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第9話 規格外の出来事

 騒めく貴族たちを納めるかのように、第一王子が拍手をはじめた。

 それに伴って周囲が静かになっていく。

 王子が、静かに俺に歩み寄る。

「素晴らしい。まさか我が王国から五本指が現れるとは……君の名前はクラインだったね。ロイク卿、前に出て来てくれ」

 フィリップ王子は、椅子から立ち上がると父を呼んだ。

 深々とお辞儀した後、父が俺の横に立ち、膝をつく。

 俺も慌てて続いた。

「楽にしてくれ。ロイク卿、三本指以上は決まりで事前に知らせておいてくれとあったはずだ。どうして黙っていた?」

「申し訳ございません。私も知らなかったのです……」

 二人の会話で気付いてしまった。どうやら俺は、とんでもないことをしてしまったのだと。

 慌てて弁解しようにも、口を出していいのか悩む。

 だが、父が責められるのは嫌だ。

「父はわるくありません。ぼくがわるいのです」

「クライン、お前は静か――」

「良い。勘違いしないでくれクライン、三本指以上はあらかじめ護衛を付ける決まりなだけだ。別に君の父を責めているわけではないんだよ」

「はい……」

「むしろ君の父を想う姿、そしてその幼さに似合わぬ丁寧な言葉遣いに好感を持った。国王陛下にも伝えておく。ただ私が君を呼んだのはそれを聞きたかったわけじゃない。一つ聞きたい、魔獣を召喚し続けていると魔力を消費するはずだが、どうして肩に乗せている?」

「おもちは、僕がうまれたときからずっと一緒なんです」

 俺の返答が、更に周りを騒めかせた。王子は「なるほど」とすんなりと納得してくれたが、そういうことだったのかと納得した。

 その後、王子は突然叫びはじめた。

「皆のもの聞いたか! 彼は類まれな素質の持ち主だ! ギリアンドムの歴史の中でも異例だろう! 彼、クラインは間違いなく英雄となり、そして今後称えら得るに違いない! よって、この場で爵位を与える!」

 爵位、その言葉の意味はわかるが、そのすごさはわからなかった。

 だが父は感激し、周りも喜んでくれている。

 その後、儀式が終わった後、俺は爵位を授かった。

 やり方はよくわからなかったが、隣に父がいて色々教えてくれた。

 ありがたみはわからなかったが、父の最後の言葉で、ようやく実感がわいてくる。

「凄いことだぞ、クライン。その歳で爵位を持ったのは、お前が初だろう。とても誇らしい。」

 正直、元の世界の感性がある俺にとってはどうでも良かった。

 だがその表情は、二度と忘れないだろう。

 ◇

 男爵の爵位をもらった俺は、徐々に実感が湧いて。

 人生で初めて認めてもらえたのかもしれない。

 そして父は、俺に色々と教えてくれた。

 五本指のことだ。ただこれは今までの金型で、例外もあるらしい。

 親指の魔印は「魔獣まじゅう」を出すことができる。出現中は魔力を消費ただしおもちは例外個体は術者の趣味趣向、個性によって変わるらしい。ミリシアがウサギだったのは、思い入れが強いからかもしれないと言っていた。

 人差し指の魔印は「魔結界まけっかい」で、人差し指を立ててることで、標的を指定して囲う・・ことができる

 中指の魔印は「魔滅まめつ」で、魔力を放出してダメージを与えることができる。主な使い方としては、魔結界で囲った相手に標的指定し、倒す。

 薬指の魔印は「魔変まへん」で、魔結界の形を変えたり、硬度を変えることができるらしい。

 これはかなりめずらしく、本来は魔結界を持つ人と行動することが多い。だが俺は一人ですべてが可能だ。

 そして、子指魔複まふう。数百年前に一度だけしか確認されておらず、その詳細も不明とのことだった。

 俺にもその使い方はわからないし、今後どうやって覚えたらいいのかもわからない。

 第一王子曰く、これからは王都で暮らしてほしいとのことだったが、それについては父がかなり悩んでいた。

 聞けば爵位を与えたのは、もちろん功績あってのことだが、ギリアンドムに永住してほしいのだろうと。

「すまないつい興奮して難しい話をしてしまったな。屋敷に戻ろうか、随分と遅くなってしまった。メアリーが待ってる」

 その時、第一王子が用意してくれた馬車を待っていると、ビアリス伯爵とその息子、ルージュが現れた。

 俺が五本指と言われた時、苦虫を嚙み潰したような顔をしていたのをハッキリと覚えている。

「やあ、どんな手を使ったのだ?」

 開口一番がこれとはまさに恐れ多い。

 だが父は余裕だった。卑怯な手は使っていない。しいて言えば、俺が赤ちゃんの頃から努力したくらいだろう。

「何もしていませんよ。しいて言えば、愛情を与えたことが、すくすくと育つきっかけだったのかもしれませんが」

 最高の皮肉だ。手塩にかけたといってた息子を遠回しに全否定する。

 ルージュはずっと俺を睨んでいた。何か言いたげだが、流石に言えない。

 なぜなら俺は男爵、爵位を持ってない息子が、俺に口答えはできないのだろう。

 すると馬車がやってきた。行きよりも随分と豪華だ。

 ビアリス卿が乗り込もうとすると、衛兵に止められる。

「貴様、何のつもりだ?」

「こちらは第一王子、フィリップ様がクライン様とリルド様にご用意した馬車です。私の意思ではありません」

「……ふん」

 これにはビアリスも黙って下がるざる負えない。

 すると父は「失礼、ビアリス」とこれまた皮肉を言った。素晴らしい、拍手したいくらいだった。

 中は広々としており、やわらかいクッションが敷かれていた。

 笑ってしまうほどの待遇、五本指は凄いのだと教えてくれている。

 調子に乗りそうだったが、父がそれに気付いて声をかけてきた。

「クライン、権力、そして強さに飲まれるなよ。お前は賢い、そしてこれからもっと強くなる。だが忘れるな。本来、人に上も下もない。優劣をつけるな。――いい子に育ってくれ」

 頭にガツンと響くようだった。俺が努力したのは、他でもない俺自身の為だ。

 そして今は父と母、おもち、屋敷の全員の為だ。

 驕るな、ということだ。

「わかりました。――おもち、おつかれさま」

「ぐるぅ!」

「だがよくやった。ビアリスの顔、痛快だったな」

 そしてこのしたたかさも見習いたい。

 帰りの馬車は、行きよりも随分と豪華だった。

「ねえパパ、帰ったら魔印のこと色々教えてほしい」

「ああ――でもそれよりやることがある」

「やること?」

「みんなでお祝いだ。いっぱい美味しものを食べよう。おもちにも、おやつをあげたいだろ?」

「――うん!」

 ああ、やっぱり俺は、この家族に生まれて来てよかった。

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