敷島のおじいちゃん一人では、さすがに全員を逃がすことが出来ないようで、僕らを先に逃がし、軍に連絡させるつもりで牢に来たようだ。
「そうじゃ、これを威君に返そう。大事なものなんじゃろう」
敷島のおじいちゃんは武神器を僕に渡してくれた。
「ありがとうございます! ほら、みなも。スイッチを入れてくれ」
「うん! ぽちっとな!」
武神器から起動音が鳴った。
敷島のおじいちゃんが取られた武神器を持ってきてくれたので、ここで早速起動する。とにかく起動だけでも先にしておかないと、いざというとき使えないからな。
安全装置とはいえ、不便だよなあとは思う。
「しかし……君の武器はずいぶんとこう……」
「おもちゃっぽい?」
「ああ。他のイクサガミの武神器はもっと普通の武器の姿をしておるからのう」
「これは店長……いや、神崎提督が僕の好みに合わせてゲームの武器みたいに作ってくれたものでして」
敷島のおじいちゃんは、神崎提督の名を聞いて一瞬眉根を寄せた。
「そうか。器用なものじゃのう」
「おじいちゃん、私のステッキも店長が作ってくれたんだよ」
「ほほ、可愛い杖じゃの。みなもちゃんに似合っておるぞ」
「ありがとう、おじいちゃん!」
みなもは腰の魔女っ娘ステッキを敷島のおじいちゃんに見せた。さすがにオモチャだと思われたのか、光明寺先生に取り上げられはしなかったようだ。
◇
というわけで、僕らはこっそりと施設の中を移動した。所々におじいちゃんの協力者がいるようで、スムーズな移動。
う~ん、何とか他の人も連れて行けないのかなあ?
とにかく、おじいちゃんの言うように、僕らだけ先に逃げて、軍の応援を呼ばなくちゃ。
薄暗い通路を通り抜けると、急に視界が開けた。
「うわ~不気味。……エイリアンでも養殖してそうなトコだなあ……」
「当たらずも遠からず、じゃな。威くん」おじいちゃんが言う。
「落ちたら食べられちゃうよね……」とみなも。
「ああ、間違いなくな。誤って落下した職員が何人も餌食になっておる……」
「うへぇ~~……」
僕らは、青や緑にうっすら光り、升目で仕切られている大きな屋内プールのような場所に来たんだ。その巨大水槽の上、約十mあたりにかかった細く長い金属製の橋の上を、おじいちゃんを先頭にこわごわと進んでいる。
谷にかかった吊り橋みたいで、下を見ても恐いし、なんか揺れるし、怪しい生き物が中にいるっぽいし……。超、足ガクガク状態だ。
「威くん、あそこに赤い電気の点いている機械があるじゃろう。あれを壊せばこいつらを処分出来るんじゃが、儂のIDでは中に入れない。脱出したら軍の人に知らせておくれ」
「わかりました。……って、博士は一緒に逃げるんじゃないんですか?」
「わしは……」
と、敷島のおじいちゃんが言いかけたとき
「いたぞ! あそこだ!」
橋を半分くらいまで渡ったところで、うしろから来た秘密基地の警備員に見つかってしまった。あいつら自動小銃を持ってる。
どうしよう、このままじゃ二人が危ない。
「しまった! 見つかってしまった!」
「くそ、僕が何とかする! 二人は走って!」
「わかった!」
敷島のおじいちゃんはみなもの手を引いて走り出した。
僕は武神器を腰から抜いた。
そして、グラグラ揺れる橋の上で、半分ガクブルしながら武神器を構えた。……恐いけど、覚悟しなきゃ!
僕は武神器を持ったまま両手を開いて、あいつらを通せんぼした。
「抵抗するな!」
一人は僕らに狙いを定めて銃を構え、残りの人たちが銃口を向けつつ僕らに近づいてきた。
「ご、ごめんなさい!」
僕は二人の足音がある程度遠くなった時点で、構えた剣を下向きにぐるりと振り抜いた。
金属製の橋は音もなくスッパリ切れて、目の前から向こうを強く蹴ってやると橋がガクンと落ちた。
その瞬間、警備員たちは悲鳴とともに、次々と水の中にボチャンボチャンと落ちてしまった。
切れた橋のこちら側はブラーンと辛うじて壁にくっついてるけど、ポッキリ折れるのも時間の問題だろう。
僕はジャマ臭い武神器を腰に戻すと、そっと「ごめんなさい」と落ちた人に手を合わせた。
振り返って、みなもたちを追いかけようとすると、
「うわ、な、何でいんの」
目の前にみなもがいた。
金属の橋はギギギ……とイヤな音がする。重みでこちらまで落ちそうだ。
「早く渡らないと、こっちまでポッキリいっちゃうぞ。走れよ」
みなもはにっこり笑って、「あのね……やっぱごめん」
『え?』
次の瞬間、みなもは僕のわきをすり抜けて、途切れた通路から眼下のプールにダイブした。
「バ、バカヤロ――――――ッ!」
僕も、みなも目がけてジャンプした。
薄笑いを浮かべながら、淡い光の中を背中から落ちていくみなも。
僕は、落下しながら思いっきり手を伸ばした。
二、三度、空を切った手は、――みなもの足首を掴んだ。
「お前は、生きろ!」
僕は体制を崩しながら、全力でみなもを通路の上に放り上げた。見上げると、丁度おじいちゃんが覗き込んでいて、うまいことキャッチしてくれた。
でも、その衝撃で橋は大きく傾き、おじいちゃんはコケながら、みなもを背負って一目散に出口へと走っていった。
僕はそれを見送りながら、背中から水槽に落ちていった。
――これでいい。罰を受けるのは、僕の方なんだから。僕は、目を閉じた。