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【10】イクサガミ、訓練生になる 3

「……キ、キャアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!」


 みなもが奇声を上げて両手を狂ったように叩き始めた。

 そのうち、その場でピョンピョン跳びはね始め、すごいすごいとわめいている。

 マジでどえらい喜びようだ。


 店長は振り上げた剣を下ろしてゆっくり振り向くと、満面のドヤ顔でこう言った。


「どうよ!?」輝く白い歯。


 最後の『どうよ』さえなければ僕は素直に感動するつもりだった。

 だが、ギルティだ。

 それに、さっき店長が叫んだのが技の名前だということにも気付いて、僕はやっぱこのおっさんは明日華ちゃんの言うとおり、ダメなおっさんだと確信した。


「どうよ? じゃねええええええええッ!」


 店長のドヤ顔に超絶イラっときた僕は、助走をつけて全力のドロップキックをカマしてやった。


――だが。


『ガッシ!』

 おっさんのクロスした腕に阻まれてダメージを与えることは出来なかった。


 僕は反動でそのまま後に宙返り。

 そして着地で失敗、尻からスっこけた。


 足元の砂でスベったんだよ! クソッタレ!


「ふ、や、やるじゃんよ、おっさん」


 僕はみなもに引き起こされながら店長に負け惜しみを言った。

 どっからどう見ても、僕の自爆ですね。

 ああ、みっともない。


「では次は君の番だ、ダイ君」

「僕はザビ家に復讐する気はありません。というかまーだそのネタ引き摺ってんすか」

「ダイって誰? ザビ家ってどこ?」

「いいからみなもさんは黙ってて下さい」


 空気を読んだテント組のみなさんが、スイーツをエサにみなもをテーブルに誘導し始めた。

 いいぞ、いいぞ、そのままそのまま。みなもを釣ってくれ。


 っていうか何でここにオヤツあんだよ?

 つか僕の分ちゃんとあるんだろうなあ?

 なかったらあとで暴れんぞ?


「あーちょいまち、みなもちゃんこっち来てくれる?」

 店長がニコニコしながら、みなもを呼び止めた。


 なんだかんだ言って、元嫁と同じ顔ってのは嬉しいらしい。

 僕としては軽く不愉快な気分だけどな。

 手ぇ出したらぶっ殺してやる。


 はーい、と妙に素直に返事をして、トコトコと小走りにUターンして来るみなも。白いセーラーキャップから零れる三つ編みのカブトガニ尻尾がぷらぷら揺れる。

 普通にかわいい。本当にかわいい。

 だから余計に店長に殺意が沸く。


 店長は黄色いエプロンの内側から、ゴソゴソと何かを取り出している。

 ……まさか! 股間からふんどしでも抜き取ろう、とかじゃないだろうな!

 まさぐる場所がアヤしすぎんぞ店長!


 ところが、店長がごそごそとエプロンから取り出したのは、なんと大幣おおぬさのついた魔女っ子ステッキだった。


 大幣っつーのは、神社でバサバサする紙で出来たアレのことだ。

 それをみなもにうやうやしく差し出している。


「はい、これ俺からのプレゼントだ、みなもちゃん。

 手元のボタンを押すとモードチェンジで長さが伸びて、トリガを引くと先端から電撃が出るんだ。護身用に使ってくれ。あ、拷問なんかに使ってはだめだよ。

 ……でだ。南方弟」


「今度はずいぶん雑な呼び方じゃないですかアバン先生。

 もう勇者ごっこはいいんすか」

「君がノってくれなくてつまらないからもーいい。で、ロトの剣を装備して」

「装備って、こーでいいんすか」


 僕は皮巻きの柄を握り、ルーン文字の刻まれた刀身の切っ先を天へと向けた。

 見た目はいかにも金属なのに、ちっとも重さを感じない。

 ブロー成形はもとより、FRPやキャストのムクだってもう少しは質量がある。

 こいつはただのプロップなんかじゃない。

 このふざけた見た目の剣は――


「じゃ、みなもちゃん。ここの赤い玉をポチってくれる?」

 店長がロトの剣の柄にはめ込んだ真っ赤な宝玉を指さす。


「はーい」

 みなもが言われるまま、シロップに付け込んで透き通ったさくらんぼのような宝玉的部分を指先でポチっと押し込むと、二、三ミリほど沈み込んた。


「んじゃ、もう用事ないからテントでおやつ食べてらっしゃい」

「はーい」と言って、パタパタと走り去るみなも。


 どのみちおっさんのわかりにくいギャグが理解出来ないし、そろそろ飽きてきたころだろう。素直に去って行く。


 ――う? 手元に鈍く微かな振動が伝わる。

 低周波とかでブーンとするカンジ。

 その後、僕は頭のてっぺんに刺すような痛みを感じた。

 けど、一瞬で消えた。


(何だ?)


 そのブーンが収まると、


『――ブシンキ トウロクシークエンス ヲ カイシ シマス――』

「しゃ、しゃべった! これ、インテリジェンスソートなのか!?」


 いきなりロトの剣が電子音声で不穏なセリフを発した。

 これ、一旦登録とかしたらヤバイカンジの奴じゃん?

 さっきの頭痛といい……。


 インテリジェンスソードとは、いわゆる魔剣。

 無機物のくせに意思を持った、剣の付喪神つくもがみみたいなやつのことだ。

 たいがいは使用者の身近な人の魂を吸ったり、見境なく通行人を切り倒しては血をすすったりする系の奴なんだが……。


「ただの音声ガイダンスだ。

 ペラペラしゃべる方が好みなら改造してやってもいいが」


「イヤですよ。つか、僕の武神器マジでコレなんですか?

 僕は一生ロトの勇者として生きていく運命なんすか? 冗談じゃないっすよ!

 チェンジ! チェンジだから!」


 僕は全力で否定した。冗談じゃない。軍艦に乗る勇者なんて聞いた事ないよ。

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