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二人の記憶

連れて来られた先は私の家からは少し遠い場所にある喫茶店だった。

見知らぬ店、周囲を見回しながら男に続いてドアを潜る。

静かな雰囲気だ。

「知り合いと待ち合わせをしててな」

どこだろうな、と言いながら男は店内を見回す。

私もそれを真似して見回すものの、

男が「ああ、いたいた」と席に歩いていくときまで、その知り合いが誰なのか分からずにいた。

「悪い、遅くなっちまったわ」

と、男が相手に声をかける。

すっと、隣の椅子を引く男。座れということらしかった。

「――――いいや、私も色々あって今来たようなものだ」

澄んだ声が響く。

知り合い――――それは、男と同じくスーツを見に纏った女性だった。

目元から少しキツい性格を思わせるが、口調からは落ち着いた印象を受ける。

「「それで、」」

その女性と男が同時に口を開いた。

私は目を見開く。

「「そいつは誰なんだ?」」

女性の視線の先には私が。

そして男の視線の先には、

――――女性の隣に座る、眼鏡の若い男が。

「そりゃ、一発かましたって感じだな」

男は笑いながら指を差す。

顔に痣、

そして服に血を垂らした若い男は、バツが悪そうに舌打ちをした。

「――タカクラ、お前の方は何だ。見るに、私のように一発かましたわけではないんだろう?」

女性は私の方をちらりと見た。

タカクラ、それがこの男の名前かと、私は頭の中で復唱する。

「こいつ?」

ばん、と背中を叩かれる。

「――弟子にでもしようかと思ってさ」

弟子――

私は少し驚いて男の方を見た。

「ほう――弟子ねえ」

女性は少しおかしそうに笑う。

「丁度引継ぎの時期だろ。いつ死ぬのかも分からねえ。早いうちに作って置かないと名前が消えちまうよ」

「まあ、確かにな――――」

女性はそう呟きながら、横目で隣の眼鏡の男をちらりと見た。

当の若い男は、不機嫌そうにそっぽを向いている。

「――――じゃあ、私はお前を弟子にでもしようか――――私を口説きに来た坊や」

ふっと女性は笑う。

「もう坊やって年じゃねーし」

ギロリと眼鏡の男はにらみ返す。が、顔面の傷のせいでまったく怖くない。

まあ、と女性は続ける。

「私は全然そんなつもりはなかったのだし、君は勝手に帰ってくれていいんだけどな」

女性は先に注文していたらしいクリームソーダの溶けたアイスを混ぜる。

「いや」

と、テーブルに声が響く。

「なるけど? 弟子」

私と男、そして女性は一点に視線を向ける。

その先では眼鏡の男が肘を突いて顔を背けていた。

それを見た男はくっくっと笑った。

つられて、女性もため息のような笑いを漏らす。

「相当な負けず嫌いだ、これは」

ふと、視線を感じて目を向けると、眼鏡の男が私を見ていた。

いや、睨んでいたのか。

私は一つ瞬きをした。

この日、

私――――深沢宗谷と、

眼鏡の男――――城崎慶介は

殺し屋の弟子となる。

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