フリーは、生まれる前からずっと、ボクと一緒だった。
雨が降り続く日も、ぽかぽかのお天気の日も。
お母さんの帰りが遅くて不安な夜も。
学校に行くのが憂鬱な朝も。
ボクのすぐ傍には、いつもフリーが居てくれた。
ボクが道に迷うときは、いつもフリーが手を引いてくれた。
フリーも一緒に迷子になっていても、それでもフリーはボクの手をぎゅっと握って、いつもボクの前を歩いてた。
覚えてはいないけど、多分、お母さんのお腹の中に居たときから、
フリーはボクの手を握っててくれたんじゃないかと思う。
けど、あの日は違ってた。
フリーは、ボクの方を一度も振り返らずに、真っ直ぐコモノサマのところに走って行った。
ボクは今まで何度も見たその後ろ姿を、初めて、知らない人のように感じたんだ。
あの後。
ボクが気付いたときには、フリーはもう動かなくなってた。
ボクじゃなくて、コモノサマの手を、両手でしっかり握り締めたまま……。
だから、ボクは……。
……ボクは……。
ボクは、フリーを起こさなきゃいけないんだ。
ううん。
ボクが、フリーを起こさなきゃいけないんだ。
フリーに言わなきゃいけないことが、ボクにはいっぱいあるから。
[リルは、青緑色の膜の中で動きを止めたままのフリーを見つめる]
修行もね、ちゃんと頑張ってるんだよ。
お父さんは、いつもあんなだけど、へらへらしてるだけじゃなかったんだよ。凄かったんだよ。
術を使うときとか、時々ね、お父さんとっても恐い顔になるんだけど、ボクちゃんと修練頑張ってるよ。
けどね、まだね、その……うまくできないんだけど……。
久居は、そのうち出来るようになるって、焦らなくていいって言ってくれるんだ。
フリーはボクがちょっと失敗すると、すぐぐりぐりーってしてたけど、久居は全然そういう事しないんだよ。
むしろね。とっても失敗しちゃったときとかは、すっごく心配してくれて、優しくしてくれるの。
あ、でもね、ボクは、フリーがぐりぐりーってするときにも
心配してくれてるのとか、ちゃんとわかってたよ。
…………たまにはね、フリーに、ぐりぐりーってしてほしいなって、思うこともあるんだよ……。
あっ、ゴメン! やっぱ無し!!
今の嘘だからね!!
フリーのぐりぐりを思い出しただけで頭痛くなってきたよ……。
だってさ、フリーって、ぐーにトゲ作ってぐりぐりするんだもん。やり方が凶悪なんだよ。
……あれ?
何の話してたんだっけ。
ぐりぐりの話しじゃなかった気がするんだけど……。
と、とにかくね!
ボク頑張るから!!
もうちょっとだけ、そこで待っててね。
コモノサマもいるから、一人じゃないから、淋しくないよね。
[リルは、二人の置かれた部屋の戸をパタンと閉めて、ふっと気付く]
ああ、そっか…………。
……ボクも、ずっと一人じゃなかったから。
今まで、ずっと……淋しくなかったんだね……。