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【7】超ドデッかにと超デッカいか

『ガッシャ――ンッ』


 轟音とともに橋が崩れ、そのうち半分くらい千切れてプールに落ちた。そして僕は、


『ドスン!』……水中じゃなくて、水槽と水槽の間、仕切りの上に落っこちたらしい。


「いってええええええ――ッ!」


 背中をしたたかに打って、ムチャクチャ痛い。僕はしばらく、うめき声を上げながらミミズのように悶えていた。水の側のせいか、少し生臭い。

 水槽の中を覗くと、底は深いのか、中身はよく見えない。少なくとも水上には何もいないので、ほっとした。


「あ……伊緒里ちゃん置いて死んだら、マズイよな……」

 ちょっと忘れてたのは秘密だ。


 橋は落ちたものの、みなもと敷島のおじいちゃんは無事に渡り切ることが出来たようだ。振り返らずに走っていったおじいちゃんは、きっと僕なら大丈夫だろうと信じてくれたんだと思う。


 おじいちゃん、みなもを頼む……。


 とりあえず水に落ちずに済んだ僕は、痛む腰をさすりつつ、辺りを見回すと、さっき敷島のおじいちゃんが言っていたアヤシイ機械が目に入った。落ちた場所からは、ざっと五十mくらい先の壁際にある。


 ――あれか。


 機械の近くに金属製の重そうなドア一つがあるけど、鍵は……なくてもブチ破ればいいか。よし、あの機械をぶっ壊して、その後あそこから出よう。行けばなんとかなるさ。


 まあ、食われないと思うと気楽なもので、僕は田んぼのあぜ道のような仕切りの上を、水に落ちないように十分注意しつつ、まっすぐ機械のある所まで歩いていったんだ。


 半分くらい歩いたところで、僕の背後からヘンな音が聞こえた。

 さっき落とした警備員が奇跡的に助かって追いかけて来たのか、と思って腰の武神器をそっと抜いた時――


 何かが足に絡まって、僕は顔面からモロにビターンッと倒れてしまった。でも鼻をさする余裕なんかなかった。

 僕の体がずるずると後に引っ張られていたんだ!


「うわあぁぁぁぁっ」


 僕は半身を起こして足元を見ると、たくさんのイボがついた触手が絡み付き、その元を辿ると、全身をぬめぬめと光らせ、何本多分十本もの触手を生やした巨大生物が、でっかくて気持ちの悪い目をギョロつかせて、僕をじっと見ていた。


 ……そうか。僕は恐怖よりも先に、腑に落ちたことがあった。


『だから兄貴は、船を沈めて逃げたんだ!』


 船を襲ったのがコイツなら、兄貴にゃあゼッタイムリだわ。せめて、甲殻類の方なら勝てたのに。


 兄貴は、幼少期、タコのおじさんにイタズラされたんだ。

 それが全てを物語っている。


 ……え? なってない?

 と・に・か・く、日本男児のくせに琢磨は触手が大嫌いなの!


「ちょっ!」

超デッカいかは、さらに触手を伸ばし、僕の胴を締め上げ始めた。


「うっげげげげげぐぐぐぐぐぐぐぐ、ぅおぇっ、ち、千切れるうううう」


あんまり締めるから吐き気がしてきた。胴体が真っ二つになりそうだ。


『いたぞ。あそこだ!』


 遠くから声がする。さっき落っこちた警備員がもう這い上がってきたのか? と思ったらそうじゃなくて、上の方から聞こえる。


 警備員たちは、橋がかかっていた通路の開口部からこっちを見てるんだ。橋が壊れてるからこっち来ないだろう……とか思ったら、その場で僕に向かって自動小銃を発砲してきやがった!


「うわっ」


 流れ弾に当たった超デッカいかが、触手の力を緩め僕を落とした。その一瞬のスキに、僕は機械目がけてダッシュした。


「ラッキー! サンクスな!」


 水面が、ビシュッビシュッと音を立てている。飛び交う銃弾にヒヤヒヤしながら進んでいると、後ろの方でズルズルッと何かを引きずるような音。

 怒った超デッカいかが警備員たちの方に這い寄って、吸盤のついた足で壁をよじ登り、彼らをうねる手で絡めとった。


 僕がやられたみたいにギューっと絞められた警備員たちの悲鳴が聞こえる。ありゃあ多分助からないだろう……。


他にもモンスターが出てきたら困るので、急いで機械の方に駆け出した。

が、急に視界が遮られた。


 ザッバー!!!!!


 ものすごい勢いで何かが水槽から飛び出した。大量の水が足元を濡らす。



 ――――僕は、強い既視感に襲われた。「……カニ、ボス……じゃん」


 僕は今、巨大カニと対峙するモンプラのハンターになってしまったんだ。

 ゲームでは何体も屠ってきたけどリアルじゃ流石に初めてだ。

 僕は巨大甲殻類がこんなに恐ろしいものだなんて夢にも思わなかった。でも行くしかない。

 超ドデッかにが爪を高く振り上げる。


「イピカイエエエエエ――――ッ!」


 僕は大声で恐怖を振り払うと、助走をつけてカニの股の間目がけてスライディングした。露出した肌が擦れて痛い。

 通り抜けた瞬間、頭のすぐ上の方に何か――鋭いカニ爪が突き立てられ、パチンと閉じた。


「ひいいぃぃぃぃっ」


 あやうく首をチョン切られるところだった。

 僕は背中にイヤな汗をかきつつ、武神器を最小形態から使い慣れたシビリアンハンマーにモードチェンジして、残り数メートルとなった目的地まで、最後のダッシュを開始した。


「うううぉぉおおおおおおおおおりゃああああああああああああああああああ――っ!」


 僕は怪しい制御卓状の機械の前で、砲丸投げ選手のように数回体をスピンさせると、バチバチと激しく帯電したシビリアンハンマーをど真ん中にブチこんだ。

 金属製のパネルはダンボール箱のようにぺしゃんこに潰れハンマー頭部はコンクリートの床にめり込んだ。


「やった!!!!」


 機械が壊れたせいか、水槽の水がどんどん抜けていく。これで連中もおしまいか。

 ふっと気が抜けたその時、背後に気配を感じた。そこには……


 ――カニカニカニカニカニ…………超から小までドデッかにの団体さんがいた。


「やべえ!!」


 僕は床にめりこんだハンマーをひっこ抜くと、限界まで電気をため込んだ。

 そして、バチバチと鳴るハンマーを頭上に掲げた。


 今度こそ、これで――


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 迫るカニ、イカ、水槽という水槽に向かって激しい雷が降り注いだ。

 この部屋にいた全ての生物が電撃を受けてプスプスと煙を上げた。


「終わった……」


 僕は機械の脇にある鉄の扉をハンマーでブチ破り、外に出た。

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