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第23話 実践テスト

「ドルスティ・ブル。年齢は35歳。武器は片手剣、だけどちゃんと魔法も扱える。風の斬撃を飛ばしてくるみたい。表向きは品行方正で評判も良かったらしい。ただ、お金はいつもなかったとの証言がある。今回の件も貸し借りが問題だった。1人を殺し、残り2人に怪我を負わせて逃亡」


 西の街へ向かう馬車の中、たった数日の猶予しかなかったにもかかわらず、ミリシアは多くの情報を調べてくれていた。

 もちろん俺たちもサボッていたわけではないが、ルージュと二人で顔を見合わせる。


「ミリシア、君をリーダーに任命しよう。クライン、異論はないな?」

「ありません」

「女リーダーか、悪くないね。って、私が一番戦闘向きじゃないんだけど」


 軽い冗談を言い合っているのは、人を殺すことについて言及しない為かのかもしれない。

 大型の馬車を借りたので、おもちも中で寝ている。

 畳んだ翼からリリとポリンがひょっこりと顔を出していた。


 魔獣申請は既にしているので街にも入ることができる。


「それにしてもまさか初めての実践テストが逃亡犯を追いかけとは思わなかったね」

「ああ、それに元騎士ってヤバくね? 下手したら俺たちが死ぬよな……」

「それも込みでしょうね。実際、去年のテストで候補生の一人が亡くなってるみたい」


 ミリシアの調べすぎている情報にルージュと肝を冷やしつつ、家族のことを思う。

 もちろん今回は強制じゃない。


 だがもちろん合否に大きく関わるとのことだ。

 更に死んでも文句を言わないとのサインもしている。


 わかっていたことだが、この世界は元の世界と違って死が身近にある。

 だからだろう。ルージュもミリシアも殺すことについては不安そうだが、誰かが死んだ、という点においては引っかかるところは見受けられない。

 昨日まで話していた人が魔物にやられた、なんてめずらしくもないからだ。


 俺が一番大人だ。だから、一番しっかりしないと。


「街についたらまずは情報取集をしよう。与えられた期間は一週間、短くもないけど長くもない。頑張ろうね」

「そうだな。手は抜かないでおこう」

「そうね。絶対に見つけ出しましょう」


    ◇


「おいクライン、ミリシア、この牛串うめえぞ! 食べてみろよ!」

「オチを作るのが上手だねルージュ」

「まずは冒険者ギルドに行くって決めたでしょ」

「でもお腹が空いてたら戦えねえよ」


 街はそれなりに賑やかで大きかった。

 ちなみに宿は街の中心のそこそこいい所を予約している。

 それはココア先生がしてくれたらしく、特にミリシアがホッとしていた。


 安宿の場合、子供たちだけで泊まると危険だからだろう。


 荷物を預けて情報収集の予定だったが、ルージュがまずは腹ごしらえだと屋台で肉を購入した。

 確かに馬車の時間は長かった。

 胃袋が悲鳴をあげている。


「すみませーん、2本ください」

「あいよ、2本ね」


 そして俺も購入、ミリシアは呆れていたが、ひょいと手渡す。


「あ、ありがとう。――んっ、美味しい……」

「だろ!? うまいだろ!?」

「私はクラインに言ってるのよ」

「俺が教えたのによお!」

「はは、とりあえず食べたらすぐに行こう。でも、美味しいねこれ」

「「ねー」」


 胃袋を軽く満たしたあと宿で荷物を預け、人生で初めて冒険者ギルドの扉を開ける。

 おもちは目立つので申し訳ないが宿で待っていてもらっていた。

 とはいえ、俺が心の中で呼べばすぐ来てくれるだろう。


 中は屈強な男たちでいっぱいだと思ったが、色々な人がいた。

 女性だけのパーティー、俺たちと同じぐらいの子供パーティーまで。

 凄く目を付けられるのかと思ったが、そうでもないことに安心する。


 受付員は忙しそうにしていて、壁には沢山の依頼書と呼ばれる紙が貼ってある。


 ココア先生から人相書きをもらっているので、バレないように見ていく。

 ドルスティも、まさか俺たちが追っ手なんて思わないだろう。


 だが当然と言うべきか、目撃情報があったとはいえ簡単には見つからなかった。


 冒険者ギルドを出たあとは、街をゆっくりと観光――ではなくしらみつぶしに人相を確認する。

 途中で手分けしながらも探したが、ドルスティの姿はどこにもなかった。


 一日目は空振りだった。とはいえ、後六日ある。


「既に違う街ってパターンもあるよな」

「そうだね。でも、俺はいると思う」

「どうしてだ? クライン」

「これを試験にするのは、ある種の確信がないとできないとおもうんだ。確かにルージュの言う通りいない可能性もある。だけどココア先生がそれをテストにするかな?」


 俺はそれをずっと考えていた。

 普通に考えれば見つかる可能性のが低いはずだ。

 わざわざそれをテストにするなんて――と。


「確かにな……つまり先生は、この七日間の間は絶対に潜伏してる、と確信してるのか」

「と思うね。ミリシアもそれをわかってるみたいだし」

「ちぇっ、なんだよ気づかないのは俺だけかよ」

「わからないよ。これも先入観みたいなものだし、全員が同じ考えも良くない。だから、あえて言わなかったんだ」

「なるほどな。だったら明日も頑張るか。――ありがとなクライン」

「? なんでお礼を?」

「俺、性格悪かっただろ。でも、お前とミリシアのおかげで色々人の気持ちがわかってきたんだ。貴族ってだけで傲慢になってた」

「ふふふ、可愛いねルージュは」

「な!? 俺は可愛く――」

「おやすみ」

「ったく、おやすみ」


 俺は心からルージュ感謝していた。

 違う。俺のが、ありがとうと言いたい。


 仲間ってのはかけがえない事だと知っているからだ。



 だが二日目、三日目と手掛かりはなく、空振りが続いた。


 そしてついに最終日がやってくる。


「おもち、行こう」

「ぐるぅ?」

「長い間ごめんね」


 俺は出かける前、おもちに声をかけた。


「連れていくのか? 行きは馬車だったからいいけど、目立つんじゃないか?」

「ちょっと考えがあって」


 外に出ると、やはり目立った。

 そこにあえてだが、おもち、リリ、ポリンを連れている。


 魔獣は珍しい存在だ。


「あの子たち、凄いな」

「あれ、竜?」

「冒険者にしちゃ若いよな」


 そのまま歩いて、歩く。それもあえて、大通りをだ。

 ぞろぞろと大衆の視線が向く。


 だが――そのとき。


「クライン――いた」


 ミリシアが、静かに声をかけてきた。


 右斜め後ろ、チラリと視線を向けると、そこに人相書きと一致した男がいる。ドルスティ・ブルだ。

 そして、離れていく。


 もし俺が逃亡者でこの街にいると仮定しよう。


 なら、こんなに騒ぎがあれば絶対に見るはずだ。

 それが何かを突き詰める。そしてすぐに離れていく。


 ミリシアとリリと感知に長けている。

 元騎士は魔力が強い。


 そのままミリシアは感知を強めていた。

 目を瞑る必要があったので、気づかれないように肩を抑える。


 ふたたび開けたとき、隠れている宿がわかったらしい。


「――よし、近くで夜まで待って。仕掛けるぞ」


 そして俺たちは顔を見合わせ、覚悟を決めた。

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