

 だから貯金しようと思うならば、高額なDランククエストか、C以上のクエストを日々受けつつ、そのついでに常在クエストをこなしていくのがベストかな。

「さて……おっ、このクエストはいいんじゃないかな」

 Dランク以上専用クエストの中から、かなり高額報酬の『ロアボア討伐』というのを見つけた。

『ロアボア討伐』

 ランク:C

 依頼人:東の村、村長

 場 所:東の村付近

 報 酬:大金貨二十枚

 内 容:畑を荒らすロアボアを討伐して欲しい。Cランク魔物なので、村の男共ではどうしようもない。至急討伐を頼む。

 なかなかいい。Cランクってことはそんなに難しいクエストじゃないだろうし。

 ……Cランク魔物は報酬が大金貨20枚で、Bランク魔物は大金貨百枚ってのはなんでだろう。そんなにもBランクとCランクに差があるんだろうか。

 クエスト書をとり、カウンターの方へ振り向いたところで、マルキムが話しかけてきた。

「よう、キョースケ。なんのクエストを受けるんだ?」

「これ。『ロアボア討伐』。大金貨二十枚とか、かなりおいしい」

「おいおい、いきなりCランクかよ……ってまあ、キョースケはBランクだから問題ないだろうけどよ」

「そういえば、Cランク魔物の討伐は大金貨20枚なのに、Bランク魔物だと大金貨百枚ってのはどうして?」

 俺が尋ねると、マルキムはちょっと呆れた顔をした。

「なんだキョースケ、そっからかよ。……さっきのはアックスオークを討伐した報酬じゃねえ。Bランク魔物の魔魂石の値段だ。そもそも、魔魂石をあんなに無傷で手に入れるのはむずかしいんだぜ?」

「へぇ、なんで?」

「魔魂石は大概急所に埋まっている。心臓とか脳とかだな。そして、魔物は急所を攻撃しなきゃ倒せない……分かるだろ?」

 マルキムがそう言って肩をすくめる。どうでもいいけど、その仕草全然似合わないね。

「つまり、魔魂石は倒すときに一緒に壊しちまうことが多いんだよ。BランクやCランクみたいな強い魔物であればとくに」

 なるほど、つまりさっきのは状態のいい魔魂石を売った代金だったってことか……って、

「つまりもしも魔魂石を手に入れられてなかったら、アックスオークをあんなに苦労して倒したのに、びた一文も貰えなかったってこと……?」

 死ぬような思いをしてもタダ働きになる可能性があるということだ。

 愕然として頬をひきつらせる俺。……AGって、割に合わないのかな?

 そんな俺のリアクションを見たマルキムは苦笑しつつ首を振ると、ガシガシと頭を掻いた。

「いや、そうじゃない。ちゃんとAGに登録してから倒せば相応の報酬は入る。さっきキョースケは『AGになる前に倒した』っつってたろ。そうなると、違法に倒したことになっちまうんだ」

 ん? 違法? って、ああ、そういやAGとか公職じゃないと武装厳禁だっけ……完全に失念していたね。

 あちゃー、って感じで額を抑えると、マルキムは苦笑いしている。

「今時完全に非武装の奴の方が少ないが、一応な。……だからまぁ、さっきのは違法を見逃す代わりに、報酬無しって感じだな。ちなみに、倒すだけで収入が入るのはDランク以上の魔物だけだ。それ以下だと、ちゃんとクエストを受けなきゃ収入にならん」

「なるほどねぇ……もっと後になって言えばよかったのかな? AGになった後倒したって言えるくらい」

「ははっ、そうだな。もっとも、普通Cランク以上の強い魔物を発見した時は、いったんギルドに報告して臨時クエストを発注してもらうんだよ。そうやって討伐隊を組まなきゃ普通勝てねぇから。あと、クエスト扱いになった方が貰える額は多くなる」

 マリルからそれは聞いてたけど……なるほど、マリルの苦笑はこのせいだったわけね。

 まあ、あの状況じゃあ戦うしか選択肢は無かったわけだけど。

「うーん……やっぱ常識を知らないっていうのは大きなハンディだね」

「キョースケ、田舎から出てきたのか?」

 現代日本に住んでいた俺としてはアンタレスの方が田舎だと思うけれど、正直に異世界人って言っても信じて貰えるか分からないし、テキトーに頷いておく。

「田舎っていうか、大分遠いところかな」

 むしろ都会だったけど、すくなくとも魔物はいなかった。

「そうか……そうだ! いろいろ教えてやるからよ、一緒にそのクエストやらねぇか?」

「『ロアボア討伐』を?」

「ああ、手取りは半分ずつでよ。ロアボアはCランク魔物の中では結構強い方なんだ。いくらアックスオークを倒したからっつって、一人で行くのは危ないと思うぜ?」

「うーん……」

「それに、東の村の場所も分かんねぇだろ」

 それは確かに。

「実力の方は安心しろ。俺はアンタレス唯一の――ああいや、キョースケがいるから唯一じゃなくなったが、BランクAGだ。それなりに強いぞ」

「実力に関しちゃ疑ってないよ。……まあ大金貨一枚は惜しいけど、ガイド代と肉壁代と思えば悪くないか」

「そうそう、分かってんじゃねえか……って、誰が肉壁だオイ! しかも半分って言ったのに大金貨一枚しか寄こさない気かテメェ!」

「暗くなっても、頭が光って道に迷わないだろうしね」

「俺は禿げじゃねえ! スキンヘッドなんだよ!」

「負け犬……いやむしろ、負け禿げの遠吠え乙!」

「この野郎!」

 ケラケラと笑いながら、マルキムと掛け合いをする。うーん、この人いじりやすいね。

 俺はクエスト書を持って、マルキムと一緒にカウンターに行く。

「マリルさん、俺この人とこのクエスト受けるよ」

「はい、ではお二人ともAGノートを出してください……はい、完了しました。頑張ってくださいね!」

 応援してくれたマリルにヒラヒラと手を振って応え、マルキムと一緒にギルドから出……

 グゥ~

 ようとしたところで俺の腹が鳴った。

 そ、そういえば、今朝から何も食ってなかったね……それなのに模擬戦したり槍振り回したりしてたら、そりゃ腹は減るよね。時計を見ると、既に12時。ひ、昼ご飯食べたい。

「あー、マルキム? クエストに行く前に飯食っていかない?」

「ん? おお、いいぜ。よし、俺がオススメの店を教えてやるよ!」

「サンキュー。で、どっち?」

「こっちだ、着いてきな」

~~~~~~~~~~~~~~~~

 マルキムの紹介してくれた店はスープとパン、それに肉という簡単なメニューだったが、かなり美味かった。これならまた来たいな、と思った(小並感)。

 飯を食ってる途中、マルキムは俺にAGのイロハを教えてくれた。

 曰く『他人の獲物の横取りはするな』とか『なるべく後輩AGには優しくしろ』などかなりためになった。

 ……俺、先輩AGからかなり恨まれてるんですけどね。マルキム、面識があるか分からないけど、ゴゾムも教育しといてくれよ……。

 そして持ち物のくだりになった時に大分怒られてしまった。

「はぁ!? 魔力回復薬はさておき、怪我回復薬も体力回復薬も持ってねぇのかよ!?」

 あー……確かにゲームとかでもポーションは必要だよね。うん、気づかなかったよ。

「いや普通AGを目指すなら最初に学ぶべきことだぞ……ったく、ついて来い」

 というわけで俺はクエストに行く前にガッツリ買い物をするはめになった。

 アックスオークを倒して手に入れた金を早速使うことになるとは……まあそうは言っても百万円からすると、全然減ってないけど。

「これが体力回復薬だ。液体タイプは早く回復できる。戦闘中はこっちだな。で、煙タイプ。これは回復幅が大きいが即効性じゃない。部屋でお香みたいに炊く奴もいるし、葉巻みてぇに吸う奴もいる」

 マルキムから丁寧に説明を受けつつ、あらかた買い物をすませた俺たちは東の村へ出発した。

~~~~~~~~~~~~~~~~

「よっと……ふう、これでホーンゴブリン七体目か……」

「おーい、こっちの剥ぎ取りを手伝ってくれ」

「ん、わかった」

 現在、俺達は東の村に行く途中、ホーンゴブリンの群れにかち合ってしまい、ガッツリ戦闘を行わざるをえなくなってしまっていた。

 ただ、相手はゴブリン。正直俺達からしてみれば弱すぎる。なので……

「もういないか?」

「たぶん」

「何体殺った?」

「俺は七体。マルキムは?」

「勝った。俺は八体だ」

「へぇ……じゃ、魔魂石の数は?」

「……四つ」

「俺六つ。勝った」

 と、勝負をしながら倒していた。

「というか、なんでそんなに魔魂石とれないの?」

「お前が異常なんだよ。なんで一撃で首を刎ねられるんだ?」

「さぁ?」

「……この感覚派め」

 どうやら、簡単に魔魂石をとれていた俺はおかしいらしい。なんで? とは思うけど、心臓や頭部を狙わず倒すっていうのは、結構難しいんだろう。たぶん。

 ちなみに魔魂石を壊してしまったら、魔物は討伐部位だけ残して勝手に溶けていた。壊れても無くなった扱いなのね。

 辺りに魔物がいないことを確認した俺は、懐から出した棒状の物を咥えてマッチで火を付けた。

「……ふぅ~。あー、火の魔法とか使いたいね。マッチを一回一回擦るのは面倒くさいし」

 煙を吐き出しながらぼやく。

「俺には魔法使えないから、魔法使いにでも方法を聞きな。……にしても、キョースケがそんなにそれを気に入るとはな」

 俺が懐から取り出したのは、体力回復薬のタバコタイプ。それも若干効果の落ちる、凄い廉価のやつ。ちなみに商品名は『活力煙』。名前がまんま過ぎる件。

「甘くて美味しいからね。身体に害が無いなら問題ないでしょ。それに……やっぱり、疲れはするし」

「そういう奴は多いけどよ。体力の回復もすぐに出来るし、美味しいから一石二鳥っつってな」

「マルキムは違うの?」

「ああ、俺はこっち派だ」

 そう言って、マルキムは葉巻に火を付ける。喫煙者は今時流行らないよ? とは思うけど……活力煙を吸ってる俺も似たようなものなので言わない。

「AGにとって酒と葉巻と女は……最高の体力回復薬なんだよ」

 忍をダメにするものが二つ入ってるんだけど。それは大丈夫なんだろうか。

「……その境地まで行くには、まだ年齢が足りないかな、俺は」

 実際まだ十七だしね。本来タバコも吸っちゃいけない歳だ。……でもこれは体力回復薬ですし。言っちゃあなんだけど、男なら一度はタバコに憧れるよね?

 ふぅ~、と俺は薄いピンク色の煙を口から吐き出し、また歩き出す。

「で? 目的地まで後どれくらい?」

「三十分くらいかな」

「結構あるね」

「そうでもないさ。ホラ行くぜ」

 マルキムに促され、俺は歩くスピードを速める。

 ステータスのおかげで歩くのも速くなるし、疲れにくいにくいし本当にありがたい。

 なんて考えながら、歩くこと三十分。俺とマルキムはのどかな村に辿り着いていた。

 取りあえず依頼人である村長さんの家を目指し、村内を歩く。

「あの~、俺達AGなんですけど、村長さんの家ってどこですか?」

 結局自分たちでは村長宅を見つけきることが出来なかったので、やむなく村の人にAGライセンスを見せながら尋ねた。

 ……ちなみに、もちろん活力煙は既に火を消して捨てている。

 とはいえタバコのポイ捨てはよくないから、今度から携帯灰皿を持ち歩こうかな。……そんなものがこの世界にあるかどうか甚だ疑問だけど。

「あ、はい。村長の家ならあの家ですよ」

 村人が指さした先に、周りの家と比べて少し大きな家があった。なるほど、あそこか。

 俺とマルキムはその村人に礼を言って、村長の家に向かった。

「すみません、AGです。依頼を受けて来ました」

 村長さんの家に着いたので、俺は扉をノックしながら名乗る。

 ノックしてから数秒、扉がガチャリと開き、中から少し厳つい、白髪の老人が現れた。

「AGか。入ってくれ」

 中に入る時、荷物は玄関に置けと言われたので、俺はさっきマルキムに怒られながら買ったAGの必需品が入っているリュックをおろす。

「……で? お主らがロアボアを退治してくれるのか。だがマルキムよ、貴様なんでこんな小僧を連れてきた? 相手はロアボアだぞ?」

 ジロリ、と俺を睨む村長さん。やれやれ、おっかないね。というか、マルキムと知り合いだったんだな。

「おいおい、リック爺さん。アンタは目が節穴なのか? こいつはアンタレスで二人しかいないBランクAGの1人だぜ? まあ、俺もBランクAGだから、BランクAGがこの場に二人もいることになる」

「なんじゃと? こんな小僧が?」

「確かに、見た目通り俺は小僧なんですけどね」

 そう言いつつ、俺は俺のAGライセンスを見せる。ランクBと書いてある、ライセンスを。

「…………ふん、ランクが高ければいいってもんではないわ」

「そうですよねー。俺もそう思いますよ。それで、ロアボアはどの辺に出るんですか?」

 こんな爺になんと思われようが関係ない。俺はテキトーに頷いて、話を促す。

「ふむ、基本的には畑の辺りが多いのう。じゃが……出てくる度に、ロアボアの大きさが違うんじゃ」

「はい?」

 大きさが違う、と聞いていくつか可能性が浮かぶけど……一番妥当な考えは、

「少なくとも二体以上、下手したらもっといるかもしれないってことか」

 複数の魔物がいたら、そりゃあ大きさは違うよね。

「……Cランク魔物が少なくとも二体以上かよ。おい、リック爺さん、なんでクエスト書にそう書いてなかったんだよ」

「それは……」

 言いづらそうにする、村長。まあ、どうせ金が足りないとか言うつもりだろう。

「まあ、いいじゃん、マルキム」

「しかし、Cランク魔物が数体なんて、大金貨二十枚じゃ足りんぞ」

「魔魂石全部売ればなんとかなるでしょ」

「割に合わん仕事だなぁ……」

 ぼやくマルキムだが、俺としてはロアボアが数体いてもあんまり気にしてなかった。

 魔魂石をとれば結構な金になるだろうし、なにより今俺はたくさんの魔物と戦って、経験を積みたいからね。無駄な力は要らないけど、それでも死なない程度には腕を磨かなくちゃならない。

「じゃあ、早速行くか。どの辺にいるのか分かる?」

「……ああ、村の西側からいつも出てくる。たぶん、そこに住処があるんだろう」

「西か。分かった。まあ、任せろ」

 マルキムも乗り気になったようだ。じゃあ、行こうかな。

~~~~~~~~~~~~~~~~

 さて、村の西側付近を探しに出た俺達なわけですが……

「やれやれ……なかなか出てこないね」

 探せど探せど、出てこない。うーん、見当外れの場所を探してるのかなぁ。ホーンゴブリンはよく見るんだけど。

「今のうちにロアボアの特徴とかを説明しておくか」

「あー、お願い」

 言われるまで、ロアボアのことを何も知らなかったことに気づく。情報は大事だよね。

「つっても、大した特徴はねぇ。成獣は体長が二メートルから二メートル半。鼻も結構長い。んで、突進を繰り返して攻撃してくる。後は、牙が生えてるってところか。色は茶色で、毛深い」

 大きさ以外は日本の猪と変わらないね。

「ただ、ロアボアはな、吠えるんだ。そんで、その咆哮は尋常じゃねえ。俺は詳しいことは知らねえが……どうやら、魔力が籠められてるようでな。それを聞いた人は、一瞬動きが止まっちまうんだ」

「えー……停止能力持ちで、尚且つ突進系攻撃とか誰得なの……戦いたくないなあ」

「とはいえ、吠える時には相手の動きも止まるから、そこを狙って攻撃するといいかもな」

「へぇ……じゃあ、どんな鳴き声……というか、吠え声? なの?」

「うーん、そうだなぁ……」

「「ロァァアァァァア!!!!」」

「そうそう、こんな声……って!? 今のはロアボア咆哮! どこだ!」

「村の方から!」

 ってことは……俺とマルキムが喋ってるうちに村の方に入ったのか? ちょっと、これはマズいかもね……

 動揺を押さえ、俺とマルキムは村に走る。大事になってなきゃいいんだけど。

 ロアボアが一体、もしくは二体なら問題ないけれど、もしも三体とかいたら間に合わないかもしれない……!

 俺は力の限り村へと走る。

「村が見えた!」

「ロアボアはどこに……っ!」

 そこには、ロアボアが複数体いた。それも、一体や二体じゃない。

 その光景を見て、マルキムがうめく……

「ロアボアの成獣が四体、だと……ッ!」

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