爆煙の中、それでもレヴィアは何とか体勢を立て直すと、渋い顔をしながらキノコ雲を抜け出していった。
「召喚早々手厚い歓迎じゃな……」
「ムカついたでしょ? 軍艦撃沈! いいね?」
シアンは鱗をペシペシ叩きながらレヴィアに気合を入れる。
「……。何も我に頼まれなくてもシアン様なら瞬殺……ですよね?」
「ブーッ! ドラゴンが軍艦をぶっ潰すからAIはビビるんじゃないか! 伝説の生き物らしく派手にやっちゃって!」
シアンは口をとがらせながら、こぶしでドスドスとレヴィアの鱗を叩いた。
レヴィアは『少女が軍艦ぶっ潰したほうがビビるのでは?』と言いかけてグッと言葉を飲み込んだ。
「か、かしこまりました」
レヴィアは力強く翼をはばたかせ、一旦空高く舞い上がると眼下に目標の自衛艦を確認する。
「あー、あさひ型護衛艦ですな……結構新型ですよ?」
「何? レヴィアはミリオタなの!? 兵器の型番とか覚えちゃう口? くふふふ……」
シアンは嬉しそうにペシペシと鱗を叩いて笑った。
「な、何言うんですか! 好きなアニメで出てきたんですよあいつは! この程度でミリオタ名乗ったらミリオタ警察に吊るし上げられますよ……」
「またまたぁ、照れちゃってからに!」
その時、護衛艦から白い煙がドドドッと上がった。
「あっ、ミサイルが来ますよ!」
「さっきのより小さいね。何て言うの?」
「……。RIM-162……のESSM……ですかね? 自分は詳しくないので……」
「知ってるじゃん! きゃははは!」
シアンは腹を抱えて爆笑し、レヴィアはつまらなそうに口をキュッと結んだ。
「……。で、あれ、どうするんですか?」
「避けて」
「は?」
「避けてよ。できるでしょ? あれ……何これ……」
シアンはさっきの爆発で髪の毛についてしまった
「……。マジですか……」
「当たっても死なないでしょ?」
シアンは埃が気になって神経質そうに取り除いていく。
「シアン様撃ち落としてくださいよ! 死ななくてもメッチャ痛いんですよ!」
「今ちょっと忙しいの! 早く行って! GO!」
なかなか取れない埃にムッとしながらシアンは叫んだ。
「くぅぅぅ……。落ちないでくださいよ!」
他人事を決め込むシアンの無理難題に、レヴィアは泣きべそをかきながら覚悟を決める。
「よし、取れた! ミサイルに負けんなよ! 行っけーー!!」
シアンは晴れやかな顔でレヴィアを鼓舞した。
真紅の瞳をカッと見開き、マッハ3ですっ飛んでくる16発の対空ミサイルの挙動を見定めるレヴィア。
「ここじゃ! ソイヤー!」
ドラゴンの翼を巧みに操作し、ミサイル群の隙間を狙ってバレルロールしながらキリモミ飛行に持っていくレヴィア。ものすごい横Gがかかり、シアンはふっ飛ばされそうになりながら鱗のトゲにしがみつく。
「ヒャッホウ! きゃははは!」
ミサイルはその予測不可能な動きに翻弄され、レヴィアをかすめながらドン! ドン! ドン! という激しいソニックブームを残し、飛び去っていく。
「ヨッシャーァァァァ!」
レヴィアがそう叫んだ瞬間、護衛艦の艦首にある62口径の砲門が火を吹いた。
「マ、マズい……、くぅぅぅ」
慌てて回避行動をとろうと思ったものの、まだ態勢の整っていない巨体はすぐには動かない。弾着には間に合いそうになかった。
刹那、真っ青になってるレヴィアの前に巨大な黄金色の円が輝く。
へっ!?
それは精緻に術式が施された魔法陣だった。魔法陣の中で六芒星がぐるりと回り、直後、着弾した砲弾が魔法陣の向こうで激しい爆発を巻き起こす。魔法陣はシールドとして砲弾からレヴィアを守ったのだ。
「ミリオタ! 大砲忘れてちゃダメでしょー!」
シアンはドヤ顔で嬉しそうに叫ぶ。
「た、助かりました……」
「いいから反撃!」
護衛艦を指さし、鱗をペシペシ叩くシアン。
「りょ、了解!」
レヴィアは護衛艦の艦橋目がけ、急降下しながら大きく息を吸った。
ボウっとレヴィアの漆黒の鱗全体に黄金色の光が浮かび上がり、真紅の瞳が鮮やかに輝きを放つ。
「全力だぞ! 全力で行け!」
シアンはワクワクしながら嬉しそうに叫んだ。
十二分に気を貯めたレヴィアは艦橋に向け、パカッと巨大な口を開け放つ。
直後、激烈なオレンジ色のプラズマジェットが口の奥から噴出し、一瞬で護衛艦の艦橋がプラズマの炎に包まれる。
ゴォォォォ……。
地獄の業火のような恐ろしい轟音があたりに響き渡り、一億度のプラズマジェットであっという間に艦橋が溶け落ち始めた。
「ヒャッハー! ブラヴォー!!」
シアンはその圧倒的な業火に満足し、思いっきりこぶしを突き上げた。
レヴィアは艦橋の脇をすり抜け、海面スレスレを滑空すると翼を大きく羽ばたかせ、また青空へ高く舞い上がっていく……。
刹那、ズン! という爆発音が響き渡り、衝撃波が海面を同心円状に広がっていった。護衛艦の弾薬庫に火の手が回ったらしい。
ズン! ズン! と、次々と爆音を放ちながら護衛艦は黒煙を噴き上げ、やがて大きく傾き、東京湾の底へと引きずり込まれて行った。