「そんなにガッカリしなくても」
肩を落としたまま立ち上がったセリーナに、隣の令嬢がにこやかにまた話しかけてきた。
「カイル殿下はとっても素敵な方ですよ? 私なんて、このお仕事が決まってから興奮して眠れませんもの」
令嬢はまるで恋する少女のようにうっとりとした表情を浮かべている。
しかし夜伽つきの鬼畜業務をわざわざ志願するなんて、いったいどういう心づもりだろう。セリーナは訝りの目で見てしまう。
──そりゃあ眠れないでしょう。私の場合は不安と恐怖からですけど……!
「私はアリシア・レイゼルフォン・デマレ。南帝都出身で能力は《治癒》ですが、あなたは?」
「アリシア、すてきなお名前ですね。それに治癒能力者だなんて……っ。私、初めてお目にかかりました」
治癒能力。
数ある『能力』のうち唯一攻撃性を持たないもので、その名のとおり傷ついた者を癒す。
ただでさえ絶対数の少ない能力保持者のなかでも、治癒能力を持つ者は稀少だ。軍を率いる帝国の皇太子から切望されるのは間違いないことくらい、戦争を知らないセリーナでもわかる。
──アリシアが選ばれた理由は考えなくてもわかる。
でも、どうして私なんかが最終選考まで、しかも《上級侍女》の役職に通過しちゃったの……?!
セリーナの《採用》はどう考えても腑に落ちない点ばかりだ。
村役場で「何にもなれるはずがない」とセリーナを罵ったあの美貌の少女は書類選考すら通らなかったという。
ロレーヌの村の他の志願者十数名のなかでも、書類選考を通過したのはセリーナただひとりだ。
二次選考の面接では、まるで美しさを競うような場所でセリーナは化粧っけもなく髪を無造作にまとめただけ。
着ているものも古くさくて垢抜けず、選考会場で明かに悪目立ちしていたのだった。
「それで、あなたのお名前は?」
「セリーナ・ダルキアと申します。私……能力は持ち合わせていないのです」
アリシアはとても綺麗な女性だ。しかも万人に望まれる治癒能力者でもある。
上位貴族の妻にと切望されても不思議ではない。なのに
──アリシアのような