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【11】イクサガミ、訓練生になる 4

『――シヨウシャ トウロク カンリョウ バイオキー ニュウリョク――』


 あわわ……、どんどん登録作業が進んでいくぞ。

 どうしよう、どうしよう……


『――セキュリティロック カイジョ カンリョウ シヨウゲンカイジカン ノコリ ニジュウヨジカン デス――』


「て、店長、これ、止めて! 登録とかしないから! はやく!」


 店長は、フム……と思案顔で顎に手を当てると、

「君はこの美しい外見が気に入らないということかな?」

 と落ち着き払って言った。

 まるで己が芸術家だと言わんがばかりに。


 え? まさか。


「た、たた確かに形も仕上げも美しいことは認めます。認めるから、どうにかして!

 僕にはこの剣が、イクサガミが装備するのに相応しいとは思えません。

 貴方は本気でコレを僕に装備しろと言うんですか、つか、もう、はやくどうにかしてえぇ――ッ」


「落ち着け、威君、ちょっとおじさんがふざけ過ぎたよ。悪かったってば」

「……ふぇ?」


 店長は煮え切らない笑顔を作り、


「もー、ちょっとしたギャグに決まってるじゃないかあ~、南方少年。

 では、これなら君も気に入るかい?」


 と言うと、僕の手からロトの剣を取り上げて、どっかのボタンを押した。

(普通に見てたらどこにボタンがあるのか全然わからないんだけど)

 すると、ロトの剣はいきなりトランスフォームを始め、僕の良く知っているブツに変化した――


「こ、これって……剛太刀・地獄極楽丸改じゃないですか!」


「こないだ君が店に来たとき、君のセーブデータを一部参照させてもらったのさ。

 ……愛用してるんだろう?」

 店長は腕組みをして、またさっきのドヤ顔をしやがった。


「し、してる……けど……何の魔法ですか」


 地獄極楽丸改というのは、狩りゲー『モンスター・オブ・ザ・プラネット』で自キャラが装備している、ゾウも一太刀で両断するほど巨大な刀のことだ。


 方法は分からないけど、こないだ祭りの後に店に立ち寄った際、携帯していた僕のゲーム機からこっそりデータを抜き取ったんだろう。


 これはこれで、さっきのロトの剣に負けじ劣らぬ完成度で、まるでゲームから抜け出したようなリアルさだった。


「確かにこれなら気に入らないわけないんだけど……、というかすっごく気に入ったんだけど……。まさか作ったのって、店長?」


「フフン」と、鼻で笑うだけ。


 ということは肯定なのか。


「店長……」


「何だ?」


「すっげえ、ジャマ。長すぎるっす」


「あ、やっぱ? だと思った」


 そう思ってたんなら最初からこのチョイスやめろよ。


「今度こそ、ちゃんとどうにかして下さいよ店長」


 みなもが、え~変えちゃうの、と遠くから口を挟むが使うのは僕だ。

 お前の意見は聞いてない。


「もー、そんなに怒っちゃいやん、威きゅん」

 これキモいけど店長のセリフだ。


「お願いだからキャラは統一してくれませんか?

 やる気絶賛ダダ下がり中なんすけど」


「はいはい、ったく兄貴と違って冗談のきかない子だなあ。

 んじゃこれでどうだ?」


 店長はぶつくさ言いながら地獄極楽丸改のどこかをポチポチ押すと、マイキャラの初期装備『シビリアンソード』へと大幅にダウングレードした。


 シビリアンってのは市民。つまり庶民ソードってわけだ。

 見た目はずいぶんとサッパリしてしまったけど、性能は同じだという。

 これなら僕にも使いやすい。なんたって、初期装備なんだから。


 で、店長の話によると、実はみなもの役目は「ボタン押す」だけだった。

 聞けば武神器は、もともと武神たちが持っている神器のことだけど、僕や兄貴のように若い世代は持っていない。


 だから、手先の器用な店長が作ってるわけ。

 で、新造された神器は、大人の事情でセーフティがかかっていてイクサガミと戦巫女の両方が揃わないと起動しない。


 おまけに使用時間は二十四時間という制限つきだ。


 詳しい仕組みは知らないけど、武神器は都市を一撃で粉砕する戦略級の大量破壊兵器だ。そうお手軽にホイホイ使われてしまったら危険なことくらい僕にも分かる。

 うっかり使用者ごと国外にでも持ち出されたら、世界大戦の引き金くらいカンタンに引けるからね。


 あっ!


 僕、気付いちゃった。


 ………………ってことは。


 ――兄貴は、もしかして……テロリストになってしまったのか?


 まさか……な。


 身内がテロリストになっちまったかも……。


 なんて恐い想像をしつつテントで小休止を取り、その後、僕はいよいよ実技訓練を始めることになった。


「では、今日の課題はこれだ」

 店長は手にした『威力千分の一ショートソード』、とかいうと面倒なので『パーミル(千分の一)ソード(仮称)』の先で、難波さんが並べていた数本のドラム缶を指した。


「ドラム缶……ですか」と僕。


 店長は片手をエプロンのポケットに突っ込んで、

「んじゃ、こんなカンジで」


 と言いながら、ドラム缶の前でパーミルソードをしゅしゅっと振った。

 ドラム缶自体には、全く触れていない。ただ、少しだけ風が吹いたように感じた。


 その数秒後、……ズズッ。


 何かがこすれるような音。

 続いて石が砕けてガラガラと崩れ――


 僕は、目の前で何が起こったのかよく分からなかった。

 はっきり言えるのは、並べられた五本のコンクリート詰めドラム缶が、一瞬で細切れになってしまったということだけ。


「ここまで細かくしなくてもいい。とにかくそのシビリアンソードで、コンクリの詰まったドラム缶を破壊すること。カンタンだろう?」と店長。


 僕のシビリアンソードは店長の剣より千倍強いんだ。出来ないワケがない。

余裕よゆーっス」


「威がんばってー」

 みなもがケーキの皿を片手に、そこいらをうろつきながら雑な声援を送ってくれる。


 僕はとりあえずドラム缶の前に歩み寄ると、スイカ割りのように剣を上から真っ直ぐ振り下ろした。

 ……武神器でなら、とうふを切るよりカンタンなはず。

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