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66. 光翼の舟

 チャン、チャン、チャランチャ♪


 ソリスのスマホがけたたましく鳴った――――。


「誰かしら……」


 ソリスは怪訝そうな顔で画面をのぞきこむ。


「やぁ! お疲れー!!」


 勝手にスピーカーフォンがつながって、シアンの声が響いた。


「お、お疲れ様です……」


「手練れ相手にフォーメーションCはダメだって教えたよ?」


 シアンは不満そうな声を響かせる。


 まさか戦闘をチェックされていたとは思わなかったソリスは、うつむき加減で顔をしかめた。


「ま、まさかあんなチート防具があったなんて思わなかったんです……」


「まだまだ甘いな。おっと……」


 ズン、ズンと激しい爆発音が次々と電話の向こうから聞こえてくる――――。


 どうやら戦闘中にかけてきたらしい。


 ソリスは眉をひそめ、セリオンと顔を見合わせる。


「シアンさんはいつも戦っているねぇ……」


「お忙しいのね……」


 その時、ひときわ激しい爆発音が電話越しに伝わって、スマホがビリビリと震えた。


「きゃははは! 成敗! ざまぁみろってんだい! あー、ゴメンゴメン。で、そのテロリストはどうやら上位世界とつながってるみたいなんだよね」


 会心の勝利で上機嫌のシアンは予想外のことを口にする。


「えっ!? じょ、上位世界……ですか!?」


 ソリスは色めき立った。女神を創った上位世界、それが本当にあって、あのテロリストも関係しているらしい。


「そうそう、キミが行きたがってた所じゃん?」


「え、ま、まぁ……」


「行ってくる? んぐんぐんぐ……ぷはぁ!」


 何かを飲みながら気軽にすごいことを言うシアン。


「えっ!? そ、それは、行けるなら……」


 ソリスはいきなりのチャンスに胸が高鳴る。女神ですら見ることもできない上位世界、そんなところに行けるチャンスなど早々あるとは思えない。そこへ行けばこの世界にまつわる謎が少しでもわかるかもしれなかった。


「オッケー!」


 シアンはそう言うと電話をブチ切った。


「えっ!? シ、シアン……さん?」


 ソリスはスマホ画面をのぞきこみ、大きくため息をつく。上位世界へ行けるのは嬉しいが、どうやって行くのか、何を準備しておけばいいのか全く分からない。どんどん一人で話を進め、丁寧な説明は一切なし。確かに優秀で凄い人なのだが、周りは振り回されてばかりだ。


 ふぅ……。


 ソリスはセリオンと目を合わせ、微笑むとサラサラの金髪を優しくなでた。


 と、その時、いきなり地面が揺れ始める。


 え……? ん……?


 やがてその揺れは激しく花畑を揺らし、ゴゴゴゴというすさまじい地鳴りと共に立っていられないほどになってきた。


 いきなりの大地震に、バランスを保とうと必死になりながら、みな顔を見合わせる。


 うわぁぁぁ! な、なんやねん! ひぃぃぃ!


 荒ぶる大地に必死で耐えていると、向こうの方で地面が生き物のように膨れ上がり、地割れが蜘蛛の巣のように広がっていく。


 あわわわわ……。ヤバいヤバい!


 みんな逃げようとするものの、とても動きが取れない。


 やがて地中から白く輝く物体がもこもこと地表を押しのけ顔を出してきた。


 は? こ、これは……?


 新たな襲撃を警戒していた一行は、その白く輝く物体の放つ神聖な光に首をかしげる。


 土塊をボロボロと振り落としながら地上に出てきた物体は、やがて地上に全貌を表した。それはまるで玉ねぎのような形をした巨大な構造体だった。表面は真珠のような淡いクリーム色をしており、見る角度によって虹色の輝きが美しく煌めいた。


「おねぇちゃん。あれなぁに……?」


 セリオンは眉を寄せ、不安そうにソリスの顔をのぞきこむ。しかし、ソリスだってこんなものを見るのは初めてだったのだ。


「さ、さぁ……。でも、ただものではないエネルギーは感じるわね……」


 その時だった。ヴゥン……という電子音がして玉ねぎの表面に大きな穴が開いた。


 えっ!? おぉ……。はわわわ……。


 みんなが固唾をのんで見守る中、中から人が現れる。


「うぃーっす!」


 なんと、シアンが上機嫌に手を高々と掲げながら嬉しそうに出てくるではないか。


「し、師匠!? 来るなら言ってくださいよ! 何ですかコレは!?」


 何にも教えてくれないシアンにソリスはムッとして叫んだ。


光翼の舟ルミナスウェーブ、上位世界への転移装置さ!」


 シアンはソリスの不機嫌さを気にもせず、嬉しそうにパンパンと真珠のように艶々と光る船体をパンパンと叩いた。


「て、転移装置!?」


 ソリスは息をのんだ。この世界を創った存在を創った世界へ行く、それがどれだけ特殊な事なのか、この見たこともないような乗り物に全てが集約されている気がしたのだ。

ソリスは言葉を失い、ただ息を呑んだ。この目もくらむような奇怪な乗り物に、現実と幻想の境界を超えるような特殊な力が宿っているらしい。創造主の誕生の地へ――――。その壮大な旅路の意義が、ソリスの魂を震わせた。


「こ、これで行くんですか……?」


「そうだよ? 何してんの! 早く乗った乗った! 僕もう行かないとなんだから!」


 圧倒されているソリスの手を取ると、シアンはぐいぐいと出入り口へと引っ張る。


「え? シアンさん、行っちゃうの……? もしかして私一人……ですか?」


「そうだよ? だって僕まだ戦闘中だもん! きゃははは!」


 楽しそうに笑うシアン。しかし、女神も行けないようなところに単身送り込まれることはさすがに抵抗がある。


「いや、ひ、一人は……」


「何言ってんの! 上の世界に行ってテロリストの拠点を潰すだけの簡単なお仕事だゾ?」


 シアンは人差し指を立て、プリプリと無理筋の要求をしてくる。


「ひ、一人で潰すんですか!? そ、それはちょっと……」


 ソリスが圧倒されていると、セリオンがソリスのところまで駆けてきた。


「僕も行くよ!」


 セリオンはニッコリと笑ってギュッと腕にしがみつく。


 ソリスはその可愛くて頼もしい存在に胸がキュンと高鳴ってしまう。そしてなぜかセリオンが一緒なら全て上手くいきそうな気さえしてしまうのだった。




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