「泰雅っ……」
夢と現が分からない。分からないままで、俺はただ無我夢中で泰雅の背に手を回していた。
体が熱い。
――ああ、俺は今何をしているんだろう。
この前の記憶が、夏だ。
俺は、寂れた神社の境内で、泰雅に抱きしめられてはいなかったか?
その腕の感触が、酷く嬉しくて優しくて、泣いてはいなかったか?
そんな記憶とは裏腹に、俺の脳裏には、この『半年間』の記憶が過る。
「辛いか?」
「平気だから……もっと」
「煽るな馬鹿」
ああ、泰雅は時島とは違う。そんな事を不意に思った自分に、吐き気がした。
泰雅は優しい。
我ながら虚ろな瞳をしていると思う。涙で霞んで、世界が滲む。
瞬きすれば、その暗闇に、蛇の瞳が映った気がした。けれどそれはきっと気のせいだ。
時島は、ここにはいないのだから。
事後――俺は、ぐったりと体を布団の上に預けていた。
すると泰雅が、横に寝転がった。それを見ながら俺は嘆息する。
「俺、何やってんだろ」
「左鳥は悪くない。『新しい一年』が来る事は、俺が保証してやるよ」
「泰雅……」
「お前を奪わせたりはしない――『鐘』なんかに」
嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼、あゝ、あ、ア……。
その言葉に、俺の脳裏をある光景が過ぎった。鐘の音に煽られるように、規則正しく並んで進んでくる、尺八を吹いた修道僧達の姿だ。浮かんでは消えていく。瞬きをする度に彼らは進む。終着地を目指して。目的物は、『俺』だ。脂汗が噴き出して、息が苦しくなる。