私、フェア・レディスはロイク家に仕えるメイドです。
メアリー様はどんな方にも優しく、リルド様は厳格ではありますが、思慮深く、それでいて情に厚い人です。
命を賭ける仕事をしていていつも不安ですが、何よりも家を大事しておられます。
そんなお二人様の間に、ついにご長男が誕生されました。
「フェア、私の息子――クラインよ。これからもよろしくね」
「はい。メアリー様と同じで可愛らしく、リルド様に似て恰好いいです!」
クライン様は生まれながらにして強い魔力を保有していたらしく、すぐに魔獣を出現させていました。
名前はおもち。
おそらくですが、子竜でしょう。
……おそろしい才能です。
ですが、素晴らしいことです。
魔印も無事に出現し、メアリー様とリルド様はホッと胸をなでおろしていました。
しかしながら、クラン様はとても苦しそうです。
力が強すぎるのでしょう。
朝は早く、夜は遅く、メアリー様はほとんど寝ていませんでした。
リルド様も家を支える為に必死に働いています。
私も、少しのその支えが出来ていたら良いのですが……。
「クライン――お前は――かわいいでちゅね」
厳格だったリルド様の子煩悩っぷりには驚いた。
思わず笑ってしまいそうになるが、頑張って堪えている。
あまりにも可愛すぎるのだ。
メアリー様はとても嬉しいらしく、私も見ていて幸せだ。
こんな愛情深いロイク家に仕えることができて、とても誇らしい。
平穏な日々が続き、クライン様がようやく歩けるようになった頃、私は――とんでもないものをみた。
いや、見てしまった。
というか――やばすぎる。
「魔結界!」
「ぐるぅ!」
まだ三歳だというのに、クライン様は魔結界を習得していたのだ。
更に魔獣とも心を通わせていて、とてつもない速度で動いているおもちを捕まえようとしていた。
意思疎通はもちろん、魔力供給にも長けているのだろう。
……凄すぎる。
メアリー様に伝えようと思ったが、クライン様は二人をびっくりさせたいらしい。
「おもち、秘密だぞ!」
「ぐるぅ!」
私はただのメイドだ。クライン様の意思を尊重したい。
とはいえそれとは別に、とても愛らしいが。
その日から、私はできるだけメアリー様やリルド様にバレないようにする仕事が始まった。
「フェア、クラインは――」
「今、おもち様とすやすた寝ているみたいです!」
「あらそうなの? 少し様子を――」
「大丈夫です! 私がしっかりと見ていますので!」
「そう。ありがとね、フェア」
「とんでもございません!」
なかなか大変だったが、これもまた、愛するクライン様の為。
そして――。
「魔結界、魔結界、魔結界!」
……え、いま三連続じゃなかった?
……え、今の動きなに!?
……凄すぎる。
クライン様の成長がとても楽しみだ。
きっと、とてつもないことになる。
私が言うのもなんだが、今のロイク家は厳しい立場にある。
辺境だということもあって王都との連携が厳しく、魔物の活発化で仕事が大変すぎるのだ。
ですが……クライン様ならきっと変えてくださる。
私は、それが楽しみで仕方ない。
……それに、クライン様は良いお人だ。
「ふぇあ、いつもありがとう」
「とんでもございません。何かありましたら、いつでもお申し付けください」
「ぐるぅ」
「おもちも、ありがとうって」
「ふふふ、クライン様は何でもわかるんですね」
「うん!」
しかしある日、私は気づいてしまった。
魔印が、他の指にもあることに。
……凄いなんてもんじゃない。
歴史が変わるだろう。
私はこの目で見てみたい。
クライン様がどんな世界を作っていくのか。
その手助けを、少しでもできたら嬉しい。
私のこの、汚れた手でも、きっとできることはあるはずだ。
「フェア、私の留守中、二人を頼んだぞ」
「もちろんでございます。私は戦う事しかできませんから」
「そんなことない。フェア、お前はもう変わったんだ。メアリーもクラインも、お前を慕ってるよ」
「ありがとうございます、リルド様」
私は幼い頃から
生きる術が、それしかなかったからだ。
そんな私を、リルド様が拾ってくれた。
「フェア、どうしたの? 何かボクの顔についてる?」
「いえ、愛らしいなと思ってみていただけです」
「ええ!? あ、ありがとう」
――クライン様、私はあなたに全てをささげます。
私が命に代えて守りますので、ご安心くださいね。