「あの二人は本当に塔を倒せるのかしら……?」
塔に向かって力強く進んで行く二人の後ろ姿を見ながら、絵梨は眉間にしわを寄せ、つぶやいた。
「ははっ! 倒せるわけがないだろう。もうすぐ死ぬんだからさ」
リーダーは二人の挑戦をあざ笑い、嬉しそうに肩をすくめた。
「えっ……? し、死ぬって……?」
「あの空き地は地雷原なのさ。彼らがどんなに不思議な力を使えても、いきなり足元で大爆発が起こったらどうなると思う? くははは。見てな、もうすぐドカーンさ」
絵梨は真っ青になった。ここに連れてくるのは
「そ、そんな……」
「奴らを無事始末したら一階級特進だって。良かったじゃないか。君もこれでお金には困らなくなるぞ」
「な、なんで……。私、そんな話聞いてないわ!」
絵梨は眉間にしわを寄せながら叫ぶ。
「……。あのさぁ、君の嫌いなレジスタンスも減るし、万々歳じゃないか。何が気に食わないんだ?」
リーダーは不思議そうな顔をして絵梨の顔をのぞきこむ。
「レジスタンス関係ないわ! 人を殺していい訳ないじゃない!」
「おいおい、どうせ彼らもそのうち
「勝てるかどうかじゃないのよ! 人として真っ当かどうかよ!!」
絵梨の感情的な叫び声がリーダーの表情を一瞬で曇らせ、怒りの炎が目に宿る。
「おや……、この私に説教……かい?」
「あ……、いや……、そんな……」
「青臭い理想論……君にそんなこと言える資格あったっけ? ねぇ?」
リーダーは絵梨の腕をガシッと握り、頬をピクピクと引きつらせながら絵梨にすごんだ。
「そ、それは……」
「君なんかいくらでも消せる……。分かってるよね? ん?」
リーダーは冷酷な目でにらみつけ、つかんだ腕を思いっきりひねる。
「痛っ! くっ!」
絵梨は唇をかみしめる。自警団リーダーの
リーダーにとって、せっかくの特進のチャンスを潰した部下など、殺すのに躊躇はないだろう。思えば先代の副長も事故死をしていたのだ。
「余計なことはすんなよ?」
リーダーの冷酷な目に鋭く射抜かれた絵梨は、キュッと口を結んでうつむいた。
しかしこの時、絵梨の脳裏に健太との約束がよぎった。『あのお方の邪魔をするな』そう言った健太の言葉がよみがえる。地雷で吹き飛ばすことは邪魔どころの話ではない。絵梨はうろたえた。
このまま座ってさえいれば全てうまくいく……。しかし、それでは健太との約束が守れない。
それに……。
あの生意気な青髪の女には人智を超えた何かがある。それはAIの超越性が霞むほどの得体のしれない何かだった。今のこの腐った川崎をぶち壊せるとしたら、悔しいがあの女しかいないように思えた。
絵梨は何度か深呼吸しながら決意を固めていく……。
「ちょっと放して!」
リーダーの手を振り払った絵梨は車の外に飛び出した。それは生まれて初めて
「待って! ダメー!! 地雷があるのよ!」
瑛士たちに向かって叫びながら駆けだす絵梨。
「ちっ! 馬鹿が!!」
リーダーは血走った目で思いっきりアクセルを踏み込んだ。
キュィィィィン! という高周波と共にズボボボ! というタイヤが思いっきり空回りする音が響き、刹那、車が急発進する。
「お前らみんなひき殺してやる!」
リーダーは憎悪のオーラをぶわっと放ちながら叫んだ。
「嫌ぁぁぁ!」
いきなりの騒ぎに慌てて振り返った二人は、副長が大きなSUVに轢かれそうになっているのを目撃する。
「はぁっ!?」「きゃははは!」
シアンは笑いながら即座にシャッターを切った。
パシャー!
刹那、SUVの前の地面が青白く閃光を放ち、もっこりと盛り上がる。
直後、片輪を思いっきり乗り上げてしまったSUVから激しい衝撃音が響いた。悪路に強いSUVと言えど、大きすぎる段差ではサスペンションが底をつき、その衝撃はドライバーを襲う。
ぐはっ!
衝撃でエアバッグが膨らみ、リーダーは視界を奪われた。
片輪が浮き上がった状態でSUVは副長をかすめたまま通過。リーダーは何が何だか分からず慌ててハンドルを切り、バランスを崩して横転。ゴロゴロと転がりながら瑛士たちに迫ってくる。
「ちょっ! 何だよぉ!」「きゃははは!」
シアンは楽しそうに笑いながら瑛士の腕をつかみ、せまるSUVをギリギリでかわした。
「あっぶねぇ!」
瑛士が叫んだ時だった。
ズン! という地面を揺らす大爆発でSUVは粉々に吹っ飛び、その衝撃波で瑛士たちは吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」「きゃははは!」
もんどりうって転がった瑛士は、真っ黒なキノコ雲がゆっくりと大空へと立ち上っていくのを見て言葉を失う。
そのとんでもない破壊力、それは戦車を粉々に吹き飛ばす対戦車地雷だったのだ。鋼鉄の塊である戦車を吹き飛ばすために作られた高性能火薬の塊、対戦車地雷。それをまともに食らえば一般車など跡形も残らない。
バラバラとスクラップが降り注ぎ、SUVはもはや原形をとどめていない。中に乗っていたリーダーなどもはや確認もできなかった。