無慈悲に次々と放たれる氷の槍が、ソリスの体を貫いていく――――。
ふぐぅ……。
その無数の刺し傷からは命が流れ出し、ソリスは痛みと無力感に襲われながら、まだ熱気を放つクレーターの中へと転げ落ちていった。
『レベルアップしました!』
黄金の輝きに包まれるソリスの遺体。
「死ねぃ!」
蘇生直後を狙って冷徹に撃ち込まれる氷の槍。
ぐはぁ……。
六歳のソリスは全身を貫く激痛の中、この世から消されるという予感に恐怖した。大魔導士の攻撃を避ける方法を考え出さねば、全てが終わってしまう。このままではセリオン、フィリア、イヴィット、誰も救うことができないまま消え去る運命なのだ。それだけは、何としても避けなければならなかった。
『レベルアップしました!』
黄金の輝きがまだ残る中、五歳のソリスは思いっきり身をひるがえし、攻撃を避けながらクレーターを逃げ出そうと跳びあがった――――。
ガン!
ソリスは見えない壁にぶつかって、そのままクレーターの底に転がり落ちた。そこに打ちこまれる氷の槍。ソリスは無念の中、またも殺されてしまう。大魔導士は逃げられないように、あらかじめクレーターに魔法で透明のフタを施していたのだった。確実に息の根を止めてやろうという老練の大魔導士の徹底したやり口にソリスは戦慄し、無力感に
『レベルアップしました!』
四歳のソリスは必死に活路を見出すべく奮闘するが、レベル130に達したとはいえ、もはや四歳では力も弱く、逃げ出すことは叶わなかった。
『レベルアップしました!』『レベルアップしました!』『レベルアップしました!』『レベルアップしました!』
ついにその時がやってきた――――。
ワンピースにくるまれた生後六ヶ月の赤ちゃんとなって転がるソリスは、もはや立ち上がることもできない。無念をかみしめながらギロリと大魔導士を見上げるばかりだった。
大魔導士は何も言わず、じっと可愛い赤ちゃんを見下ろす。
『なによ? 殺
うまく動かない口でゆっくりと言葉を紡ぐソリス。
多分、次の一撃で自分はこの世を去るだろう。大切な人達を結局一人も救うこともできず、女神との聖約も守れず、無様に殺されていくのだ。あまりの無念に胸がつぶれそうだった。
「女神の使い……。遅すぎだ。なぜ今頃現れる?」
大魔導士は悲しそうに首を振る。
「何がお
「大義のない龍狩り。こんなのクズだってことはワシもよく分かっとる」
「なら……」
ソリスは色めき立った。最強の大魔導士が理解しているなら、そこに
「若い時、魔道アカデミーの連中とクーデターを起こした。こんなくだらない制度ぶっ壊すべきだとね?」
え……?
ソリスは王国を代表する大魔導士の口から出た王政批判に驚かされた。こんな言葉が誰かに知られたら大魔導士も処刑されてしまうだろう。
「だが、市民の通報により計画は瓦解。自分は卑怯にも司法取引で首謀者の情報を提供する代わりに無罪放免……最悪だった……」
大魔導士は苦しそうにうつむく。
「市民……が?」
絶対王政で
「得をするはずの市民が味方を背中から刺したんじゃよ。信じられるか? まさに『肉屋を応援する豚』。度し難い愚民どもの馬鹿さ加減にホトホト嫌になってな……。ワシはもう二度と市民の味方などしないと誓ったんじゃ」
「
「お前はなぜあの時現れなかったんだ? お前がいたら国王軍など一掃できたろうに」
大魔導士は恨みがましい目でソリスを射抜く。
「い、今からだってお
赤ちゃんは必死に口説く。しかし、大魔導士の心には響かない。
「もう全てが手遅れじゃ。もうこの歳じゃ、そろそろお迎えも来るじゃろう。わしは例え女神の敵となろうともこのクソッたれな絶対王政を守り、死んでいくんじゃ」
肩をすくめ、首を振る大魔導士。
「イヤよ! お願い、手を貸して!」
ソリスは手をバタバタと動かし、何とか説得しようと必死になった。
「さらば、お嬢ちゃん。女神にはよろしく伝えてくれ……」
大魔導士はそう言うと杖をゆっくりとソリスに向けた。今までより大きな魔法陣が浮かび、どんどん鮮やかに眩しく青く輝いた。
「イヤ! ダメ! やめてぇぇぇ!」
必死に叫ぶ赤ちゃん。しかし、その魂の叫びは大魔導士には届かなかった。
ザシュッ!
ひときわ大きな氷の槍が放たれ、無慈悲にも赤ちゃんを貫いた――――。
ぐふぅ……。
孤軍奮闘を続けてきたソリスに、ついに最期の時が訪れる。
『レベルアッ繝励@縺セ縺励◆?』
一瞬黄金の輝きを放った赤ちゃんの遺体は、直後、不気味な漆黒の球へと変貌する。それはまるでブラックホールのようにあたりの空間をゆがめた。
「こ……、これは……?!」
とてもこの世のものとは思えない、恐るべき異様さを放つ球への予想外の変貌だった。大魔導士は魂の奥底から湧き上がる恐怖に耐えきれずに後ずさる。
ピシッ!
刹那、空間が鋭く割れ、漆黒の球から伸びる亀裂が大空を貫いた。その亀裂は氷の中を走るひび割れのように、白く薄い反射面を持ち、数千キロメートル先まで一気に空間を裂きながら走っていく。それは結局誰も助けられなかったソリスの張り裂けんばかりの魂の嘆きのようにも見えた。