まるで漫才のような
「あなた、何者なの?」
「な、何者って、ただの人間ですよ! 人間!」
ソリスは冷汗をかきながらティーカップをとり、一口お茶を含んだ。
「嘘言いなさい。ここはあなたのような人間の子供が来れるようなところじゃないのよ?」
「人間じゃなかったら何だって言うんです?」
ソリスは逆に鋭い視線を
「さっきも言ったじゃない、女神様の
「残念ながら外れです。逆に教えて欲しいの。女神様は何でもできるお方なの?」
「ははっ! そりゃぁこの世界も、私もあなたも、女神様に作られてるんだから何でもできるんじゃないの?」
肩をすくめる
「死んだ人を生き返らせたり……も?」
恐る恐る聞いてみる。
「そりゃぁできるでしょうよ。でも、それって女神様に何のメリットがあるのかしら?」
「メ、メリット……?」
「女神様はお忙しいお方。生き返らせてくださーい、はーい! なんてことになる訳ないじゃない」
「そ、そうよね……」
ソリスは鋭いツッコミにたじろいだ。確かに蘇生なんて気軽にやってくれるわけはないのだ。
でも……。それでも女神様に頼まずにはおれない。
「どう……やったら会えるんですか?」
「ははっ! そんなの私の方が知りたいわよ!」
「精霊王でも会えないんですね……」
「自分は地方のしがない中間管理職。社長に会える機会なんてそうそうある訳ないわ」
自嘲気味に肩をすくめる
「そ、そうなのね……」
「ん……?」
「な、なんですか?」
「あなた……、呪われてるの?」
「えっ!?」
「ふぅん、呪い持ち……ね。あなたもずいぶん苦労してるのね」
「そ、そうよ! 苦労の連続……よ……」
ソリスは口をとがらせ、ふぅと重いため息をついた。
「解呪……してあげようか?」
「えっ!? で、できるんですか! ぜ、ぜひ!!」
ソリスはいきなり降ってわいたチャンスに、思わず身を乗り出した。司教ですら解けなかった呪い。それがまさかこんなディナーの席で叶うだなんて夢のようである。
「これでも精霊王なのよ? このレベルの呪いなら余裕よ」
ドヤ顔でソリスを見下ろす
「すごい! さすが! ぜひぜひお願いします!!」
「じゃあ、手を出して」
「は、はい……」
ソリスが恐る恐る出した手を
ヴゥン……。
突如、黄金の魔法陣がソリスの顔の前に展開され、中で六芒星がクルクルと回りだす。
「あー、これね……。年齢操作系……厄介な呪いねぇ……」
「か、解除できそうですか?」
ソリスは心配そうな顔で身を乗り出す。
「うん、ここをこうすれば終わり……」
「よ、良かったぁ!」
ソリスはパアッと明るい笑顔を見せた。
「でも……。解呪したら呪われた時に戻るってことよ? いいのね?」
「何言うんですか! 戻ってくれた方が……、えっ……、ちょっ、ちょっと待って……」
ソリスはここで重大な事に気がついた。解呪するとアラフォーに戻ってしまう。それは当たり前の話ではあったが、今ここでアラフォーになってしまったらセリオンに見られてしまう。
「ダメ……ダメよ……」
ソリスは混乱し、青い顔でうつむいた。
「どっちなのよ!」
「そ、その解呪というのは一週間だけ有効とかならないんですか?」
「はぁっ! あんた呪いをなんだと思ってるの? はい、止め止め!」
あ、あぁ……。
思わず手で顔を覆うソリス。
「まぁ、よく考えな」
「は、はい……。くぅ……」
解呪を求めて旅にまで出たのに、今では解呪されたくなくなってしまったことにソリスは混乱してしまう。
セリオンにだけは見られたくない……。そう思ってしまうソリスだったが、ではいつ解呪してもらうのだろうか?
「ど、どうしよう……」
頭を抱えるソリス。
「ま、いいわ。また機会があったらね。チャオ!」
「あっ! ま、待って!」
ソリスは慌てて引き留めようとしたが、青い球は窓からスーッと空高く飛んで行ってしまう。
あぁ……。
ソリスは遠く消えていく青い球に手を伸ばし、そしてふぅとため息をつく。せっかく見つけた解呪への糸口を、みすみす失ってしまったことに後悔の念が押し寄せる。
くぅぅぅぅ……。
ソリスはその矛盾した思いに心がかき乱される。
「あぁ、どうしたら……」
ソリスはしょぼくれた顔をしてテーブルにゴン! と額をおろし、深いため息をついた。
ただ、女神様ならフィリアとイヴィットを生き返らせることができることを知れたことは、収穫と言えるだろう。どうやって実現するのか見当もつかないが、それでも可能性がゼロではないことにソリスはずいぶん救われた気分になった。
「フィリア……、イヴィット……、待ってて……」
ソリスは顔を上げると窓の外に高く登った満月を見つめ、口をキュッと結んだ。