――そんなある夜、時島が外出すると言ってきた。「どうしても外せない用事だ」と言っていたから、どんな用事なのかは聞かなかったし、教えてもらわなかった。
ただ俺は、この慣れきってしまった体をどうすれば良いのか分からなくて、一人毛布にくるまっていた。燻ってこみ上げてくる熱に、困り果てる。熱に浮かされたように、俺は冷や汗がこみ上げてくるのを感じていた。今夜は時島が帰らないという。どうしよう。どうしたら良いんだろう。もう俺の体は、毎日体を重ねなければ、駄目になっているようだった。必死で堪えながら、俺は気を紛らわそうと携帯を弄る。連絡相手は紫野だ。何か怖い話でもしようと思ったのだ。久しぶりに、サークル仲間にも連絡を取る。皆、元気そうだった。
しかし俺の体も、ある意味……元気なのだが、辛くて辛くて涙が出てきた。
内部が疼き、何もしていないのに前が勃ち上がりそうになる。
結局その翌日の夜まで、時島からは連絡が無かった。
そうしてやっと連絡があったから、帰ってくるのだろうと期待して文面を見たら『今日も帰れない』と書いてあった。俺は絶望的な気分になった。どうしようもなく――溜まっている。何度も一人きりの部屋で自然と荒くなった吐息を鎮めるべく、深呼吸を繰り返した。その日も眠れない夜を過ごす事になった。その次の日も同様だった。
堪えられない。あと一週間半堪えれば、紫野の薬は出来上がるという。だけどそれで収まるのかも不明なほど、そもそも俺は日雇いのバイトに行けないまま、ライターのバイトも休みにして、ただ熱い体を持て余していた。早く帰ってきて欲しいと、そればかりを考えていた。
――……結局一週間、時島は帰ってこなかった。
漸く帰ってきた日、俺は平静を装う事に苦労した。もう頭の中は蕩けきっていて、意識が曖昧になりそうだった。
「ただいま。ちゃんと食べてたか? 少し痩せた気がする。何かすぐに作るから」
時島はそう言うとキッチンへと直行した。違う、食事よりも早く欲しいと思ったが、恥ずかしくて俺は何も言葉が出ては来ない。体が熱いのに、羞恥は残っているのだ。理性と乖離した体が、時島をずっと求めているのに、俺は時島を見据えたまま、必死で笑顔を浮かべた。我慢出来そうにないなんて、時島に知られたくなかった。何故なのか、そう告げて嫌われるのが怖かった。多分、打算的な理由だ。嫌われてもう抱いてもらえなくなるのが怖かったのだろう。
「帰ってきたばっかりなんだから、少し休んだ方が良いと思う」
「それもそうだけどな……何かしていないと、俺は今のお前を見てると……ちょっとな」
「え?」
「なんでもない」
時島はそう言うと、珈琲を二つ淹れて、コタツの上に置いた。
礼を言って受け取り、俺は静かにそれを飲む。しかし胸のざわめきが止まらない。至近距離に時島が座っている。気づけば視線が釘付けで、俺はずっと時島の事を見据えていた。
時島には、俺の体が、ここまでおかしくなっている事など分からないのだろうと思った。
――だが、そういうわけでは無かったらしい。
不意に時島が言ったのだ。
「……随分と溜まっているみたいだな」
「っ」
俺は思わず息を飲んだ。
「俺がいない間――誰ともしなかったのか」
「そんなのッ……――」
俺は言葉に窮した。当たり前だろうと言おうとして、では時島とするのは当たり前なのだろうかと考えてしまったのだ。そんなはずはない。不本意のはずだ、時島にとっても俺にとっても。すると、指先で急に顎を持ち上げられた。それだけで俺の口からは声が漏れた。
「ぁ……」
「左鳥、どうして欲しい?」
「……」
そんなものメチャメチャにして欲しいに決まっていた。しかし俺は頑張って沈黙を保つ。視線を逸らしたかったが、顎を掴まれた為、それは出来ない。その指の感覚だけでも、俺はもう体の熱を制御出来そうに無かった。気が狂いそうだった。
「……」
だが、言って引かれるのも怖かった。嵐が渦巻くような胸中で、ただガクガクと俺の体は震え始める。
「時島……」
「そんな風に甘い声で名前を呼ばれると、俺の事を待っていたと勘違いするぞ」
「……勘違いじゃない」
時島に抱きしめられた。俺はもうそれだけで陥落し、情けない事に果てた。吐精し、服が濡れる。行為が始まったのはその直後だった。
俺はそのまま意識を飛ばした。
目が覚めた時、時島に言われた。
「久しぶりだったのもあるけどな、色気をまき散らしているお前を見たら、制御できなくなりそうで自分が怖かった」
俺はもう真っ赤になるしかなかった。溜まっていた事に、最初から気づかれていたのだ。恥ずかしかった。