「おもち、炎だ!」
「ぐるぅ!」
最後の試練の道は、視界がまったくない闇の洞窟のようだった。
見えない中での魔結界は、驚くこと難易度が高い。
そもそもこんな状況で戦ったことなんてない。
魔物が現れた瞬間におもちに炎を吐いてもらい、視界を明るくする。
おもちがいなければ、既に襲われて負けていただろう。
「おもち、ありがとうな」
「ぐるぅ」
おもちから、そんなことないよ、と伝わってくる。
真っ直ぐ進むと、ようやく光が見えた。
その瞬間、身体が傷だらけだと気づく。
「ハッ、もっと……訓練積まなきゃな」
道が終わる。
目の前に、入口とまったく同じ門が現れた。
終わりだと瞬時にわかった。
なぜなら、温かい光に包まれていたからだ。
振り返ると、俺が来た道が消えて2本の道が残っている。
それぞれが繋がっているかはわからないが、ルージュとミリシアだと思った。
そう思って矢先、左の道から、ルージュが走ってきた。
へとへとらしく、道を抜けた瞬間に倒れこんだ。
「も、もうだめだ……魔力の欠片も残ってないぜ……。よお、クライン」
「大変だったみたいだね」
「ああ、後ろから岩が迫ってきたかと思ったら、左右から魔物だぜ」
聞けばおそろしいほど大変だ。
走るのは得意じゃないので、ある意味ではこっちで良かったかも。
だがミリシアはいつまでもこなかった。
十分、三十分経過しても。
「……クライン、そろそろ行こう。一位を獲るんだろ? それに、もう外に出てるかもしれないぜ」
「ああ、わかってる」
だけど俺の足は動かなかった。
ミリシアがたとえここを抜けたとして、一人で門をくぐるとは思えなかったからだ。
そのとき――道から声がした。
リリの鳴き声だ。
「ピルルル!」
「きゃああっああ」
道から飛び出してくるも、大勢の魔物に追いかけられていた。
肌で感じる。オーク、サイクロプス、さっきの鬼、更には魔狼、勢ぞろいだ。
「ミリシア!」
俺は急いで前に出た。
「クライン、道には入れないぜ!」
「ああ、知ってる」
俺自身が入ることはできない。
けど、――俺以外は可能なはず。
「ミリシア、大丈夫――
俺は、透明な壁越しで人差し指と中指を立てた。
同時に魔物が一斉にミリシアに襲い掛かる。
だが―。
「クライン、お前、すげえ。な、なんだよそれ!?」
「まだ慣れてないから使う予定はなかったけど。――緊急事態だ」
――『魔強』と『魔変』。
俺は、20つもの魔結界を瞬時に形成していた。
「クライン!?」
「急いで中に」
そして俺は――魔滅で同時に全ての魔物を倒した。
「はは、すげえなクライン!」
「クライン……ありがとう」
「いやこちらこそありがとう。本当に」
薄々感づいていたが、今の魔物を見る限り、ミリシアが入った道一番、魔力が強かったはずだ。
おそらくリリに頼んで探知、あえて険しい道を選んだのだろう。
まったく、彼女は凄い。
「よし、みんなで門、くぐろうぜ」
「だね。ルージュ、ミリシアの肩もって」
「ごめんね、二人とも」
「気にすんな。俺が一番何もしてねーぜ」
「そういえば、ポリンってどんな能力なの?」
「ああ、ええと――いいや、次に会うときの秘密だな」
「はは、そうだね。楽しみにしてる」
そして俺たちは、同時に門をくぐった。
――――
――
―
「クライン、クライン!」
「ん……パパ、ママ……」
「凄いわクライン」
目を覚ますと、俺は門の外にいた。
メアリーとリルドがいる。
傷だらけだったはずの身体は無傷、まるで夢を見ていたような浮遊感だった。
「見ていたぞお前の最後の力。――よくやったな」
「クライン、あなたは本当に凄いわ」
「へへ、よかった」
その横では、ルージュとミリシアも同じように褒められていた。
何人かは泣いていた。きっと落ちたのだろう。
とはいえこれは遊びじゃない。試験だ。
すると、鐘が鳴り響き、門が消えていく。
「これで試験は終わりじゃ。――クライン・ロイク。お主は過去最高の討伐記録に最速時間、そして能力を見せてくれた。王家で待っているぞ」
そういって、白髪の老人は嬉しそうにいった。
王家? どういうことだ?
「お前は合格したんだよ。それも宮廷魔法結界師の候補生として学ぶことになる。こんなのありえないぞ、凄いぞクライン」
「本当に凄いわ」
「……よくわからないけど、それってお金はいっぱいもらえる? みんな、幸せになれる?」
肩書なんてどうでもよかった。
俺は、家族の幸せが一番だ。
リルドとメアリーは、ゆっくりと頷く。
すると、ぐるぅとおもちが頭をこすりつけてきた。
「よかっ……た……」
そういえば、フェアとの訓練が役に立った。
帰ったらお礼を言わないとな……。
そのまま俺は、安堵に包まれながらふたたび気を失った。