「まだ出来たてのAIですから、そこは仕方ないかと……」
レヴィアは整然と並んだ装置、流れるような綺麗な配管の列を見てふぅとため息をついた。
「おっ! ビンゴ!」
シアンは嬉しそうに叫ぶと、すかさずシャッターを切った。
パシャー!
響き渡るシャッター音の中、飛び出してきた青白いこぶしがドカン! ドカン! と動力室の床を叩き壊していく。床に広がっていく亀裂。やがて床が抜け下のフロアが顔を出した――――。
そこにはまるでイルミネーションの様に無数のLEDライトが高速に点滅していたのだった。
「くふふふ……。見ぃつけた!」
シアンはこぶしの腕を巧みに操作して、そのLEDが点滅する装置の一つをむんずとつかむと一気に引き上げる。
ベキベキベキと固定金具を引きちぎりながら、引き上げられてきたのはサーバーがびっしりと詰まったサーバーラックだった。
「ジャジャーン! ついに引きずり出してやったよぉ! きゃははは!」
シアンはサーバーラックを動力室の床に乱暴に転がすと嬉しそうに笑う。
散々手こずらされたAIが、今、苦しそうにLEDを点滅させながら無様に床に横たわっている。攻守逆転、シアンはドヤ顔で満足そうに見下ろした。
「ほう、これがコア・システム……なんですな……」
レヴィアは物珍し気に、巨大な瞳をギョロリと光らせながらサーバーラックを見つめる。
「そうそう、こいつが出来損ないさ。さて、舞台は整ったな。じゃあ呼び出してやろう」
シアンは胸ポケットから中古のスマホを取り出すと、画面の中で倒れてる瑛士のアバターを楽しそうにつついた。
「はい、起きてー! 出番だゾ!」
つつかれてビクッと反応したアバターは、ゆっくりと起き上がる。
「ん……?」
眩しそうに目をこすりながら辺りを見回す瑛士。
「えっ……? こ、ここは……?」
瑛士は寝ぼけたように薄目でシアンの方を向いた。
「おはよう! 気分はどうかな?」
「気分……? あれっ!? ここってもしかしてスマホの中? 僕は死んだんじゃなかったの?」
瑛士はスマホのガラスを内側からコンコンと叩き、不思議そうに辺りを見回した。
「ちゃんと死んでるよ、うししし……」
シアンは手で口を隠しながら茶目っ気のある目で笑う。
「死んでる……? あっ! う、後ろ! モ、モンスターだ!!」
瑛士はシアンの後ろにいる巨大な漆黒のドラゴンを指さして叫んだ。
「後ろ? あぁ、彼女はレヴィア。可愛い僕の友達だよ。きゃははは!」
「と、友達……?」
瑛士は首を傾げた。彼の目の前にいるのは、神話から抜け出だしたかのような巨大で恐ろし気なドラゴン。それがどうして愛らしい友達なのか?
「この姿はマズかったのう……」
レヴィアはそう言いながらボン! と爆発を起こす。
うわぁ!
いきなり爆煙に包まれて焦る瑛士。
「カッカッカ! これならええじゃろ」
爆煙の中から金髪おかっぱの女子中学生のような女の子が現れ、楽しそうに笑った。
「我はレヴィアじゃ、よろしくな」
可憐な少女、レヴィアは金髪を海風で揺らしながら真紅の瞳を輝かせ、瑛士に微笑みかける。
「え……? よ、よろしく……」
瑛士は恐ろし気な巨大モンスターが可愛い女の子になってしまって言葉を失う。
「でだ、クォンタムタワーは倒しておいたから、これからどうしようか相談ターイム!」
シアンはノリノリでスマホを青空に高くつき上げた。
「へっ!? 倒した!? ど、どこに?」
瑛士は慌ててスマホのガラスに顔を寄せ辺りを見回す。しかし、青空のもと、工場のような青緑色の機械が並んでいるばかりで、どうなっているのかさっぱり分からない。
「ここが、倒したクォンタムタワーの内部だよ」
「な、内部!?」
瑛士はまったくイメージがわかず、呆然と機械が並んでいるフロアを眺めた。
「でね、瑛士の身体はもう無くなっちゃったから、あの子を使おうかと思って……」
シアンはそう言いながら、機械の陰からちょこっと顔を出している子ネコに手招きした。
ぴょんと飛び出した子ネコ――――。
チリチリチリ……。
鈴を響かせながらシッポを立て、子ネコはシアンの方へと歩いてくる。可愛いキジトラ模様をしたモフモフの子ネコは、一旦止まって後ろを見回し、何かを確認するとぴょんぴょんと一目散にシアンの腕に飛び込んだ。
「おぉ、ヨシヨシ。ちょっと君の身体借りるゾ?」
シアンは嬉しそうにキジトラの瞳を見ながらそう言うと、幸せそうに頬ずりをする。
「え!? もしかして僕はネコに転生するの?」
瑛士はいきなりの展開に青ざめた。生き返らせてもらえることは嬉しいが、子ネコになることには嫌な予感がする。
「『転生したら子ネコだった件』だな。くふふふ……」
シアンは楽しそうに抱いてる子ネコにスマホを向けると、写真を撮った。
パシャー!
子ネコは黄金色の光に包まれ、スマホから瑛士のアバターが消えた――――。
「くぅぅぅ……、なんだよこれ……」
キジトラの子ネコは前足の肉球を眺め、可愛い声でつぶやいた。
こうして瑛士は念願の勝利の地に降り立ったわけだが、その可愛いキジトラの瞳には喜びよりも深い困惑が映っていた。