宮廷魔法結界師とは特別な力や権威を持つ選ばれし者たちである。
王家を直接護衛する騎士や魔法使いと同じく、いやそれ以上に国の存亡を担う職務とも言われている。
貴族の中のエリート中のエリートで、給与が良いのはもちろん、1人1人の発言権は小国の王ほどあるとも言われている。
才能や結界のスキルだけでなく、忠誠心はもちろん、政治的な洞察力も求められる。
また、更にその中でも秀でたものを【
つまり、結界師の血筋を持つものなら誰もが目指す崇高な職業だ――。
◇
この世界にも嬉しいことに季節がある。
今は春、暖かい気温が、まるで俺を歓迎しているかのようだった。
「おもち、そろそろ行くよ」
「ぐるぅ」
2メートルぐらいで成長が止まったおもちは、立派な両翼を従えていた。
といっても従者の魔力で成長する事もあるらしく、まだ大きくなる可能性があるという。
魔獣ついては不明点が多い。リリやポリンは眠っている時は姿をそもそも消していることもあるとのことだった。
「ぐるぐるぅ」
「こ、こらくすぐったいよ」
ぺろぺろを長い舌で、俺の頬を舐めた。
おめでとう、と言ってくれている。
それを、メアリー、リルド、フェアも見ていた。
みんな、幸せそうな笑顔だ。
「似合ってるわクライン」
「ああ、本当に。それに大きくなったな」
「まだ十歳だよ」
俺は、宮廷魔法結界師の候補生として王都で学ぶことになった。
今は正装の白い服に身を包んでいる。
襟や淵に金の刺繍がついていて、気品があって綺麗だ。
身長もあの試験を超えたあたりから随分と伸びていた。
「クライン様、楽しんでくださいね!」
「ありがとうフェア、といってもやることはいっぱいみたいだけどね」
貴族としての立ち振る舞いは、短期家庭教師で学んだ。
色々と大変だったが、候補生の前にしておかならないといけない事だったのだ。
残念ながら楽しい学園生活は味わえなかったが、家にいる時間が多かった分、家族といつも一緒にいることができた。
「それじゃあ行ってくる」
「ぐるぅ」
それ以外に大きく変わったことは、父リルドの仕事が随分と落ち着いたことだ。
色々と手が回るようになったらしく、更に俺が王都に出向くので家にいる時間を増やすとのこと。
当分住み込みの生活になるので自宅に戻るのは週末か、もしくは休みの日になるのはさみしいが。
けれども俺の幸せはここにある。
それは、決して忘れることはないだろう。
馬車に乗り込み、王都へ出向く。
あれ以来ほとんど行っていないので、随分と久しぶりだ。
詳しくは知らされていないが、本格的な訓練ばかりとのことだ。
まだまだ先は長い。
けれどもしっかりと結界師になれば、家は安泰だ。
おもちは空から追従してくれる。
最初は魔物に間違えられたりもしていたのでかなり空高く飛んでもらっている。
申し訳ないが、移動中は仕方ない。
数時間後、馬車がとある場所で止まる。
俺は慌ててフェアの言葉を思い出す。
『緊張しているのは間違いありません。ちゃんとお手を拝借するのですよ!』
急いで降りる。そこには少し大人びたミリシアがいた。
艶やかな金色のストレートが綺麗だ。
「久しぶりクライン」
「ああ――どうぞ、お手を拝借」
「ふふふ、紳士ね」
実際はそうじゃないんだよなぁと思いつつ、緊張した面持ちを隠しながら席に座る。
俺と同じ白い正装に身を包んでいるが、女性特有のスタイルとスカート姿でより綺麗だ。
同じく詰込み型の家庭教師で大変だったことは聞いている。
「ピルル!」
「いいなぁリリは」
ウサギのリリの見た目は変わらない。
相変わらずミリシアの頭の上に乗っている。
少しだけピンク感が増したかもしれない。
「おもちは、ちょっとおっきすぎるもんね」
「そうそう。でも、寝るときの抱き心地はいいよ」
「ふふふ、羨ましい」
それから色々と話した。
今までのこと、これからのことも。
「私、負けないよ。クラインには負けない」
「俺だって負けないよ」
俺たちはまだ候補生、適格なしと判断されることもあるという。
仕方のないことだが、選ばれるだけでも箔がつくとのこで、既に仕事には困らないという。
ただそんな気持ちではダメだろう。
絶対に頑張りたい。
本気で、頑張らないと。
ふたたび馬車が止まると、見慣れた赤髪が姿を現した。
背は、俺たちの中で一番――伸びている。
「おっす! 元気してたか?」
「やあルージュ」
「相変わらず元気ね」
リスのポリンも変わらず肩に乗っていた。魔結界は使えないが、魔滅の能力が高いことで宮廷魔法使いの候補生として。
訓練自体は同じだったりもするらしく、楽しみだが一番の強敵になるかもしれない。
きっと強くなっているだろう。
「クライン、俺は負けないぜ」
「それ、ミリシアにも言われたよ。なんでそんな俺なの?」
「ふふふ、自分が思ってるより、あなたは憧れの人なのよ。それぐらい、あなたは試練の門で強かった」
そうだったかなあと頬をかきながら、褒められていることを嬉しく思える。
もし俺が元の世界でいじめられっ子で、ただ地面にはいつくばっていたと話したらどう思うだろうか。
驚くだろうか。
いや、二人はきっと、喜んでくれるだろう。
頑張ったねと褒めてくれるはずだ。
そして王都へ到着、馬車を降りると城が見えた。
いつかここで働くことになるはずだ。
――絶対に頑張ってやる。
「ルージュ、ミリシア、今日からはライバルだね。でも、頑張ろう」
「当たり前だっ」
「もちろん」
そして俺たちは街並みには目もくれずまっすぐと進み、城の門をくぐった。