「凄いな……クラインという子は一体どんな訓練を積んできたんだ?」
「ありえない。魔結界と魔滅の速度が尋常じゃないぞ」
「それもそうだが、魔獣、おもちと言ったか? 意思疎通レベルが……既に上門レベルだ」
門の外では、大勢の貴族たちがおそれに似た困惑した表情を浮かべていた。
その視線は、最後にメアリーとリルドに向けられる。
メアリーは試練のモンスターに怯えていた。
だが一方で、リルドは笑っていた。
嬉しそうに、それでいて楽し気に。
無邪気な子供のようだった。
「はっ、クライン。――さすがは、俺の息子だな」
◇
「ぐるぅ!」
おもちが炎を吐いて、魔物の動きを止める。
それだけで倒せることもあるが、そうでなかったモンスターは、俺が魔結界で囲み、魔滅で止めを刺す。
まともに戦ったことはなかったが、どうやら俺は強いらしい。
流れ作業とまではいわないが、面白いように倒すことができる。
――これが、俺の力。
無力だった自分、歯がゆい身体、ただ捻じ伏せられることに慣れていた自分。
そのすべてを覆しているような、何とも言えない高揚感。
いや、違う。
嬉しいんだ。
自分が、強くなっていることに。
「よし、先へ進もう! ……あれ? ミリシア? ルージュ」
後ろを振り返ると、なんだかすごく引いている二人がいた。
「強すぎるよクライン」
「ああ、ヤバすぎるぜお前。周りも見てみろよ」
ん? と思い、周囲を見てみると、貴族たちがマジでドン引きしていた。
え、なんかヤバいことした?
……そんなにやりすぎたのか?
「で、でも! 本気でやれって!」
「ぐるぅ」
おもちは俺に頬をすりすり。
うーん、戦うのって難しい。
「ちょっと驚いたけど、でも、凄いよ本当に。私と訓練してた時も思ったけど、更に強くなってない?」
「そうかな? フェアの特訓のおかげかも」
「にしてもやべえぜ。俺は魔結界使えないが、あれがどれほどの魔力を使ってるかはわかる」
そのとき、後ろから魔物の声がした。空を飛んでいる鳥のようだ。
ルージュが、人差し指を立てる。
「任せてくれ」
その後、水平線に向けた。まるで、銃を撃つような――。
「――魔滅」
次の瞬間、魔力の弾丸みたいなものが飛んでいく。
それは魔物にぶち当たると、空の鳥が落ちていく。
「ふう」
「ルージュの魔滅って変わってるね」
「あぁ、まあちょっと違うらしいな」
魔滅は基本的に魔結界の中に囲んだ相手を倒す。
けれどもルージュは
外すこともあるらしいが、その分数が打てるらしい。
魔結界を使えない分、手数を増やすことを考えたとか。
ミリシアは正確無比な魔結界を使えるし、いくら戦うことに俺が特化してるとはいえ、特別秀でているわけじゃない。
ちゃんと自分の立ち位置をわかった上で、驕らないようにしよう。
「……何してるんだろ? あの子たち」
「クラインが進むのを待ってるのよ。――ちょっとズルいね」
「俺が言ってこようか?」
後ろでは、子供たちが待っていた。
正確には、俺が進むのを待っている。
分かれ道で離れた人たちもいるが、同じ道を選んだ子供たちは、俺を先頭にしたがっている。
とはいえ、おもちが強いので当たり前だろう。
「いや、いいよ。でも、父さんは言ってたよ。結局どこかではぐれるって」
「私も聞いた。気を付けないとね」
「何かあったら俺を一番に見捨ててくれ。お前らは、仲いいだろ」
その言葉を聞いて、俺は気づけばルージュの頭をなでていた。
よく考えたら子供だ。
こんな小さな子供が、俺に気を使ってくれている。
――可愛い。
「な、なにすんだよぉクライン!?」
「はは、ルージュって意外にいい奴じゃん」
「な!? 俺はインバート家の――」
「だね。クライン、次は私が前に行くよ。――守られてばっかりは嫌だから」
「ああ」
「お、俺も前にいくって! 待てよ!」
ああ、なんか、いいな。
――誰かと信頼し合えるって、凄くいい。