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13. 迷彩ノイズ

「は? 深呼吸……って、息をするって……こと?」

 瑛士は首をかしげながら聞いた。

「そうだよ? 人間はどうでもいい事ばかり考えているから本質が分かんないんだ」

 シアンは肩をすくめて首を振る。

「いや、でも……。大きく息をするだけで何が変わるの?」

「ほら、そういうところ。ダメーっ! 深呼吸が全てを解決してくれるよ。きゃははは!」

 シアンは楽しそうに笑うと、国道に崩れ落ちている廃ビルの瓦礫の上をピョンピョンと跳びながら登っていった。

 瑛士はどういうことか分からなかったが試しに深呼吸を繰り返してみる。だが、それだけで何かが変わりそうな感じは全くなく、キツネにつままれたように首をかしげた。

       ◇

「あちゃー。ヤバいヤバい!」

 シアンは慌てて瓦礫の山を駆け下りてくる。

 どうしたの?

 珍しく慌てているシアンを不思議そうに眺めていると、シアンはそのまま瑛士にタックルしてきた。

 うわぁ!

 地面に組み伏せられる瑛士。

 柔らかい肌を押し付けられて気が動転するエイジだったが、次の瞬間、耳をつんざく爆音とともに地面が激しく揺れ、身体が一瞬浮きあがった。

 おわぁっ!

 辺りは爆煙に覆われ、何も見えない。

「戦車がこっち狙ってたんだよ」

 シアンが耳元で説明する。

「せ、戦車!? なんでそんなものが?」

「サイボストルとかドローンじゃ効果ないって気づいちゃったんだろうね」

「はぁ……。機甲部隊をひっぱりだしちゃったってこと? 参ったなぁ……」

 ズン!

 再度、激しく地面が揺れ、隣の瓦礫の山が吹き飛んだ。

 ぐはぁ! きゃははは!

 バラバラと降り注ぐ破片に瑛士は頭を抱えながら耐える。

「笑ってる場合じゃないって! マズいよ、殺されちゃうよぉ」

 瑛士は泣きそうになりながら叫んだ。かつて自衛隊の主力であった10式戦車の戦車砲の破壊力はすさまじい。120ミリ滑腔砲は瓦礫の山など吹き飛ばしていく。

「でもここから戦車叩くのにはこのスマホじゃ無理なんだよね」

 シアンは中古のスマホを見ながら残念そうな顔をする。

「じゃあ逃げよう!」

「でも、この辺り、ドローンのカメラとかがあちこちで僕らを監視してるからなぁ……」

「下手に逃げようとしたらいい標的になっちゃうって事?」

 瑛士は青ざめる。

 戦車砲の射程は三キロメートル。ちょっとやそっと走ったくらいでは射程から逃げることはできない。

「うーん……」

 シアンが悩んでいると再度爆発が起こり、瓦礫が降り注いだ。

 うひゃぁ!

「仕方ない、こうしよう」

 シアンは跳び起きると、爆煙の漂う中、瑛士を引っ張りおこして瑛士にスマホを向けた。

 パシャー!

 すると、スマホからキラキラと煌めく光の微粒子が噴き出して瑛士の周りに取り巻いた。

「えっ? これは……何?」

「いいから、いいから。さぁ逃げるよぉ!」

 シアンは楽しそうに瑛士の腕を引っ張って駆け出していく。

「えっ? このまま出ていったら狙い撃ちされるって!」

 瑛士は焦ったが、シアンは気にせずに軽快に横の小径を駆けていった。

「大丈夫にしておいたから! きゃははは!」

 笑いながらピョンピョンと瓦礫を跳び越えていくシアン。

 瑛士は訳が分からなかったが、キラキラとした光の微粒子を身体の周囲にまといながらシアンの後を追いかけていった。

 後ろを見ると、自分たちの元いたところに攻撃が続いている。どうやらAIは二人が逃げたことに気がついていないようだった。

「あれ……? 逃げた事分かって……ないの?」

「くふふふ。AIはお馬鹿さんだからその迷彩ノイズを身にまとっていると瑛士のことが見えなくなるんだゾ」

 シアンはいたずらっ子の笑みを浮かべて、不思議なことを言いだした。

「は? AIはこのキラキラしたものの中は見えない?」

「見えないねぇ。くふふふ……」

「ホントに? そんなことってあるの?」

「だって実際気づいてないでしょ? お馬鹿さんだから。きゃははは!」

 シアンは楽しそうに駆けていった。

 AIの画像認識システムは特定のノイズに弱いというのは聞いたことがあった。人間にはノイズがあっても何かは見えるのだが、AIには特殊パターンのノイズがあるだけで認識が全くできなくなってしまうらしい。

 だが、その説明だと自分は見えなくなっているのかもしれないが、シアンは丸見えなのではないだろうか? 瑛士は首をかしげながらシアンの後を追った。

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