リーダーが何やら手を複雑に動かしながら近づいてきた。
「ここで議論しても仕方ない。我々には
誠実そうなリーダーは、にこやかに笑顔を浮かべながらジッと瑛士を見つめる。
「な、何言ってんですか!
瑛士が必死に叫んでいると、シアンが瑛士の手を強く引いた。
「瑛士、撤退するゾ!」
シアンは楽しそうに大きな声を張り上げる。
「ちょ、ちょっと待ってよ! クォンタムタワーを倒すんだろ?」
瑛士は手を引かれながらシアンに食って掛かる。
リーダーはシアンと目を合わせ、お互いにこやかに微笑むとうなずいた。
「理解に感謝する。よし! 自警団も撤収するぞ!」
自警団メンバーは一様にホッとしたため息をつくと、ざわざわとそれぞれの想いを近くの者と話しながら引き上げていく。
シアンも振り返ることなく瓦礫の荒れ地へと瑛士を引っ張っていった。
「えっ!? ちょ、ちょっとシアン! 諦めちゃダメだよ。説得しなきゃ!」
瑛士は淡々と来た道を戻っていくシアンに向かって叫ぶ。すると、シアンは振り返ってニコッと笑い、瑛士の耳元でささやいた。
「説得は成功! 瑛士の演説が効いたんだゾ」
シアンはチュッと軽く瑛士のほっぺたにキスをすると、嬉しそうにパチッとウインクをした。
「え……? 成功だって? どこが……?」
瑛士はキツネにつままれたような表情で、ポカンとしながらシアンのキスの跡をそっとなでた。
◇
三時間後、二人はまた大師橋のところへ戻ってきた――――。
「あのリーダーは手話で『三時間後に橋の下に来い』って言ってたんだよね?」
瑛士はフェンスの穴のところまで来ると、穴をふさいでるベニヤ板を半信半疑で押してみる。すると、下の方は固定されておらず、簡単に通り抜けられそうだった。
「ほら、ウェルカムって感じじゃない?」
シアンはドヤ顔で瑛士の背中をパンパンと叩く。
「まぁ、リーダーにも事情はあるんだろうね……」
瑛士はベニヤを押して辺りをうかがうと、そっと抜け出して多摩川の土手を降り、橋の下へと駆けていった。◇
「やぁ、君たち、すまなかったね」
橋の下ではリーダーと若い女性が待っていた。リーダーは手を上げてにこやかだったが、女性は警戒感を隠しもせず、険しい目で二人をにらんでいる。
「立場上仕方ないのは理解しています。それで……アクアラインへは行かせてもらえますか?」
完全には歓迎されていない状況に、瑛士は恐る恐る切り出した。
すると隣の女性が食って掛かってくる。青いベレー帽をオシャレに斜めにかぶり、少し日に焼けた張りのある健康的な肌に若さあふれる勢いの良さを感じる。
「塔を倒すだなんて夢物語もいい加減にしなさいよ。あれ、太さは三百メートルもあるのよ? 厳重な警備もあるし、たった二人でどういうつもりなの?」
「副長! そういうのは止めなさい!」
リーダーは慌てて副長を諫めるが、シアンは嬉しそうに話し始めた。
「子象にね、鎖付きの足環をつけて育てるんだよ。そうすると、大人になって鎖を壊せるようになっても逃げだそうとしなくなるのよ。なぜだかわかる?」
「えっ……? いきなり何を聞いてくるのよ!」
「いいから、なぜ?」
シアンは碧い瞳をキラリと輝かせながら、楽しそうに副長の顔をのぞきこむ。
「し、知らないわよ!」
副長は訳の分からない質問にうろたえながら目をそらし、叫んだ。
「子供の頃に必死に逃げ出そうとして無理だった経験を、いやというほど叩き込まれちゃったからなんだよね。もう逃げられるようになっても試しもしないんだ」
「……。何が……言いたいの?」
副長はムッとした表情でシアンをにらみつけた。
「AIには勝てないって叩き込まれちゃった人は、勝てるようになっても勝ちに行かないんだよね、きゃははは!」
シアンは副長を挑発するように楽しそうに笑った。
副長はギリッと奥歯をかみしめ、すさまじい表情でシアンをにらみつける。
「あんた達武器も何も持ってないじゃない! そんなんで塔倒すなんて何の説得力もないわ!」
「武器ならあるよ、ほら」
シアンは中古のスマホを見せつけ、楽しそうに揺らした。
「いい加減にしなさいよ! 一体どこの世界にスマホで塔を倒すバカがいるのよ!」
「はぁ~あ。だから君は『飼われた象』なんだよ」
シアンは肩をすくめ、これ見よがしにため息をついた。
副長はピクッピクッと頬を
「本当に塔を倒せるのね? だったら証明しなさいよ!」
副長はシアンをビシッと指さすと、頭から湯気を立てながら怒鳴った。