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【8】南海の大決戦

「しゃがんで! 首落とすよ!」

 培養プールの外に出た先で、どこからか女の子の声がした。


「は、はひぃ!」

 僕は言われるまま、その場にしゃがみこんだ。


「アヴァアアアアアアァァァン、ストラ――――ッシュ!」


 女の子が聞き覚えのある技の名前を絶叫すると、目の前に閃光が走り、――かにの足が宙を舞った。

 見上げた僕の目に映ったのは、切断されたドデッかにたちの断面だった。


「遅くなってごめんね、威くん。もう大丈夫だから☆」


 頭を抱えた僕に向かって、ジャージ姿の美少女が満面の笑みでそう言った。


「待たせたな、少年!」


 そこには見覚えのある二人がドヤ顔で立っていた。


「明日香ちゃん! 店長!」


「立て、威」

「はい!」


 店長が僕に手を差し出し、僕はそれを握った。

 ふわっと体が浮き上がると、たくましい腕に抱きとめられた。


「よくやったぞ、威! 師匠として鼻が高い!」

「ありがとうございます!」


 店長が言うほどあまり物を教わった気はしてないけどね。


「敷島のおじいちゃんとみなもが一緒なんだ。見かけなかった?」


「これから探す。応援も連れて来てるが、この島の岸壁が狭くて船があまり接舷出来ないんだ。船員たちの収容に時間がかかってる。手伝ってくれ」

「了解!」


 僕らはその場を後にした。


     ◇


 秘密基地内は警報が鳴り響いてて、大騒ぎになってた。白衣の人も、戦闘服の人も、慌てて走り回っている。みんな自分のことで精いっぱいらしく、もはや僕らを探そうとする人はいない。が、念のため少しだけコソコソと移動する僕ら。


 ときおり遠くで自動小銃で撃ち合う音が聞こえるから、カンパニーとかいう組織の人らは軍に圧されてるんだろう。


「こんな状態で、諏訪丸の人や、みなもたちをどうやって探すのさ」

「威、私を誰だと思ってるの? 有人の戦巫女よ?」

「すまん、明日香、頼む」

「明日香ちゃん、お願いします!」


 遠くを見通す戦巫女の力は、建物の中でも使えるとは初耳だった。みなもには、そんな力はなさそうだったから。


「……こっち!」

 明日香ちゃんは魔女っ娘ステッキで指し示した。

 僕らは人目を忍んで秘密基地の中を進んでいった。


     ◇


 僕らは、どこかの通路奥に追い込まれてる、みなもと敷島のおじいちゃんを見つけた。おじいちゃんはみなもを後ろ手にかばって、戦闘員の前に立ちふさがっていた。

 おじいちゃんの白衣には少し血がにじんでいる。きっとみなものために傷ついてしまったんだ。


「みなも!!!!!!!」

「威!! みんな!!」

 敷島のおじいちゃんの背後から顔を出すみなも。


「威、ここは――」

 そう店長が言いきらぬうちに、僕は戦闘員たちに突っ込んでいった。


「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 僕は武器を出すより先に足が出てた。

 人間に反応できない速さで戦闘員たちを蹴散らし、みなもを抱き上げた。


「みなも!! みなも!!」

「たけるう……うっっうっ」


 みなもは安心したのか、僕の胸で泣き出した。


「もう威と会えないと思ってた……」

「僕もだ」


「みなもちゃんは護ったぞ、威くん」

 敷島のおじいちゃんが僕の肩を叩いた。


「ありがとうございます!!!!」

「お二人さん、感動の再会のところ悪いんだが、急いで脱出だ」


 店長と明日香ちゃんが戦闘員を手早く拘束すると、みんなでその場を後にした。

 戦闘員の人らは、あとで軍が捕まえるだろうって店長は言ってた。


     ◇


 明日香ちゃんが透視したところ、諏訪丸の乗員たちは軍の人が保護してるそうなので、僕らはまっすぐ港に向かうことにした。


 視界が開けると、洞窟内に作られた小さい港に停泊してるうずしおと、超デッカいかが船にのしかかろうとしているのが見えた。


「うわあああ!」

「きゃあ!」

 僕とみなもは驚いて叫んだ。


「あーあ、こりゃ……」

 うずしおの上のいかを見て渋い顔をする店長。


 軍人さんたちが銃で撃ってるけど、まったく効いてない。その中には難波さんも混ざっていた。


「威くん! みなもちゃん! 無事だったか!」

 難波さんが駆け寄ってきた。


「はい! なんとか!」

「なんばさ~~ん、たいへんだったんだよ~~~」とみなも。


「兄貴が手も足も出なかったのは、こいつのせいです!! 兄貴は触手が大嫌いなんだ!!」

 僕はいかを指差した。


「「なんだってーーーー!!!!」」


 店長と難波さんが同時にシャウトした。


「カニの方だったら、兄貴も逃げなかったはずです!!」

「ありゃまあ……」と店長。


「威! いかの弱点は頭と胴体の付け根の左右と、眉間だ! まずは眉間から狙え!  足の動きが止まる!」 難波さんが僕に叫んだ。


「え、でも……」

 うねうねと足を動かしてて近寄れる気がしない。


「威君なら出来る! 特訓を思い出して!」

 明日香ちゃんが応援してくれる。


「やべえ、かにのお代わりが来ちまった。俺はこいつらを抑えるので忙しい。お前がやるんだ!」


 店長はプールから逃げてきたドデッかにの大軍を通路際で抑え込んでいる。狭い洞窟内の港では、さしもの店長も本気が出せず、苦戦している。


「ようし……」

 僕は武神器を腰から抜くと、大剣モードにしてデッカいかの眉間に狙いを澄ませた。僕の体から剣へと気が流れ込んでいき、刃が光と熱を帯びる。


「ていや!!!」


 渾身の力で大剣を投げると、デッカいかの目と目の間に突き刺さった。その瞬間、赤茶色だったいかの足がすうっと白く変色し、ぐったりと動かなくなった。


 目から上、胴体の部分はまだ生きていて耳がぐにょぐにょと動いている。足さえなければもう怖いものなどない。


 僕は船体に縫い付けられたデッカいかから大剣を引っこ抜くと、今度は目の左右をざくざくと刺した。これで頭の方も白く変色し、耳も動かなくなった。


「やったぁ! 威!」みなもが手を振る。

「よし! 兄貴に勝ったぞ!」

「威すごーい!」


「さすがだ、威! 琢磨さんを超えたな! はっはっは!」

 僕のお付きの難波さんも、なんだか鼻が高いみたいだ。


「お前らいいから船に乗れ! 難波、すぐに出すんだ! 明日香も乗れ!」

 かにの爪をいなしながら店長が叫んだ。

 僕らが船に乗ったのを確認すると、店長は通路の壁ごと崩して、ドデッかにたちを生き埋めにして、ダッシュで船に飛び乗った。


     ◇


 秘密基地の島を離れると、あちこちから煙が上がってるのが見えた。

 多少逃げ出した連中の駆除が残ってしまったけど、とりあえず巨大生物事件は解決することが出来た。


 甲板で島を見ていた僕に、難波さんが声をかけた。

「威、しばらく後始末で出動してもらうことになりそうだが、大丈夫か?」

「もちろんです。そのために兄貴の代わりにここに来たんだし」

「頼りにしてるぞ」

「はい!」

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