「ほーら〜!だから言ったじゃないッスか」
中央警察――クランズカロライナ支部内は、二種類の制服を着た人間達でごった返していた。
「国立魔術犯罪捜査官の我々ですらしっぽを掴むのに苦労してるのに、普段市民平和を守ってる警察署〜♪なんかに突撃したって有用な情報なぽこぽこ出てくるわけないんㇲよ」
「…誤算……だ。ここまで警察が機能していない……とは…」
ㇲよㇲよ喚いているのは、金髪ショートヘアの巨乳女性。タレ目。
考える人のポーズでボソボソと応えているのは目にクマを作った40代男性。彼女の上官らしい。
共に私服の上に『魔術犯罪捜査官』と書かれたジャンバーを着込んでいる。
「魔術捜査に詳しくない警察官もおりますからねー!は〜あ!これだから北から離れた場所は嫌なんでㇲ!」
「有用な情報が掴めなかった……とは…いえ、先日起きた事件……は、間違いなく……我々が追っている…シスコン食人男の犯行だ…」
上官らしい男が朝刊をひらひらと振る。
朝刊のトップを飾っている記事は――
『食人男、クランズカロライナに現る。』
路地裏で少女の変死体が発見された。年は10代半ば。
現場に残された魔術痕から、カロライナ市警は魔術犯罪と断定。
1年前から続いている少女連続殺人事件の新たな被害者の可能性あり。
「殺人事件の被害者が……都市部に出たのは初めて……だ。…都市でこのような事件が起こると民衆が……騒ぐ。…また、魔術犯罪捜査官が週刊誌に叩かれて……ワタシの車が…小石投げ攻撃によってボコボコにされて…しまう……早急に手を打たねば……」
上官の男は胸ポケットから愛車の写真を取り出してほろりと泣いた。
「えーっと…被害者への追悼の気持ちとかはないんㇲね……」
呆れた顔で金髪ショートの部下がそう言った。
彼らが追っている『シスコン食人男』とは――
名の知れた指名手配犯だった。
その罪は、20人余りの少女を『悪意ある手法』で殺害した罪。
被害者の少女は何れも白髪。
年は大抵が10代半ばだ。
男は高等魔術の使い手で、現場に痕跡はたっぷり残す代わり、
その後の消息が見事に読めないことで有名だった。
「……有名魔術家の血筋…というものは、……時折厄介者を産んでくれるから困る……な…」
「とかいってやつれパイセンも、ハンドラ家の血筋じゃないッスか」
「…私は……正しく成長したから……問題ないの……さ」
この世界では北部地方に行くほど魔力層が濃く、魔術を扱える人間が多い。
その中でも、北部地方にはいくつか有名魔術家という名高い血筋が存在する。
有名魔術家の者達は魔術の扱いに秀でた者を番として求め、血を濃くしていったいわばエリート達。
「魔術の扱いに…長けているから……と言って…人格も長けている…わけがない…。どちらかといえば……人格に問題のある…やつの方が多い…元々問題がなくても…危険は伴う…」
「…魔術で安易に人を…殺すことができる…その驕りが、…どこかで、人格の…歪みになる」
やつれた上官は目を細め、何かを思い出しているようだった。
「何度も聞いてまㇲよその話はぁ。どーするんㇲか?この後現場の魔術痕見に行きます?警察のせいで、もうほぼ残ってないでショーけど」
「そう…だな」
上官の男は新聞を器用に折りたたみ、ポケットにしまった。
代わりに小さな手帳を取り出し、あるぺージを開く。
「現場に…治癒魔術の痕があるか……確認したい……ああ、あとで遺体も…見に行こう。…今までと同じように、」
男は手帳に貼ってある写真を天に掲げて見上げた。
「奴の妹に…クリソツかどうか…を」