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17. AI最高

「うわっち! 熱っちっちー!」

 瑛士は溶鉄舞い散る灼熱地獄から必死に逃げ惑う。

「ほら、避けて避けて! きゃははは!」

 なぜかシアンは被弾せずに駆けながら楽しそうに笑った。

 何とか安全なところまで来た瑛士は、はぁはぁと肩で息をしながらシアンをギロリとにらむ。

「危ないことやるなら事前に言ってよ!」

「ゴメンゴメン、瑛士のこと忘れてた」

 シアンは申し訳なさそうに頭をかくと、ペロッと舌を出した。

「わ、忘れてたって……もぅ!」

 瑛士は怒り心頭だったが、シアンの言葉の意味が分かると一気に心が冷えてしまった。要はシアン一人なら何の危険もないってことなのだろう。自分が足手まといでしかないというふがいなさに瑛士はがっくりと肩を落とした。

「おい! なんだこれは!」「危険じゃないのか!?」「どうすんだこれ?」

 塀に開いた丸い大穴の向こうからざわざわと人の声がする。

 瑛士はシアンと顔を見合わせ、そっと様子を伺いに穴の方に近づいて行った。

         ◇

 穴の向こうを覗くと、雑草が生い茂る先に大師橋の巨大な真っ白い塔がそびえ、何本もの太いケーブルが橋を支えていた。そして、その橋の真ん中あたりに数十人の自警団らしき人達がいる。みんな青い防刃ベストとベレー帽姿で、電磁警棒を持ちながらこちらをうかがっていた。

 あらかじめ来ることが分かっていたような節があり、AIの指示をうかがわせる。どうやら歓迎されていないようだ。

 リーダーらしきアラサーの男性を先頭にぞろぞろと彼らはやってくる。

「我々は自警団だ。レジスタンスを川崎に受け入れるわけにはいかない。お引き取り願おう!」

 威圧的な声が多摩川に響く。

「いや、川崎に行きたいんじゃないんです。クォンタムタワーを倒しに風の塔に行きたいだけなんです」

 瑛士は困惑した顔で訴える。東京湾アクアラインに行くには川崎を通る以外ない。ここで引き返すわけにはいかなかった。

「クォンタムタワーを……倒す?」

 あまりに荒唐無稽な話にリーダーは首を傾げ、中年オヤジたちはゲラゲラと下品な嗤いを浴びせてくる。

「タワーが倒れるわけがない! こんな危険分子排除すべきです!」

 リーダーの傍らに立つ若い女性が興奮しながら瑛士を指さし、ひときわ高い声で叫んだ。

「いやいやいや、さっきこの塀を吹っ飛ばしたの見たでしょ? 僕らにはその力があります」

 瑛士は溶けて穴の開いた鋼鉄塀を指さした。

「なるほどAI政府ドミニオンが手を焼いている理由はその辺りにありそうだな……。しかし、『はいそうですか』と、ここで通してしまったら我々がAI政府ドミニオンにペナルティを課されてしまうんだよ」

 リーダーは肩をすくめて首を振る。

AI政府ドミニオンは僕らが倒します! だからペナルティにはなりません!」

 瑛士は力説する。そもそも市民のみんなの自由のために戦っているのだ。足止めされる理由がない。

「あのさぁ、AI倒されたら僕ら困るんだけど?」

 後ろの自警団メンバーの中年男が不満をぶつけてくる。

「こ、困るって……、人類が自由を勝ち取ることは僕らの悲願じゃないですか!」

 あまりにも予想外の反応に瑛士はたじろいだ。

「はぁ~ぁ。お前は子供だから分かんないかもしれんけど、AI政府ドミニオンができる前は仕事しなきゃ食っていけなかったんだよ? わかる? 朝から晩まで嫌な上司にこき使われて、ミスったら怒鳴られて頭下げて……冗談じゃないよ。AI最高じゃないか!」

「そうだそうだ! 理想論ばっかり言うんじゃねーよ!」「子供はすっこんでろ!」

 ヤジの大合唱に瑛士は圧倒されてしまう。

「えぇっ……ちょっと……えぇっ?」

 後ずさる瑛士をシアンは支えると、美しい顔を歪めながらつまらなそうにスマホカメラを構えた。

「あー、面倒くさっ。みんなぶっ殺しちゃうよ」

 自警団に向けたスマホがヴゥンと不気味な電子音を放ち、黄金色の光を帯びていく。

「ま、待って! 人を殺すなんてダメだよ」

 瑛士は慌てて手でスマホをさえぎった。

「ほぅ、スマホで俺たちを殺すって? こりゃ面白れぇ!」「やってみろゴラァ!」「ぎゃははは!」

 中年オヤジたちのゲラゲラと下卑た笑いが響いた。

 このスマホが世界最強の兵器なのだが、そんなことどう説明しても理解されない。

 好戦的なシアンと中年オヤジたちの間に挟まれ、瑛士は胃がキリキリと痛んだ。

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