「……フォロバはされたか」
俺は少しだけ安堵して、深く息を吐いた。
楪という名前で小説の投稿を開始して半年。SNSも同じ頃に作った俺は、実は毎日、たった今フォローした怖さんのアカウントをフォローするタイミングを探していた。理由は簡単だ。俺が
俺は怖さんに近づきたい一心で、その投稿サイトの作者になった。ランキングに絶対入るような題材をチョイスし、世界観や登場人物諸々を理詰めで考え、これまで確実に一位を得てきた。いわゆる人気作家と呼ばれるように、自分をプロデュースする事も忘れなかった。そのため……SNSがどちらかというと、色んな意味で個性的な怖さんをフォローするとイメージがぶち壊れるという最大の障壁にぶつかり、仕方が無いのでこれまでは読み専アカウントを使ってそちらでフォローし遠くからひっそりと反応をするだけにとどめていたのだが、どうしても認知されたかったし直接話したかったし、という欲望に負けてフォローした。元々作者になったのは、それが目的だ。
さて、この怖さんであるが……本当に作品は天才的だとしかいいようがない。面白くて天才的な作品とは、ランキング順位とイコールではない。やはり読みやすさであったり色々な要因で、順位などは変動する。俺の場合はそれらも計算計づくでランキングにあがるようにしているが、怖さんにはまるでそれがない。
本当に作品の内容が面白い以外の取り柄がまるでない。
誤字脱字誤用、文法の異常、それらはおろか、数行前の登場人物の名前が、五行後には別の名前になっており、それが主人公の名前だったりする。小説以前の問題である。彼の小説を読むには、脳内変換とスルースキルが必須だ。
でも、でもだ。
それでも読んでしまう。俺のツボにぴったりとはまっているだけなのかもしれないが、いいや、どう考えても面白い。俺だったら、読者受けを考えたら、絶対そんな展開は書けないし、そもそも書かないと言うような作品を躊躇無く書いているというのもあるが、つきささってくる。萌えがすごい。
「……まだ連載は再開しないんだろうか。繋がったタイミングだし、その作品が好きだと伝える事は不自然では無いだろうが、更新催促と取られたら困るな」
俺はブツブツと呟く。
それから、怖さんのSNSのホーム画面に飛んだ。彼のアカウントは、一応創作アカウントのはずなのだが、プライベート情報も混在している。猫を飼っていて一人暮らしの様子だ。
「……これ、危ないな」
俺は窓から撮影したらしき風景を見て、心配な気持ちになった。
完全に住所はおろか住居まで特定可能な写真が、たまに流れてくる。その気になれば余裕だ。しかも、SNSに投稿されている内容を見る限り、かなり俺達は近所で暮らしている。これは本当に偶然だ。別に俺がストーキングして引っ越したわけではない。
しかし、と、考える。
俺は物心ついた頃から、努力して生きてきた。完璧な自分を目指し、できうる限りの全てのことを行い、結果を手に入れてきた。小説だってそうだ。
元々俺は、別の名前で、他の投稿サイトに投稿していた。小説自体は、かなり前から書いている。俗に言う――秀才型。それはまさに自分だろうと思っている。時に人は、俺を天才だと言うが、全く違う。俺はかなり努力しているが、それを見せないだけだ。
そして必ず、俺の人生には、どのジャンルでも立ちはだかってくる存在がいる。
それが、天才だ。
どこからその発想が出てきてしまったんだ……? というような、俺のように計算して流行に乗るのではなく、流行を生みだしていき、それが流行になった頃にはもういなくなっているような存在……それはただの側面だが、そういう天才的な部分だけは、努力では補えない部分だ。
俺は、小説投稿サイトにおいて、怖さんという存在に、今天才性を見いだしている。
実際、本当に彼は天才だと思う。
ただ……その天才的な部分、小説の内容以外は……ちょっと……疑問はある。
だが繋がりたくてたまらなかったので、フォローしたことに後悔はない。
「これから、少し様子を見つつ、交流してみるか」
俺は関係の構築方法もまた、脳裏でばっちりとシミュレーションした。