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54話 仕掛け(3/4)

四環のうち二本は、天使達に回収された。

天使としては、天界を脅かす可能性のある四環を、できるならば四本とも回収したかったようだ。


しかし、クリスが持っていた『風』と『雲』については、正式な守護者がいるからとリルが断固拒否した。

天使達は、環の正式な守護者を把握しているらしく、久居が、クリスが一度だけ告げたフルネームを答えたところ、意外にあっさりと環を持ち帰る許可は出た。


そうして、『風』と『雲』はリルがクリスの元へ無事に届けられた。


その一方で、『雪』と『陽』は現在、天界にあった。


天界の最奥にある大神殿。

その地下深くに、古い古い研究所がある。

昔から、人に知られてはならないような、表には出せない研究ばかりをしてきた。

そこは、そんな場所だった。

環の力を解明し、可能ならば、それを利用または制御する。そういう意図だろうか。

そこへと運び込まれた環は、二本とも別々のケースに入れられ、誰の手にも触れないよう、幾重にも結界を張られていた。


しかし、今、地下研究所は熱気に包まれており、もはや生身で近付ける者はいない状態になりつつある。

地下研究所から漏れ出した熱気は、じわりじわりと広がって、今や大神殿を包み込もうとしていた。


-----------


キルトールは、レイの両腕両足を術で寝台に固定すると、ケーブルを、これも術で強引に取り付ける。

レイと機器の両方へ手を翳すと、キルトールは目を閉じ意識を集中させた。

「義兄さん! 義兄さんっ! っ嫌だ!! やめてくれ!!」

……が、目の前でじたばたともがき懇願するレイの声に、その集中は途切れる。

苛立ちを堪えながら、キルトールが低く命じる。

「少し黙っていなさい」

「義兄さんっ!! 俺は、忘れたくないんだ!!!」

けれど義弟はその口を閉じる様子がない。

(仕方ない、まずは精神攻撃で意識を落とすか)

術式を切り替えるべく腕を上げ直すと、ポタリと顎から汗の滴が落ちる。

暴れているレイが汗だくなのは分かるが、気付けばキルトールの全身にもじわりと汗が滲んでいた。


(暑い……)

この暑さも、精神の集中を阻害していると、キルトールは気付く。

(しかし、何故……)


その時、研究所の戸がけたたましく叩かれた。

「緊急招集です! キルトールファイント様! 至急大広間へお越しください!!」

その声に、キルトールはこの暑さこそが招集の原因だと気付く。

手前の部屋で待機していた助手が戸を開けたのか、いくつか言葉をやり取りしている気配がある。

キルトールは防音になっている実験室の戸を開けて、二つ隣の部屋まで聞こえるように叫んだ。

「分かった! すぐ向かう!!」

向こうから「お願いします!!」と叫び返す声がして、そのまま走り去る音が聞こえた。


関係者や研究者が呼び集められているのだろう。

まだ伝令は次に急ぐ先があったようだ。


キルトールの研究所は地下研究所からは遠く離れた上階にあった。

最上階の一つ下。

最上階には今でも、あの頃の自分やクオンのように、鎖に繋がれた者達がいた。


キルトールは、義弟に視線を戻す。

レイザーラは汗と涙でぐっしょりと濡れ、不安そうにこちらを見上げていた。

「今の、は……?」

暑い最中に暴れたせいか、息も上がっているようだ。

ここにレイザーラを置いて行けば、この異変が抑えられなかった場合に、余計面倒な事になるだろう。

かといって、この暑さの中では、レイザーラの意識を落としたところで冷静に術を実行するのは難しそうだ。

キルトールは大きくため息をついて、渋々義弟の拘束を解きながら言う。

「仕方がない。お前もついて来なさい」


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