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第7話


「やあやあ、失礼するよ」


 入ってきたのは小柄な女性だった。

 ショートボブの銀髪が軽快そうなイメージを感じさせる。クリクリした大きな目が可愛く愛らしい。

 歳などはまだ10代も中盤、16歳程度に見えなくもない。


 それなのに、不相応な余裕を感じる。

 凄腕という雰囲気だ。雰囲気だけなのかもしれないが。


「ようこそ我が家へ。冒険者ギルドの方に協力を惜しむつもりはありません、なんでも聞いてください」

「それは助かるなぁ」


 微笑む顔も、なんとなしに迫力を感じる気がした。

 俺は彼女に椅子を勧め、リーリエにお茶の用意をさせた。


「コヴェルさま、私は奥の部屋に下がってましょうか」

「いや居てくれて構わない。二人でこの方の話を聞こう」

「わかりました」


 リーリエを横に座らせ、俺たち三人はテーブルで向かい合ったのだった。


「よかった、ちゃんとコヴェルくんだ。先日、D級ながらS級冒険者のニードをコテンパンに痛めつけたというのはキミだね?」


 コテンパン、って……。

 どういう噂になっているんだ、確かに『ちょっと』暴力に頼りはしたけれど。

 俺は苦笑いを浮かべて頷いた。


「はい。コテンパン、と言われると困りますが、確かに俺がそのコヴェルです」

「やー嬉しいね、出向いた甲斐があった。うんうん、キミが『あの』コヴェルくん」


 興奮した様子を見せる彼女に、俺は愛想笑いしかできない。なんだ『あの』ってのは。

「あいつ、黄金鎧のニード。イヤな奴だろ~? どうにか懲らしめてやりたかったんだが、なかなか私の立場じゃ難しくてね! いやはや、話を聞いたときは痛快だったよ、もっとやってくれ」

「は、はぁ……?」


 なんだ黄金鎧の奴、やっぱり皆からも嫌われていたんだな。

 よかった、それならギルド内で変に敵が増えることもあるまい。嬉しい情報だ。


「名乗るのが遅れたね、私はエフラディート。しがない冒険者とでも思っておくれよ」

「ご丁寧に。知ってたようだが俺はコヴェル、こっちが……」

「コヴェルさまにお仕えしているリーリエと申します」


 エフラディートの顔が、ぱぁぁ、と明るくなった。


「知ってるよ、キミがリーリエくん。黄金鎧の元で酷い目に遭っていたようだね、どうだいご主人さまが変わって環境は良くなったかね?」

「はい、もちろんでございます」

「たはは。まあそうだな、主人の前じゃそうとしか言えないか」


 バツが悪そうに頭を掻くと、エフラディートは苦笑した。

 しかしニヤっと笑い、リーリエの顔をじっと見る。


「……だけど、そうだな。キミ、目に光があるぞ」

「えっ?」

「今の、案外本音かもしれないね。やるじゃないか、コヴェルくん」


 チラリとこちらに視線を送られて、背中がムズムズした。

 前世も今世も褒められ慣れてない俺なのだ。

 こういうとき、どういう顔をしていれば良いのかわからない。


 テレ隠しもあって、思わずぶっきらぼうに俺は言った。


「『くん』はやめてください。こそばゆくて堪らない」

「そうかすまなかった。じゃあコヴェル、そろそろ本題に入ろう」


 そういうとエフラディートは腕を組んだ。


「さっきも言ったが、実はギルドに相談があったんだよ」

「相談、と申しますと?」

「森の中で夜な夜な騒音が響き、たくさんの小人が蠢いている、と。魔物たちが危険な施設を作っているんじゃないか、ってね」


 やはり夜中の作業を誰かに見られてしまっていたか。

 誤解を受けているなら解いておいた方が良いだろう。

 だけど『小人さん』のことは知られたくないな。


「なるほど。それは俺たちが夜通し作業していただけですね、小人というのは少しわかりませんが、リスに餌をやったりしていたのでその辺を見間違えたんじゃないでしょうか」「そうだったんだね。まあ、ここがコヴェルの家と聞いてだいたい得心がいった。問題なさそうならギルドとしては構わないんだ」


 エフラディートは笑顔でお茶を一口啜り。


「ギルドとしては構わないが、私はちょっと気になっていてさ。リス、というのは嘘だろう? ほらこれ」


 そういって彼女がバッグの中から取り出したのは、一体の『小人さん』だった。


「調べてみたのだが中身は小型のゴーレムだね? こんな小さくて精巧なモノは見たことがない。ギルドとしては構わないのだけれども、私個人はこのゴーレムに興味があってね」


 ニヤリ笑って俺の顔を見る。

 しまった。知らぬ間に確保されてしまっていたのか。


「さて、いったいなんのことでしょう」

「おいおい、ここに至ってオトボケは困る。キミがダンジョンの『隠し部屋』から金銀宝石を得ていたって話は職員から聞かせてもらってる。きっとこの小型ゴーレムも、そこで手に入れたんだろう?」

「あいつめ……喋りやがったのか」


 俺が舌打ちをすると、エフラディートは愉快そうに笑った。


「あの日以来、ギルドはしばらくキミの話題で持ちきりだったからね。ちょっと調べさせてもらったんだ」

「勘弁してください」

「あ、心配しないでいいよ、彼には口止めをしておいたから。キミが金持ちな理由やレアアイテム持ちなことは、今のところ私の胸三寸だ」


 つまりバラされたくなければ正直に話せ、ということなのだろう。

 これは仕方ない。俺は両手を軽く上げた。


「お手上げです。なにがお望みなのですか」

「話から推測すると小型ゴーレムをたくさんお持ちらしい。研究の為に、数体でいいから融通して貰えると嬉しいな、とね」

「断れない話なのでしょうね」

「あはは、話が早くて助かる。まあ悪いようにはしないよ、明日で良いから品を持ってギルドに顔を出してもらえないかな。受付に『エフラディートに呼ばれてきた』と言えば奥に通してもらえると思うから」


 こうして次の日。

 俺とリーリエは、冒険者ギルドへと赴くことになったのだった。



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