「そうだコヴェル、わかってるじゃないか。下手をすれば街はモンスター達の餌場になる」
俺は息を呑んだ。
大変なことだ。一刻も早く、ダンジョンを封印しなくてはならない。
「……国の騎士団は?」
「丁度他の場所で魔物が暴れていてね、守備隊以外出払っている。だからスポンサー方から、冒険者ギルドにこの話が回ってきた」
「スポンサー?」
「お偉方のことさ。いまやギルドの運営にもだいぶ金が掛かる規模になってしまっていてね。国や領主、教会などから援助を受けたりもしてるんだ」
苦笑いと共に肩をすくめるエフラディートだった。
援助を受ける、イコール要望があれば無視できないということでもある。
ダンジョンの封印には、最奥に生息するであろう『コアモンスター』と呼ばれるボス級モンスターをまず撃破しなくてはならない。
「コアモンスターですか。私も聞いたことはあります」
リーリエもまた真剣な顔で話を聞いている。
事態がひっぱくしていることを理解しているのだ。
俺は彼女の言葉に頷いて。
「強い癖に、倒したら幻影のごとく消えてしまうだけの不思議な存在さ。旨味がないから放置されるのが常でな。沸いたダンジョンを潰すよりも、そこから供給される宝物や魔物素材を拾い歩く方が大抵は美味しいからな」
「だがコヴェル、このダンジョンは潰さなければならない」
エフラディートは改めて言うと、俺たちの顔を見た。
「ところが軽い調査の結果、奥の階層に向かう階段が、なにを使っても壊せない硬質の岩盤で覆われていることがわかった。コヴェル、キミにはあの素晴らしい切れ味の『片手斧』で、その岩盤を叩き割って欲しい。あの片手斧なら、多分割れる」
「……なんで斧のことまで知っているんだ?」
「小型ゴーレムがどうしても欲しかったからね。実はあの日、森に赴く前に使い魔を使って事前にキミらのことを見ていた」
「覗き魔かよ!」
「情報を得るのに貪欲なだけさ。なんなら、その『片手斧』がリーリエの中から出てくることも知っている」
――――!
俺はエフラディートを睨みつけた。そのことは、誰にも知られたくない秘密だ。
警戒心が一気に高まる。
「おいおいそんな怖い顔をするな。言ってるだろう、私はキミらと良好な関係を築きたいんだって。ちょっとお茶目に覗いてたらこんな秘密を知ってしまったが、誰にも漏らすつもりはない。平気だ、安心しろ」
こう笑いながら悪びれない顔をされると、言い返すことができない。
悔しいがここは負けだな。
「でな。キミたちには、ギルドが組織する討伐隊に参加をして貰いたい」
「……ふう」
俺は溜め息をついてみせた。
「その秘密を担保にされたら、断れるわけがない」
「理解が早くて助かるよ」
「美味しい話っていう始まり方をした割に、随分と貧乏くじを引かせようとしてくれるじゃないか」
「嘘は言ってない、S級への一番乗りでもあるんだから美味しさも保証するぞ」
よく言う。
俺は呆れて苦笑しかできない。
まあいいか、街への『
たまには積極的な人助けってやつをやってやろうじゃないか。
それになんというか、物語が動き出した感もあって正直悪くない。
ただまあ、ちょっとばかり問題もあるな。
「仕事を請け負うのはいいが、一つ条件がある」
「なんだね?」
「ダンジョンには俺とリーリエの二人だけでいく」
エフラディートは眉をひそめた。
「正気か? なにを言ってるんだおまえは。S級だぞ!?」
「といっても、別に最後のコアモンスターまでダンジョンを攻略するわけじゃない。とりあえずは深層への道を閉ざしている硬質物質を排除するところまでだ。それが俺の役割だろう?」
エフラディートは俺の意図を理解したようだった。要は先兵としてルートの確保をするだけの先遣隊というわけだ。
「それなら俺が居れば十分だ。他の奴についてこられたら、リーリエの秘密がバレる可能性がでてくる」
「なるほどな、確かに。後日討伐隊を派遣という形にはなってしまうが、その辺がキミと私との間の妥協点なんだろうね」
彼女は頷いた。
「だがどうする? キミはよいとして、リーリエの身の安全は。コアモンスター狩りではないとはいえ、S級ダンジョンは伊達じゃないぞ?」
「それは――」
と言って横から割り込んできたのはリーリエだ。
「コヴェルさまにアイテムを借りて自分で身を守ります。ダンジョンに入るなら、というケースはこれまでに幾度か話し合ってまいりましたので」
「おまえには負担を掛けてしまいそうだなリーリエ。済まない」
「構いませんコヴェルさま。ですがもし」
「ん?」
「……ですがもし、本当に私のことを考えてくださってるのでしたら、危険なダンジョンに向かうときにはボーナスを出して頂けますと嬉しいです」
「ボーナス?」
なんだろうボーナスとは。
俺は彼女に問い返した。すると彼女は大胆な笑顔をひらめかせて俺の顔を見る。
「危険手当のことです。私がダンジョンに付き合うたび、難易度に応じたボーナスを」
「凄いことを言い出したなリーリエ。キミは奴隷の立場だろう」
「確かに私は奴隷の身ですエフラディートさま。しかしそれでも、やる気は大事なんです。奴隷だろうとなんだろうと、モチベーションが高くないとまともな労働は期待できないのではないでしょうか」
明朗な笑顔で堂々と言ってくれる。だが、その通りだ。
彼女は俺が金を持っていることを知っている。知っていて、こういう交渉をしてきたのだろう。
したたかだ。だが嫌いじゃない。
思わず苦笑してしまう。
「いいぞ。ならばおまえに貸し出す装備品からはレンタル料を取る。悔しかったら俺から買い取って自分のモノにしろ」
「レアアイテムより私自身を買い取った方が安くつきそうですね」
「残念ながらおまえは非売品だ。俺にとことん付き合って貰う、それがボーナスを出す条件といったところだな」
「……わかりました。誠心誠意お仕え致します。私のやる気を、お金で買ってください」
「そうさせてもらう」
リーリエと俺は顔を合わせて笑いあった。
俺は彼女のこういった積極性が好きだ。
頭の良い彼女のことだから、この交渉はそういった俺の性格も計算してのことだろう。
そして俺も、こうしてリーリエの考えを読めるようになってきた。
金と金で繋がったことを強調しあっただけのはずなのに、少し彼女と距離が縮まった気がする。
それはこの交渉が、互いへの理解から成り立ったものだからに違いない。
「コヴェル、キミの奴隷殿はとても面白いなぁ」
エフラディートも笑い出した。
だが決して悪い笑いじゃあない。彼女もまた、リーリエのしたたかさを評価したのだろう。
その後、俺たち三人はダンジョン攻略についての話し合いをした。
エフラディートに情報を提供してもらい、装備の想定などを頭の中でシミュレートする。
特にリーリエの装備は厳選しなくてはならなそうだ。俺には幾つかの考えがあった。
「それでコヴェル、いつ出発してくれる?」
「明後日でどうだ」
「よしわかった。リーリエもよろしくな。S級ダンジョン先遣隊として頼んだぞ!」