「東京ってこんなところだったんですね……。瓦礫しか見たことなかったんで……」
瑛士は街ゆくカラフルな服を着た人たちの群れを眺めながら、ついパパやママを思い出してしまう。一瞬会いに行きたいとも思ったが、この世界のパパとママは遺伝子こそ同じでも自分とは縁のない人となってしまっている。他の人と結婚して幸せそうに暮らしている姿など逆に見たくもなかった。
「後で恵比寿ってところの焼き肉屋に行くからな。街を少し案内してやろう」
瑛士は東京タワーの上空をゆっくりと流れてゆく白い雲を目で追いながら、静かにうなずいた。
◇
管理システムの使い方や規則、マナー、各種手続き方法などのレクチャーを受けているうちに日は傾き、空は赤く染まり始める。
「と、いうことじゃ。分かったな? これ、ミスると完全消去処分じゃから注意しておけよ」
レヴィアは空中に映し出した映像をクルクルと指で回しながら、険しい目つきで瑛士を見た。
「か、完全消去……?」
瑛士はその聞きなれない処分にピンとこず、首をかしげた。
「死亡しても魂は消えず、再生されるわけじゃが、完全消去はその名の通り再生されずに消される。要は死刑よりも重いんじゃな」
「死刑より重い……」
瑛士はその冷徹なルールに思わず冷汗を浮かべる。
「お主はこれから担当の地球の中では神になる。それは麻薬のような甘美な誘惑に満ち溢れた生活になるんじゃ。一度その誘惑に負けるととことん堕ちていってしまう。そうなったらもう神殿としては切り捨てるよりほかないんじゃ。要は
「な、なるほど……」
「お主だって男なんじゃから、可愛い女の子をはべらせてハーレムでウハウハしたいじゃろ?」
レヴィアはいたずらっ子の笑みで瑛士を見る。
「いや、まぁ、それは、可愛い子には弱い……ですよ? で、でも……。力を使って女の子に言うことを聞かせても、それはなんか違うというか……」
瑛士は眉をひそめて首をかしげる。
「ほう。お主中々まともじゃな。いつまでもその気持ちを大切にしろよ? 変態ハーレム作って消された男は数知れず……。気を付けるんじゃぞ?」
レヴィアは鋭い視線でビシッと瑛士を指さした。
「は、はい……。気を付けます」
『大いなる力には、大いなる責任が伴う』瑛士は紀元前から語り継がれているという格言が頭をよぎった。
その時、ガチャっとドアが開き、シアン達が入ってきた。
「おいーっす! それじゃ焼肉食いに行くゾ!」
シアンは元気そうに腕を突き上げご機嫌である。
「あ、あれ……? なんだか……綺麗になってる?」
瑛士は風呂上りみたいにつやつやになっているシアンを見て首をかしげた。先ほどまでは髪も頬も焦げてボロボロで心配していたのだ。
「僕が綺麗だって? ふふっ、何それ口説いてんの? きゃははは!」
シアンは楽しそうに笑いながら瑛士の背をバシッとはたいた。
「痛てっ! いや、そうじゃなくって、さっき焦げてたから……」
「なーんだ。新しい身体に変えただけだよ。ほらっモチモチでしょ? くふふふ……」
シアンは瑛士にハグをするとほほをスリスリと瑛士の頬に滑らせた。
「えっ! ちょ、ちょっと!」
真っ赤になってじたばたする瑛士。
「シアン様! 瑛士が嫌がってますよ!」
一緒に入ってきた絵梨が口をとがらせて叫んだ。
「嫌よ嫌よも好きのうちってね。だって一緒のベッドで寝てた仲だもん、僕たち。ねっ?」
シアンはいたずらっ子の笑みを浮かべながら瑛士にウインクする。
「ホ、ホント……なの……?」
絵梨は眉をひそめ、首を振りながら後ずさる。
「いや、あ、あれはベッドが一つしかなかった……から……」
「『ママ……』って泣きながら僕の胸に包まれて泣いてたんだよね? くふふふ……」
「い、いやちょっと! な、何言いだすんだよ! 胸になんて触れてないですーー!!」
瑛士は真っ赤になってシアンの背中をパシパシはたいた。
「そうだったっけ? きゃははは!」
「な、なに……それ……」
絵梨はドン引きして汚いものを見るような目で瑛士を見つめた。
「はい、ジャレるのはそこまでにして! もう時間よ」
タニアはジト目で瑛士たちを見ながらツーっと指先で空間を裂いた。