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5話 初戦闘なう

 サッとゴブリンを一瞥する。三角の黄色い目と、小さい牙。緑の体色はドブのような色で気持ちが悪い。そして最も目立つのは額から生える灰色の角。

「確か……なんだっけ」

 正式名称をガイドブックで見た気がする。えっと……

「ホーンゴブリンですね。Fランク魔物です」

 そう、それ。ホーンゴブリン。

 この世界ではポピュラーな魔物らしく、ガイドブックには『一般人でも一対一なら勝てる』と書いてあった。

 ただホーンゴブリンは集団でいることが多く、さらに武器などを持ってる場合もあるので注意が必要とのことだ。

 ご他聞に漏れず、目の前にいる奴らはしっかりとショートソード的なモノを持っている。ボロボロだが、武器には間違いない。

 そんなゴブリン共は俺の方を見ると、エサでも見つけたとでも言いたそうな笑顔でキィキィ言いながら走り寄ってきた。

「キキィ!」

 ――こんな性格だから喧嘩したことくらいはあるけど、さすがに命のやりとりは初めてだ。慎重にならざるをえない。どうなるかね。

 俺は腰だめに夜の槍を構え、走り寄ってくるゴブリン共をめがけて突進する。

「ふっ!」

 鋭く息を吐きながら一匹目のゴブリンを、ザンッ! と唐竹割りに真っ二つにする。……凄いね、これ。バターみたいに斬れた。

「キ、キキィッ!?」

 ゴブリン共に動揺が走る。俺はその隙を逃さず、さらにもう一匹の脳天を串刺しにする。

「キヒャァッ!」

 二匹も既にやられたゴブリンズは俺から離れると、警戒した面持ちになっている。遅くない?

(しかしステータスって凄いね)

 こんなに身体が動くとは思ってもなかった。ふむ、救世主パワーって凄いね。

 でも、そうか。ステータスだけで言うなら――王様の話を聞く限り――俺って、人族の中でもトップクラスのステータスだからね。このくらい出来て当然なのかもしれない。

 とはいえ、こんなに槍が上手く扱えるのはなんでだろうか。

(……やっぱり、この『職』とやらのおかげなのかな? ここまで補正がかかるとは思ってなかったけど)

 結構余裕の出てきた俺だけど、まだ油断はしない。正面に夜の槍を構え直し、相手の出方を伺いながらジリジリと距離をつめる。

 槍の間合いに入った瞬間、

「シッ!」

 という掛け声と共に、残りの三匹のうち二匹を串刺しにした。王城にあっただけあって、この槍は性能が良さそうだ。

 ピッと血を払うと、その隙に残った最後の一匹が逃げ出してしまった。

「逃がさないけど、ねっ!」

 俺がぶん投げた槍がゴブリンの背中に綺麗にぶっ刺さると……

「キキッ……」

 ドサリ、とゴブリンが倒れた。ふぅ、これで全滅かな。

「流石ですな、あっという間に全滅させてしまうとは……」

「完全にステータス頼みだけどね」

 苦笑いしながら肩をすくめる。

 俺がこうして無双できたのはステータスと……この槍のおかげだね。

 ゲームとかだとこの手のイベントでもらった武器って全然使えなくて、すぐに売るパターンだけど……これなら長く使えそうだ。

「では、解体作業もされますか? 私の解体用ナイフの予備をお渡ししますので」

「あ、本当? ごめんね、ありがとう」

 俺は渡された解体用ナイフを持って、ゴブリンの亡骸に近づく――と、

「キィッ!」

 最後に槍をさしたゴブリンが生きていたらしく、むくりと立ち上がって俺にショートソードで斬りかかってきた。

「キョースケ様!」

 おっさんの焦った声が聞こえる。けど、この程度なら想定済みなんだよね。

「よっ、と」

 俺はショートソードを躱し、解体用ナイフで首を刎ねる(解体用ナイフ案外切れ味いいね、凄いな)。

 ポーンと首が飛んでいき、ホーンゴブリンは今度こそ息絶えた。

「ふう、やれやれ。さて槍を回収して、と」

 俺は刺さっていた槍をゴブリンから抜き、持ち上げる。するとその瞬間、

『職スキル』、『投槍突』を習得しました

『職スキル』、『ファングランス』を習得しました

 なんて頭の中に響いてきた。

「おや?」

 もしかして、そう思って俺はステータスプレートを確認する。

  -------------------

名 前:清田 京助

『職』:槍使い

職 業:異世界人

攻 撃:700

防 御:700

敏 捷:700

体 力:700

魔 力:700

職スキル:三連突き,飛槍撃,投槍突,ファングランス

使用魔法:無し

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 おお、増えてるぞ『職スキル』。まだ一度も使ってないのに。

「なるほど、さっきのは『職スキル』を習得しましたっていう報告なんだね」

 戦うと増えるってことなんだろうか。ふむ、後でガイドブックを確認してみよう。

「……と、そんなことより解体しないと」

 俺は解体用ナイフを構えて、とりあえずゴブリンの心臓辺りを切り出す。すると……

「あ、これが魔魂石ってやつだね」

 中から直径五センチほどの、紫色の宝石みたいなものが出てきた。これは魔魂石と呼ばれる物で、魔物にはなくてはならない物らしい。

「こんな時こそガイドブックを。えーっと、なになに……」

『この世界における魔物とは魔力を持った人語を解さない生物の総称である。

 特徴として全ての魔物は体内に紫色のゴツゴツした宝石のような魔力の塊を持っている。

 これは魔魂石と呼ばれており、それを失うと魔物は溶けて無くなってしまう。その際、俗に討伐部位と呼ばれる魔力が最も高い部分だけが残る。

 魔物にもランクがあり、そのランクによって魔魂石の大きさは変わる(例外を除く)』

 なるほど、つまり魔魂石っていうのは魔物の核か。で、これを抜き取ると溶けるって書いてある。本当だろうか。

 そう思って魔魂石を抜いたゴブリンを見ると、確かに角を残してドロドロになり……消滅してしまった。何か凄いね。

「まあ楽でいいか」

 なんてこと言いながら、他のゴブリンからも魔魂石を抜き取る。

「ふぅ……これで全部剥ぎ取った、と」

 たいした金にはならないだろうけど、一応全部集める。……魔物の討伐部位はやっぱり売れるんだろうか。

 もしかしたらこれのおかげで楽にAGになれるかもね、なんて益体もないことを考えながら、馬車の方に戻る。

「おっさん、終わったよ」

 それはそうと……生き物、殺しちゃったなぁ。しかも、罪悪感が無い。

 極端なことを言うなら、蚊を叩きつぶしたときみたいな感情。作業を終えたって感じだ。

 昨日、殺したくないだのなんだの言ったばかりなのにね。

「そうですか。では行きましょう」

 そう言って馬車に乗り込んだおっさんが前を向いた瞬間――ズン! ともの凄いなにかを踏みしめるような音がした。

「?」

 俺が怪訝に思って馬車に乗る前に音のした方を向く。すると、そこには……

「ま、まさかこんな所に……」

 御者のおっさんがかなり動揺してる。それもそうたろう、魔物が出てきたからね。それも――なんか、ヤバげなのが。

「……えっと、このデカい化け物は、何?」

 体長は三メートルくらい。頭が豚で大きな牙が生えており、茶と橙が混ざったような筋肉隆々の体をしている。

 そして右手には真っ赤な斧。……いや、手に持ってるんじゃないね。カマキリみたいに右手が斧になってる。

「ブォォォォオオオオ!!!」

 天を仰ぎ、大声で鳴く化け物。地面を踏み鳴らし、斧を振り回す様は悪鬼か羅刹か。……流石に、これは俺でも恐い。

 ガイドブックにも載っていなかった気がするので、おっさんに再度訊いてみる。

「おっさん……あれ、何?」

「あれはBランク魔物、アックスオークです!」

 あれがBランクか……というか、アレでBランクなの? 嘘でしょ……そうなると、Sランクとかだとどんだけ怖いのかな?

「……おっさん、下がってて。俺がやるから」

 ヒュン! と夜の槍を一回転させ、アックスオークの前に出る。

「ブルルル……」

 向こうも殺る気満々ってムードを醸し出している。ふぅ、やれやれ。

「異世界一発目の戦闘のすぐ後が、こんな化けモンか……ついてないね、俺」

 夜の槍を正面に構えて、対峙する。

(――さぁ、バトルスタートだ)

 腰を落とし、切っ先を相手に向け、油断なく構える。

 さて、さっきのホーンゴブリン相手には圧勝してしまったから……これが生まれて初めての『殺し合い』になるのかな? はてさて、どうなることやら。

 正直、結構恐い。まあ、そんなことも言ってられないんだけどね。

「ブォルルォオル!!」

 アックスオークが、右手の斧を振り下ろしてきた!

「チッ!」

 上体を寝かせることでその一撃を躱し、左足を軸にして半回転。アックスオークに向かって一歩踏み込む。

 ――これだけの巨体だ。懐に踏み込まれるのには弱いはず!

「ブォォォォオオオオ!!!」

 アックスオークは近づかれるのを嫌がったのか、左手で振り払うように俺を薙いできたけど、俺は屈んでそれを避けた。

 そして起き上がると同時に、『職スキル』を使用してみる。

「『三連突き』!」

 スキル名を叫ぶと同時に、俺の身体が淡く光り勝手に動き出した。

 左足を強く踏み込み、腰、肩、肘を同時に動かす。そして目にもとまらぬスピードで三連続の突きをほぼ同時に・・・・・繰り出す!

「ブォォルオル!!?」

 ズドドン! とおよそ槍で突き刺した音でなく鈍器でぶん殴ったような音がして、アックスオークが吹っ飛んでいく。

「っつ」

 手が痺れる。生物を突いたとは思えないような感触が返ってきた。尋常じゃない硬さだね。俺が突いた部分が赤鬼みたいになっているし。効いている雰囲気が無い。

 ふしゅぅぅぅ……とアックスオークが息を吐き出すと、赤くなっていた部分は元の体色に戻った。

「なんだこの化け物……まさか物理無効とか言わないよね?」

「ブルルル……」

 それでも……今の攻防でやや余裕が無くなったのか、アックスオークは少し離れたところから警戒心も露わに俺の動向を伺っている。

「さて……もう一つのスキルも使ってみようかな。『飛槍撃』!」

 スキル名を叫ぶと、またも俺の身体が淡く光り勝手に動き出した。

 腰を落とし右手だけで槍を持つと、タメを作るようにグッと身体を後ろに捻る。そして手首で回転を加えながら槍を前に突き出す!

「シッ!」

 ボヒュッ! と破裂音と共に槍の穂先から青白いエネルギーが飛び出した。それは直径三十センチほどのクナイ――忍者が使う飛び道具――のような形をしており、真っ直ぐアックスオークに向かって飛んでいく。

「ブオ!?」

 まさか飛び道具がくるとは思わなかったのか、それはアックスオークの左肩に当たり肉を抉る。

 って、抉れた!? 何その威力!

「ブォォォオオ!!」

 アックスオークの左腕がダランと垂れ下がる。

(……待てよ?)

 さっき奴の体が赤くなっていた部分には攻撃が通らなかった。しかし今は体色が赤くなっておらず、俺の攻撃によって肉が抉れた。

 なら……あの体表が赤くなることに俺の攻撃を防いだ秘密があると見た。

 それはつまり――

(奴の身体を赤くさせずに攻撃するか、赤くならないところに攻撃すれば倒せるはず!)

 俺の仮説が正しく、あの赤くなるのがなんらかの能力によるものならば、体表のみ防御力を上げるのかもしれない。

 だとしたら……

「ブォルルォオル!!」

 ドスドスとまっすぐ俺に突っ込んでくるアックスオーク。肩を抉られて怒ったかのかな。まあ、戦闘だからそんなこともあるよ。

「ふう、やるか」

 アックスオークが斜めに斧を振り上げるので、俺は下からそれを槍でブッ叩き軌道を逸らす。斧の下を潜り、今度はアキレス腱の部分に槍を斬りつける。

 しかし――

「チッ」

 ガチィン! という激しい音がして槍が弾かれた。よく見ると、俺が攻撃した部分が赤くなっている。やっぱり赤くなる=防御力アップっていうので間違いない、かな。

 その勢いで背後に回り込み追撃しようとした刹那、アックスオークが振り向きざまに右手の斧で俺の足を払ってきた。

 ジャンプしてそれを躱し、ついでとばかりに空中でスキルを起動させる。

「『飛槍撃』!」

 硬化出来ないと推測する場所――目を狙い、飛槍撃を発動させる。

「ブォオオォオ!?!?」

「っしゃ!」

 空中で一回転し、着地すると同時にバク転で距離をとる。もう一度構え直し、『飛槍撃』を当てた目を見ると……

「ブルォオオォルオルォ!!!」

「ブーブー煩いよ? 豚頭」

 ちゃんと左目があった部分に大穴が開いており、噴水のように血が噴き出ていた。これで片目は封じたね。

 さらに追撃。フェイントを織り交ぜ、右足、左足、腰を中心に低く低く攻める。なるべく意識が上に向かないように。

「ブルルル!!」

 すると、アックスオークはやたらと斧を振り回し始めた。片目が潰されたからか、はたまた俺がチョロチョロ動くからか。とにかく大分焦ってる様子だ。

(チャンス!)

 大振りになった斧が地面に叩きつけられた瞬間、一気に距離を詰めて、右肩、左脇腹、そして右目に『三連突き』をぶちかます。

 ズガズガブシュッ! と、派手な音が鳴る。右肩、左脇腹まではちゃんと赤くして防御していたが、やはり目までは硬くできないのか右目は貫けた。

「これで両目とも潰したね。さて、どうするのかな?」

 俺が夜の槍を構えなおしジロリとアックスオークを睨み付けると……なんとアックスオークは胡坐を組んで座り込み、右手というか斧で顔を覆うようにして静止してしまった。

「……なんだ、それ?」

 チャンスか? いや、それにしては隙だらけ過ぎる。誘ってるのかもしれない。

 俺が攻めるかどうするか迷っていると、なんとアックスオークの全身が赤くなった。

「! ……なるほどね、完全防御姿勢ってところか」

 しかもよく見ると、さっき抉った左肩がジワジワと治っていっているように見える。強力ではないとはいえ、回復能力まで持ってるのか。

「完全に回復されると面倒だね。今倒さないと」

 バンッ! と勢いよく地面を蹴り、一気にアックスオークに肉迫する。

 生半可な技は通用しないだろうと思い、ほぼゼロ距離で『飛槍撃』を放つ。

「シッ!」

 ズドンッ! と気味のいい音が響くが、アックスオークはなんとか耐えたようでまだ防御姿勢を続けている。

「くそっ!」

 ならば別の技を――そう思って『三連突き』を放つが、やはり効かない。となればさっき覚えたての……

「『ファングランス』!」

 またも身体が勝手に動き、槍を両手で左肩の傷口に突き出す。するとなんと槍の先から大きな顎門が出てきて、アックスオークの左肩を喰ってしまった。

「これは凄いね」

 そのまま槍を振り下ろす。当然、喰ってる左肩から下も一緒に落ちる。つまり――左腕が切り落とされた。

「ブォオオォオ!?!?」

 いくらなんでもこれは効いたのか、大口を開けて痛みに叫ぶアックスオーク。

「今だっ!」

 狙うは口内。目が硬く出来ないんだ。つまり、アックスオークが硬く出来るのは体表だと思われる。そう考えると、ここも硬く出来ないはず!

 しかし、アックスオークの口は今にも閉じられようとしている。もっと速く槍を突き出さないと――

(――そうだ!)

 その時、頭に昔読んだ漫画のワンシーンが思い浮かんだ。曰く、全身の関節と筋肉を同時に動かすことによって、拳の先端速度が音速を超えるとかいう馬鹿げた……というか、馬鹿丸出しの漫画。

 でも、今の俺は漫画みたいな身体スペックをしている。もしかしたら、それが出来るんじゃないか?

 俺はそのマンガで見たように、足首、膝、腰、肩、手首を同時に動かし槍を加速させていく。

「届けっ!」

『職スキル』、『音速突き』を習得しました

 スキル習得音と同時に、パァアーン! と槍の穂先から銃声のような音が鳴った。槍が閉じられかけていた口内にたどり着き、アックスオークの口の中を貫通する。

 しかし――アックスオークもさすがにタフで、右手の斧を振り上げてくる。

 口内を貫いたのに、まだ動けるんだね……けど、そこまでは想定済みだよ。

「よしっ……もう一発!」

 間髪入れず、俺は『ファングランス』を発動する。

 槍から出た顎門が、アックスオークの頭を食い散らす。

「こいつで……仕舞いだっ!」

 ザクッ! と槍を下に振り抜き、アックスオークの顎から上がちぎれ飛ぶ。

「オルォォ……ウゥゥルゥ……」

 おびただしい返り血が俺に降りかかってくるが、今は気にすまい。

 死闘を乗り切った喜びに、浸っていたいからね。

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