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13・皇后陛下の頼みごと(2)


 陛下のご用事とは──結局、何だったのだろう。

 使用人の食堂で夕食を摂りながら考える。


 宮廷の雰囲気にも慣れない初日に皇后陛下にお会いするという想定外の事態に直面した。動揺し、戸惑い、皇后陛下に接する態度にも失礼があったかも知れないと、今更ながらに悔やまれて仕方がない。


 それに──病に伏していながらも神々しい美貌を放つ皇后陛下からは、まるで命を削りながら言葉を紡ぐようなあやうさともろさが感じられた。


 陛下の病は、それほどに重いのだろうか。


 ──お身体からだ、随分辛そうでした。

 それなのに優しいお言葉を掛けてくださって……


「……セリーナっ!」


 突然耳元で響いた声に背中が粟立った。

 陛下の事が気になって、名前を呼ばれていたのに気付かずにいたようだ。


「アリシア?!」


 どうしたの、ぼーっとして。

 湯気を立てた食事のトレイを卓上に置きながら、明るい声が降ってくる。


「お部屋に戻って来ないものだから、食堂ここだと思って。それで……皇后陛下のご用事って、何だったの?」


 興味津々に聞かれても、答えようがない。


「私も今ちょうど、それを考えていたところなんです」


 セリーナにとって何よりの疑問は。

 皇后様ともあろうお方が、帝都から遥か彼方の田舎に住む両親と自分を知っていたこと。

 おまけに誰にも名乗ったことのない、ミドルネームまで知られていた。


「私の拙い想像力で精一杯考えた結果ですが……皇后様はおそらく、どなたかと私をお人違いされているのではと」


 とっさの言い訳だとはいえ、人違いだなどとつまらない誤魔化し方をしたものだ。

 陛下とのやりとりをアリシアに相談したいけれど──。


「私も結局、よくわからなくて」


 皇太子の事を慕っているというアリシアに、皇后陛下、つまり皇太子のお母様から『息子を頼む』と言われたなんて、何となく打ち明けにくい。


『ひとり息子のことを、よろしく頼みます』


 命を削るように訴えかけた陛下の言葉が、重く心に響く。

 お優しい陛下のために出来る事があるならば、何とかしてあげたい。


 だけど──陛下と同じく雲の上の存在である皇太子に対して、自分に一体何が出来るだろう?


 数日前まで帝都から遠く離れたロレーヌの地方で、帝国の皇族なんてものとは微塵の縁もなく、泥をかぶっていた平民の自分に。


 ──美味しい野菜でも作ってお届けすることくらいしかっっ!


「ぁ、ロールキャベツ」


 メイン料理はキャベツの葉にひき肉を包んだ煮込み料理だ。

 戸惑う気持ちをごまかそうと食事を口に運んだとき。

 隣のテーブルに座っていた、セリーナと同じ『白の侍女』たちの黄色い声が沸き立った。


「ええっ、あなた今夜なの?! それって今年の、第一号じゃない」

「おめでとう!」

「はあぁっ、なんだか私まで緊張しちゃいますわ」


 おめでとう……?

 皇太子の宵のお相手を、そんなふうに思えるなんて。


 ──いきなりリアル感が漂ってきましたね。

 皇后陛下のお願い事だけじゃなくて。

 白の侍女の業務のこともできるように、私も気持ちを切り替えておかないと……。


 中々理解し難い世界だけれど、近いうちにセリーナにだって、もれなく『業務』の順番が巡ってくるのだ。




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