宴もたけなわとなり、みんな楽しそうにバカ話で盛り上がっている。
すると、シアンが楽しそうにぶちまける。
「聞いてよ! 僕がサキュバスのコスプレしたら瑛士ったら喜んでんだよ!」
ブッ!
思わず瑛士はウーロン茶を吹いてしまった。
「よ、喜んでなんてないって!」
「真っ赤になってチラチラシッポ見てたじゃん? きゃははは!」
瑛士は渋い顔をして口を尖らせた。シッポを見ていたことなんてなぜ知ってるのだろう?
「まぁ、シアン様はナイスバディじゃからな。今度、我のサキュバス姿も見せてやろうか? くふふふ……」
レヴィアは悪ノリして身体をくねらせ、エッチなポーズをしてエイジに投げキッスを飛ばす。
瑛士はムッとして顔をそむけた。酔っぱらいに真面目に付き合うなどやってられない。
「何? 瑛士はそう言うのが好きなわけ?」
今度は絵梨が酔って座った目で突っ込んでくる。
「べ、別に好きってわけじゃないよ」
「ふーん? 私もコスプレしたら嬉しい? くくく……」
絵梨もレヴィアの真似して胸を張り、ポーズを決めた。生真面目な絵梨も酔うと人が変わるらしい。
「ちょっと、みんな飲みすぎだよ……」
瑛士は頭を抱えた。まだ十五歳の瑛士には酒でバカ騒ぎしている連中についていけない。
「悪い悪い、ほら、牛タン焼いてあげたゾ! あーん!」
シアンはむくれている瑛士に牛タンを差し出す。
瑛士はシアンをジト目でにらむとパクっと牛タンにかぶりついた。
「元気出して! 今日は瑛士の歓迎会なんだからさ。くふふふ……」
シアンは楽しそうに瑛士の肩を揉む。
「歓迎会は嬉しいけど、パパは生き返らなかったしなぁ……」
「何言ってんの。そんなこと言ってるからダメなんだゾ! 何事も言霊。上手くいくことしか口にしちゃダメなんだゾ」
「言霊……? そんなの効くの?」
「効く? 効くどころか、この世界は全て言霊でできてるんだゾ」
シアンはニコッと笑うとピッチャーをグッと傾ける。
「全て言霊で……?」
瑛士はシアンが何を言っているのか全く分からず、眉をひそめた。
「瑛士の地球がまだ残ってるのは『AIを倒して人類の世界を取り戻そう!』って瑛士が言ったからだゾ?」
「は……? 僕がそう言ってなかったら地球は消えてた……?」
「だって、僕はキミの地球を消しに行ってたんだから。きゃははは!」
「は……? け、消す……って?」
「AIに乗っ取られて再起不能の人類の星なんて運用するだけ意味ないからね。廃棄処分が決まってたんだよ」
シアンは、八十億もの命を奪う計画を、まるで季節の変わり目を語るかのように軽やかに口にし、再びピッチャーを傾ける。
瑛士は言葉を失った。あの時ネコと遊んでいたシアンは【破滅の天使】として瑛士の地球を消滅させに派遣されていたのだ。
あの時、シアンと出会ってなければ、シアンにAI打倒を頼んでいなければ自分もこの世から消されていたに違いない。
瑛士は心の奥底を貫くような冷たさが、背骨を震わせるのを感じた。
「瑛士の言霊が効いて廃棄処分がなぜか延期になったってわけさ。良かったね。きゃははは!」
瑛士は大きくため息をつきながらテーブルに額をゴンとぶつけて動かなくなった。
AIどころじゃない、最悪の敵、破滅の天使と組むことで、自分たちの地球は首の皮一枚繋がっていたのだ。その運命の皮肉に瑛士は言葉を失ってしばらく放心状態になってしまった。
「瑛士の意志が地球を存続させた。ね? 言霊は最強でしょ?」
「なんで……、なんで僕なんかの子供の意志が世界を動かすなんてことになるの?」
一介の少年に過ぎない子供のたわごとで地球の未来が変わる。そんなことがある訳がないのだ。
「うーん、宇宙はね、誰かの意志でもって存続し、成長していくから……かな?」
は……?
瑛士はいきなり宇宙の成長の話になって眉をひそめた。
ちんぷんかんぷんで戸惑っている瑛士を見ると、シアンはうなずき、説明を始める。
「この世界は量子でできている。それは分かるよね?」
「僕らは分子ででき、分子は原子ででき、つまり、量子の集合体……そして、量子は波であり、確率だってパパは言ってた」
「そう、そして、量子の世界では時間も因果律も関係ないんだ。結果があって、原因が決まることだってあるのさ」
「ちょ、ちょっと待って! 結果が先なの!?」
瑛士はその意味不明な話に思わず声が裏返った。原因があって結果がある、これがこの世界の常識だが、量子の世界では結果から原因が決まることもあるらしい。その意味不明なふるまいこそがこの世界の基本という現実に瑛士はおののいた。