弟の元――東京から家に戻ると、両親が慌てていた。
「どうかしたの?」
車庫に車を入れてから尋ねると、父が隣家を一瞥した。
「
隣家のご主人の名前に、俺は目を瞠った。
実家の界隈は死に溢れかえっているから、毎日のようにどこかで葬儀がある。
ただまだ、五十代だったから、若いなと思う。
この土地には、隣組という制度が残っているから、お葬式の手伝いは俺の家族もする事になる。ちょっとしたお手伝いという程度ではない。かなり大規模に一部を担当する。
「ちょっと家を空けるから、ゆっくりと休むんだよ」
父はそう言うと、そのまま隣家へと向かい、母は俺と共に家の中へと入ってきた。
「右京は元気だった?」
「ああ。すっごい社会人って感じだったよ」
俺が笑って答えると、母が不意に一枚の紙を差し出した。
「なにこれ」
「サト君が戻ってきたって聞いて、青年団に入らないかってお誘いがきたの」
青年団というのは、この地区では未婚の男女が入る組織だ。
何歳になろうとも未婚ならば青年団に入る。父のように既婚だと、男なら宥和会、女性なら婦人会に入る。その後はどちらも老人クラブだ。
青年団の加入条件は三つだけだ。
二十歳以上で、この土地に住んでいて、そして――この土地で生まれ育った事。
引っ越してきた人々等は入る事が出来ない。
最近は人手不足だと言いつつ、不思議な物である。『内の事は内で』という、民俗学的な差別要素が残っているのかもしれないなと、以前、泰雅が言っていた。
「断っておいて」
「そう言う気がしていたけど……あんまり引きこもってばかりでも良くないんじゃない?」
「母さんに迷惑はかけないよ」
「迷惑だとかそう言う話じゃないの。家族なんだから」
「有難う」
俺は笑顔を取り繕ってひらひらと手を振ってから、自室へと戻った。
両親は俺に良くしてくれる。
少しは俺も、何か手伝いがしたいと思った。
葬儀は翌日で、俺も参列する事になった。
当日――外を歩いていると、丁度黒塗りの車のドアが開いた。出てきたのは泰雅だった。小さく息を呑んだ時、視線が合う。泰雅の方も僅かに目を見開いていて、それからそれは鋭い眼差しへと変わった。
すれ違う瞬間は、互いに無言だった。
泰雅は大勢の人々に囲まれていたし、俺は一般客だ。
ただ静かに目を伏せ、俺は道を譲った。
――泰雅からの連絡に、俺は未だに返事をしていない。
けれど泰雅は、右京と連絡を取っていたみたいだから、まぁ良いか。袈裟を纏っている泰雅は、いつもとは違う印象だった。有髪だが、きちんとした、僧侶に見える。
それから自宅に戻り、俺はパソコンを起動した。