俺たちは、日が落ちるのを待って攻撃を仕掛けようと、ドルスティが宿泊している宿を固めていた。
入口はミリシアとリリ。
屋上はルージュとポリン。
そして裏口は、俺とおもちが待機している。
まだ子竜とはいえ目立つので、物陰に隠れながらだ。
ちょうどいいゴミ捨て場があったので、隙間からひょっこりと顔を出す。
「ぐるぅ」
「ごめんなおもち、もう少しの辛抱だ」
匂いがキツイのだろう。悲し気なおもちの鱗を撫でる。
こうしてみると猫の時と変わらない。頭をこすりこすり。
俺がこうやって毎日頑張れているのは、傍で支えてくれているおもちのおかげだ。
作戦はすぐにまとまった。先制攻撃が何よりも大事だと、ココア先生から教わっている。
人相書きは何百回も見た。間違えていない。
何よりも魔力が明らかに高いとわかった。
立ち振る舞いも普通のそれではなく、偵察を教わった俺たちから見ても元騎士だと断定できる。
時間を決めて仕掛ける予定だったが、ここでイレギュラーが起きた。
裏口からドルスティが出てきたのだ。
バレたのかそうでないのかはわからない。
堀の深い顔立ち、ぼさぼさの頭、無精髭。
ミリシアとルージュを魔力音で呼び寄せる。
暗号みたいなもので、よっぽど感知を高めていないと気づかないごくごく小さな音だ。
耳に入っても気にも留めないだろう。
だが信号を受け取った二人が闇夜から現れると、同じくドルスティに気づく。
「なるほどな。どうする? クライン」
ルージュと同じく、ミリシアも俺を見る。
この作戦を決めたのは俺だ。最終決定権も任せてくれているのだろう。
成功率を考えると宿に帰ってくるのを待った方がいい。
追いかけてもいいが、相手は俺たちより格上だ。
追跡がバレてしまえば逃げられる可能性もある。
だが――。
「予定変更だ。様子を見ながら追いかける。そして――隙を見つけたら殺る」
俺の言葉の後、二人は深くうなずいた。
しかし驚いたことにドルスティは北門から出ていく。
こんな時間に狩りは考えづらい。
深い森、だがある意味では絶好のチャンスでもある。
開けた場所で、ドルスティは止まった。
そして――消える。
慌てて周囲を探すと、次の瞬間、後ろから殺気がした。
――死。
だがそれに身を委ねず、自らを魔結界で覆う。
剣は俺の頭部の手前で止まる。
魔結界は攻撃だけじゃない。防御にもなるのだ。
これも、訓練で覚えた技である。
俺はおもちに声をかけた。
遥か上空、空で旋回してたおもちが下降し、炎の玉をドルスティに放った。
それにはドルスティにも驚いたらしく後方に下がる。
だがもちろんそこを見逃すようなミリシアとルージュじゃない。
「――魔結界」
「――魔滅」
間髪入れずに攻撃を仕掛ける。
ミリシアの魔結界は正確無比にドルスティの足を覆う。
体を覆わないのは、あえて手が届きづらい足元に設置することで解除をさせづらくするためだ。
ココア先生は規格外なので蹴りで無理やり破壊するが、通常の手順だと触れて解除しないといけない。
ぐんぐんとドルスティに魔滅が迫る。
ルージュも手加減なしだ。どてっ腹に大穴が空いてもおかしくないほどの威力。
だが――。
「ハッ、
驚いた事に、ドルスティは右手の剣に魔力を漲らせ、いとも簡単に魔滅をはじき返した。
そして、俺たちの素性まで見抜いた。