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第13話 潔癖症の松永先輩

 朝、目が覚めると目の前には先輩の顔がある。

 普段クールな印象の先輩の寝顔はなんとも可愛いらしく、無防備なその姿に思わず笑みが溢れた。

「何笑ってるの?」

「お、起きてたんでんですか?」

 先輩は目を瞑ったままにやりと笑い、話しかけてくる。

 恥ずかしくなり布団に埋まり顔を隠す。

 すると先輩は布団ごと私をぎゅっと抱きしめ少しだけ出ている頭に自身の顔をのせた。

「こんなに幸せな朝があるなんて知らなかった」

 恥ずかしげもなくそんなことを言う先輩に赤くなった顔を見られないように布団に埋まったまま先輩の体に手を回す。

「私も、幸せです」

 二人はそのまま朝の余韻を存分に味わった後、一緒に朝食を作った。

 真ん中に切り目を入れたバターロールにスライスチーズとハム、スクランブルエッグを挟む。

 もちろん挟むのは各自でだ。

 それでも同じ朝食を一緒に作る、その時間が幸せだと感じる。

「こうやって一緒に並んで作るのいいね」

「はいっ」

「幸村さんといると初めてのことをたくさん知ることができるよ」

 そう言う先輩は本当にうれしそうだった。

 朝食を食べた後、食器を片付けると掃除機をかけシーツを洗濯し布団を干す。

 先輩とベランダで並び、ひと息つくように澄んだ青空を見上げた。

「いいお天気で良かったです」

「そうだね。手伝ってくれてありがとう」

「いえそんな! 当然です」

 むしろさせてもらえることが嬉しかった。

 潔癖症である先輩とこれから先一緒にいるために、自分が先輩に対して罪悪感を抱かないためにも大事なことだと思う。

「潔癖症って面倒くさいよね。自分でも変だと思うよ」

「そんなことありませんよ。私の作った物を食べてもらえないとしても一緒に作ることができて楽しいです。掃除するのも洗濯するのも当たり前のことです。それが過剰だったとしても変なことはありません。私はそうやって先輩の日常を共有できて嬉しいですよ」

「ありがとう。でもしんどくなったらちゃんと言ってね」

「はい。先輩も嫌なことちゃんと言って下さいね」

 先輩を見上げると目一杯背伸びして頬に触れるか触れないかくらいのキスをした。

 そんな私の様子に先輩はフッと笑うとベランダから見える公園を指さす。

「幸村さん、天気もいいいし今から散歩に行かない?」

「いいですね! 行きましょう」

 マンションから出るとどちらからともなく手を繋いで歩く。

 以前は手を触れる事さえできなかった。

 触れて嫌われることが怖かった。

 大学生だったあの頃、何も出来なかった自分はまさか先輩とこんな風になるなんて思ってもいなかっただろう。

 公園に着くと花壇にはたくさんのコスモスが咲いていた。

 赤、白、ピンクのかわいらしいコスモスたちに目を輝かせる。

「すごく綺麗ですね!」

「うん。幸村さん花好きかなと思って、連れて来たかったんだ」

「ありがとうございます」

「星よりこっちの方が好きそうだね」

 少し意地悪気に笑う先輩に私は先輩の顔を見上げる。

「星も好きですよ! 先輩と一緒に見上げる星空は格別です」

「俺も。幸村さんと見る景色全てが特別に思えるよ」

 最近、先輩はよく甘い言葉をくれる。

 以前気持ちを伝えられずに後悔したと言っていた。だからちゃんと伝えていきたいのだと。

 そんな先輩が本当に好きだ。これから先も何かすれ違うこともあるかもしれない。

 けれど、どんな問題が起こってもちゃんとお互の気持ちを伝え合うことで乗り越えていけると思っている。

 潔癖症なんて関係ない。

 私はただ松永先輩が好きなのだから。

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