目をつぶっていても眩しい、激しい閃光を通り抜けた瑛士は、重力が戻ってきたことにホッとしてそっと目を開いた。しかし、そこは見渡す限り真っ白の何もない空間である。
あ、あれ……?
瑛士は何もないところに一人放り出されていることに気がつき、困惑して辺りを見回した。
そこは床も真っ白、天井はあるのかないのかすら分からない、ただボウっと光る白い空間だけがどこまでも続いている。
「お、おーい! シアーン!」
瑛士は心細げな叫び声をあげて辺りを見回すが、ただ声は白い空間に吸い込まれていくだけだった。
「くぅ……、困ったなぁ……」
その時だった、ヴゥンという電子音がかすかに響き、一人の少女がすうっと現れた。
え……?
白いサイバースーツにシルバーのジャケットを羽織る少女は、ブラウンの長髪を揺らしながらじっと瑛士の顔をのぞきこむ。
「なんでシアンちゃんはこんな弱っちいのを……」
「あ、あなたは……?」
眉をひそめる少女に気おされながら瑛士は聞いてみる。
「ここはイミグレーション。神殿に入る資格があるかどうかチェックするところよ。でも……、キミに資格があるようには……見えないなぁ」
「し、資格……? 自分はシアンに連れられてきただけなので、資格と言われても……」
瑛士は冷汗を浮かべながら返す。
「人のせいにしない! 神殿に入るにはそれなりの能力と品格が求められるわ。あなたみたいのを入れたら私もシアンちゃんも責任も問われるんだから!」
少女は人差し指で瑛士の鼻先を押し、頬を膨らましながら怒りをぶつけてくる。
「そ、そりゃ、自分は見習いなので……。能力は低いかもしれませんが、人として恥ずかしくない生き方はしてきてるつもりです!」
シアンも責任が問われるとなると、自分だけの問題ではない。瑛士は頑張って言い返した。
「ふぅん……」
少女は
「じゃあ、試させてもらうわ!」
刹那、急に景色が変わった。ガラスの巨大なシャンデリアのような円柱状の構造物がずらりと並ぶ通路に転送されたのだ。
へっ!?
瑛士は驚いて辺りを見回し、その息を呑むような美しい光景に圧倒された。ガラスの巨大構造物はまるで生き物のようにキラキラと微細な輝きを放ち、その不思議な煌めきにはどこか心に迫るリズムを感じる。
そんな、小屋サイズのガラス構造体がずらりと見渡す限り並び、それだけでなく通路の金網の下にも上にも幾重にもそれが重なっているのだ。
「ここはどこかわかるかしら?」
少女はいたずらっ子の笑みを浮かべながらドヤ顔で聞いてくる。
「ど、どこって……」
瑛士は困惑した。こんな初めて見る壮大な構造物など答えようがない。
ただ……。
思い当たるとしたらさっきシアンが言っていた『キミの故郷だぞ?』という言葉だった。海王星にあるのは神殿と故郷。であれば、ここは故郷、つまり、地球を創造しているコンピューターのデータセンター……ではないだろうか?
「も、もしかして……僕の故郷……?」
「へぇ……、思ったより賢いじゃん」
少女は意外そうな顔をしてうなずいた。
「マ、マジか……」
と、なると、このガラスの構造体は地球を創っているコンピューターということになる。
瑛士はガラス構造体に駆け寄るとじっと眺めてみた。それはキラキラと微細な光を放つ畳サイズのガラス板が、中心に向かってたくさん挿さって作られた円筒だった。その円筒がいくつも重ねられて一つのシャンデリアのように見えている。これが本当にコンピューターだとするならば、ガラスでできた光コンピューターで、この溢れ出す煌めきは今この瞬間の地球の誰かの営みそのものということになる。そして、自分もまた、この煌めきの中に生まれ、暮らしてきたに違いない。
ほわぁ……。
瑛士は上下左右を見回し、その壮大な光コンピューターの群れに圧倒され、思わず首を振った。
「では、試験開始だよ! どこかに時限爆弾を隠したんだ。見つけられたら合格。見つけられなければ……ドッカーン! きゃははは!」
少女は嬉しそうに笑った。
「じ、時限爆弾!?」
「そう、キミが本当にシアンちゃんが思うような人なら見つけられるはず。失敗したら八十億人の人達と共にドカーン! くふふふ……」
「な、なんだよそれ……」
パパを生き返らせるどころか、地球が木端微塵になってしまうかもしれない事態に瑛士は頭を抱えた。
なぜ、自分の資質を見るだけに八十億人の人たちの命を危険にさらすのか? 神殿にはぶっ飛んだ少女しかいないのか? 瑛士はあまりにも無配慮な試験に頭が痛くなってきた。
「ほらほら、時間ないよ! 早く見つけないとドカーンだぞ! ぐふふ」
少女は嬉しそうにけしかける。
瑛士は楽し気な少女の方をキッとにらむと、大きく息をついて辺りを見回した。
通路はどこまでも向こうまでサーバーが並び、それが奥にも上下の階にも延々と続いている。走り回って探せるような広さじゃない。
はぁ……。
瑛士はその意地悪な試験にウンザリしてガックリとうなだれた。