死後、その境遇を哀れに思った女神に召喚されたソリスは、その馬鹿さ加減を切々と語り、後悔を口にした。ほほ笑みながらゆっくりと聞いていた女神は『もっと馬鹿馬鹿しい社会もある。どうじゃ? そういう社会をぶっ壊してくれんか?』とソリスに問いかけ、ソリスは『何でもやります! 私にやり直しのチャンスを!』と頭を下げたのだった。そして、満足そうにうなずいた女神から最強のギフトを預かり、ソリスは異世界へ転生させてもらっていたのだった。
しかし――――。
結果はボロボロ。記憶を失っていたうえに、呪われて最後には殺されてしまったのだ。
その顛末を思い出した子ネコはベッドの上でプルプルと震える。
一体自分は何をやっているんだろう?
ソリスは悔しくてポロポロとこぼした涙でシーツを濡らした。
◇
ドアの向こうが何やら騒がしい――――。
ソリスはハッとして身体を起こす。泣いている場合ではない。一体ここはどこで自分はどうなってしまっているのかを調べないといけない。
ソリスはベッドからピョンと飛び降りると
しかし――――。
ドアを開けられないことに気づく。ドアノブは丸く、飛びついただけでは開きそうになかったのだ。
カリカリカリカリ……。
無意識でドアを引っ掻いてしまうソリス。
「あぁ、何やってるのかしら……」
ソリスはなぜか猫のしぐさが身についてしまっている自分に頭を抱え、シッポを小刻みに振った。
その時だった――――。
ガチャリといきなりノブが回る。
ウニャッ!?
ソリスはシッポの毛をボワッと逆立てて太くすると、慌ててベッドの下に潜り、ドアをじっと見つめた。
「おや、ソリスちゃん。お目覚め? ふふっ」
青いショートカットの若い女の子が、ベッドの下をのぞきこみながら入ってくる。彼女は未来の風景から切り取られたような、金属光沢のある左右非対称で幾何学模様的なジャケットを羽織っていた。白いシャツは、サラサラと手触りのよさそうな風合いで、グレーのショートパンツに映えていた。
「は、はい……」
ソリスはその人懐っこそうな女の子の碧い瞳を不安げに見つめる。
「僕はシアン。いやぁ、ナイスファイトだったよ」
シアンはしゃがみ込むとニコッと笑い、ウインクした。
「えっ!? み、見てたんですか!?」
「そりゃもう! みんなで手をギュッと握って応援してたんだから!」
ぶんぶんとこぶしを振るシアン。
「お、応援……。でも、負けちゃいました……」
ソリスは耳を倒し、うつむいた。
「何言ってるの、結果なんてどうでもいいの。あの熱いハートが大切なんだから」
「そ、そうなんですか?」
ソリスは上目づかいでそっとシアンを見上げる。
「ふふっ、かーわいー!」
シアンは嬉しそうに子ネコを抱き上げる。まだふわっふわの毛が残る、ぽわぽわした手触りにシアンは幸せそうに微笑んだ。
ソリスは抱き上げられるという慣れない体験に、ついキョロキョロしてしまう。
「あっ、そうだ! キミ、僕のところで働かない? 正義の仕事だよ!」
シアンは碧い瞳をキラリと輝かせ、ソリスの顔をのぞきこんだ。
「え……? は、働く……? な、何をすれば……」
「あー、一口に言えば『宇宙を守る仕事』かな?」
「う、宇宙を?!」
「そう、この世界を乗っ取ろうとする悪い奴がいっぱいいるんだよねぇ……」
シアンはニヤッと悪い顔をして笑う。
ソリスはその笑みにたじろいだが、全てを失った自分を認めてくれるのならありがたく受けたいと思った。正義の仕事というのであれば断る筋合いもない。
「ぜ、ぜひ、お願いします……」
子ネコはペコリと頭を下げる。
「やったぁ! よろしくね! 今からキミは弟子二号だ!」
シアンは嬉しそうに笑うと、すりすりと可愛い子ネコに頬ずりをした。
ウニャァ……。
プニプニと柔らかく温かいシアンの頬にソリスの心も温まってくる。あの辛く苦しい孤軍奮闘を温かく応援し、評価してくれていた人もいたと思うとソリスはとても救われた気持ちになった。