「そ、そこを何とか! 私は彼らあっての存在なのです!」
「少年と楽しく暮らせばよかろう。過去に囚われるでないぞ」
女神はたしなめるようにソリスを諭す。
「か、彼らは過去なんかじゃないんです! 自分にとっては未来なんです!」
「ほぅ? 未来とな? 行き詰ったアラフォートリオに未来を見るか?」
ソリスは女神の辛らつな言葉にギリッと奥歯を鳴らした。確かに行き詰っていたし、未来に不安を抱えていたが、それでもそれが自分たちの生きざまであり、誇りなのだ。どんなに崇高な存在でも、侮辱されることは許しがたかった。
「恐れながら申し上げます。人は困難に立ち向かうからこそ輝くのです。確かに行き詰っていたかもしれませんが、私たちはそこでは終わりません!」
鋭い視線で女神を見つめるソリス。
「ほう……? 面白い! では、お主の言う困難に輝く生きざまとやらを見せてみよ! その言葉に
女神は
「ほ、本当にございますか!?」
ついに得られた約束。ソリスは目を輝かせ、ぐっと身を乗り出す。
「我はこの百万年、約束を破ったことなどないぞよ」
女神はゆったりとほほ笑み、優しい目でソリスを見た。
「ありがとうございます! このソリス、必ずや
「うむ、失望させるなよ? ふふっ」
女神が嬉しそうに微笑んだ直後、黄金色の激しい閃光が部屋を満たし、ソリスは何も見えなくなった。
うわぁぁぁ!
ソリスはまばゆい輝きの中意識を失い、ゆっくりと倒れていった――――。
◇
「おねぇちゃん! ねぇ、おねぇちゃんってば!」
気がつくとソファーに横たわっており、セリオンがソリスの手を握って涙をこぼしている。
え……?
直後、強烈な頭痛と腹痛に襲われるソリス。
ぐあぁぁぁ!
あまりの衝撃に全身がビクンビクンと
「死んじゃダメ―!」
セリオンは慌ててポーションをソリスに飲ませようとしたが、痙攣が酷く、とても飲めるような状態ではない。
「おねぇちゃん! 飲んでよぉ!」
泣き叫ぶセリオンだったが、全身に回った毒キノコの毒は強烈で、十歳児にはもはや打つ手がなかった。
せっかく女神様に約束を取り付けたというのに、身体が全く言うことをきかない現実に、パニックに陥るソリス。
ぐぉぉぉぉ……。
内臓が燃え上がるような激しい激痛にソリスは七転八倒する。
「おねぇちゃーーん!」
セリオンはポロポロと涙をこぼしながら叫んだ。
真っ赤なベニテングダケ、その鮮烈な毒がソリスの命を確実に蝕んでいく。
ソリスは遠ざかっていく意識の中、ただ、セリオンの手の温かさを感じていた――――。
『レベルアップしました!』
いきなり黄金の光に包まれるソリス。
ふわぁと戻ってくる意識の中、ソリスはホッと胸をなでおろす。敵に殺されなくても蘇生はしてくれるようだ。
目を開けると、セリオンが涙でぐちゃぐちゃな顔をしてソリスを見つめている。
「えっ!? お、おねぇちゃん……?」
「ありがと……」
何が起こったのか分からず唖然とするセリオンの手を、ソリスはゆっくりと握り返した。
「ゴメンね。でも、もう大丈夫よ」
ニコッと微笑みながら、ゆっくりと起き上がるソリス。
「もしかして、これが……ギフト……?」
呆然としているセリオンに、ソリスは苦笑いしてゆっくりとうなずく。
「心配させてゴメン……」
ソリスは立ち上がり、ハグをしてセリオンのサラサラの金髪をやさしくなでた。
「う、うん……。よ、良かった……」
セリオンはソリスをギュッと抱きしめ返す。
ソリスはその温かなセリオンの体温を感じながら、優しい香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「あれ……? おねぇちゃん小さく……なった?」
セリオンは怪訝そうな顔でソリスを見つめる。
「えっ!?」
ソリスは慌ててセリオンを見返した。確かに自分の方がかなり高かった身長差がずいぶんと縮まっている。
「キノコの毒……なのかなぁ?」
セリオンは心配そうに、ソリスの手のひらを揉みながら見つめる。
「だ、大丈夫! 私、元気だからさ。そうそう、キノコのおかげで女神様に会えたの!」
「えっ! 女神様に!?」
「そう、素敵な方だったわ……」
ソリスは創造神である女神の神々しさを思い出し、うっとりとする。
「幻覚……じゃなくて?」
セリオンは眉をひそめた。毒キノコで女神に会えるなんてことは信じがたかったのだ。
「幻覚じゃないわ! その辺に降臨されたのよ!」
ソリスはパタパタと駆け、女神が浮かんでいたあたりを見回す。すると、床に黄金に輝く微粒子がわずかに輝きを放っているのが見えた。
「ほら! 見て! これが証拠だわ!」
ソリスは自慢げに床を指さした。
「え~……」
セリオンは怪訝そうな目で床を見下ろす。すると確かに金粉を振りまいたような輝きがかすかに見受けられた。
「うわっ! ほ、本当だ! こ、これは……」
セリオンは目を丸くしながらソリスを見つめ、呆然としながら首を振った。
ソリスは女神との約束である『輝く生きざま』をしっかりと見せていかねばと、ギュッとこぶしを握り、その神聖なる黄金の微粒子を見つめていた。