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【12】戦慄の八坂家 2

「お願いします、中野さん! 僕もおじさんの捜索を手伝わせてください!」

「うーん……じゃあ、ダメ元で本部に行ってみるか」

「はい!!」


 僕はとにかく捜索の船に乗せてもらおうと思い、中野さんに連れられて本部にある事務所に行った。


「威くん、八坂さんのお嬢さんと仲良かったの?」

「えっと、同級生で……その」

「彼女さん?」


 軍の人相手に肯定するのは、ちょっと気が引けた。

 だって僕の戦巫女はみなもだから。


「まあ……」

「別に隠さなくてもいいよ。付き合ってるんでしょ?」


「あはは……まあ」

 結構気まずい。


「正直、威くんはまだ実際に任務についてるわけじゃないから、捜索の船に乗せてもらえるかどうかわからないよ。それもいいの?」


「いいです。しがみついてでも乗っていきます」

「やれやれ」


中野さんは事務所の人に事情を説明すると、警備の仕事があるからとゲートに戻っていった。


「中野さん、どうもありがとうございました!」

「うん。じゃあ、がんばって」


「では威様、こちらでお待ちください」


 事務方のお姉さんが部屋のはじにある休憩スペースに僕を案内してくれた。

 こんな夜中なのに事務室にはそこそこ人がいて軍って大変なんだなって思ってると、事務方のお兄さんが僕にドリアンボンバーを持ってきてくれた。以前ガラスを割ったとき、こっそり掃除を手伝ってくれた人だ。


「どうぞ。心配でしょうが、辛抱してください」

「ありがとうございます」


 今の僕にとってこいつはザコだ。躊躇することなくプルトップを引き上げ、ぐっと半分ほど飲んだ。強い炭酸が喉を焼いていく。


 おじさん、大丈夫だろうか。

 早く探してあげないと。伊緒里ちゃんにも約束したんだ。


 外からヘリの発進する音が聞こえる。

 捜索に動き出しているのかもしれない。

 僕も連れて行ってくれればいいのに……。


     ◇


 司令部からの連絡が来るまでの間、僕はこの休憩スペースのベンチで、呼ばれるのをずっと待っていた。

 廊下を慌ただしく走る人の足音が聞こえても、電話が十回ほどかかってきても、まだ報せが来ない。


「まだなのかよ……」


 一時間も待たされたような気分だったけど、時計を見るとまだ三十分も経ってなかった。


 結局僕はただの子供で、何もさせてもらえない、何も教えてもらえない、そう思うと、伊緒里ちゃんにもおじさんにも、何もしてあげられないのが悔しくてたまらなくなった。


 みなもの時だってそうだ。結局みなもを救ったのは店長なんだ。明日華ちゃんだって僕は救えてない。瑞希姫だって。誰も救えてない。護れてない。


 兄貴がバックレなければ、少なくともみなもも伊緒里ちゃんも苦しむことはなかったんだ。


 ……でも一番悪いのは兄貴だけど、何も出来ない僕も二番目に悪い。だからせめて、おじさんを見つけ出して助けたい。なのに――



「威、待たせて済まん」

 乱暴にドアを開けて入ってきたのは、難波さんだった。

 どこかに外出でもしていたのか、今日は制服じゃなくてラフな私服を着ている。


「あ、あの、いつ出発ですか!」

 僕はベンチから勢いよく立ち上がり難波さんに訊いた。


「済まんがお前の出番はない。見つけたら教えるから、もう帰って寝ろ」と、難波さんは冷たく言った。

 普段と彼の様子が違う。……もしかして、こないだカメクラで言ってた……


「どうして!」僕は食い下がった。

 ダメと言われてはいそうですか、なんて言えるか!


「ド素人のお前が船に乗っていてもジャマなだけだろうが。分かったら帰るんだ」


「で、でも、漁協の人たちも、八坂のおじさんも、怪物がいるって言ってたじゃないですか。もし出たら、僕倒します! だから連れてって下さい!」


「あざらし岩を壊したくらいで調子に乗るな! ……お前に何かあったらどうするんだ」


 難波さんは、困ったような悲しそうな顔になった。


(はっ……)


 難波さんは立場上、いまは僕の味方になれないんだって、なんとなく分かった。難波さんの立場を思うと胸が痛む。


「三島司令の命令で、俺は何も言えないし、お前を行かせることも出来ない。八坂さんが心配なのは分かるが、聞き分けてくれ、威」


「もういいです! 三島さんに直談判します!」

「おい待て!」


 僕は難波さんを振り切って、事務室を飛び出した。行き先は無論、三島さんの所だ。


 僕が三島司令のオフィスに向かって走っていくと、難波さんが後から

「威を止めろ!」

 と叫び、廊下を歩いていた人たちが僕の前に立ちふさがってきた。


「どいてください! ケガしますよ!!」


 みんなが僕の腕を掴もうとするので振り払っていると、ラグビーの試合みたいに人が飛びかかってきて、僕の上に人間ふとんが積み上がっていく。


 すごい重さだけど、僕だって三島さんの所に行きたいんだ。

 僕はつるつるした床の上を、カメのように這って前進した。ズシリ、と背後の重量が増える。また乗っかった人が増えた。


 このままじゃ動けなくなると思った僕は、全力で背中の上の人を振り払った。人の山を抜け出した僕は、一目散に最上階にある三島さんの部屋を目指した。

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