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【8】イクサガミ、訓練生になる 1

 そんなこんなで終わった転校初日。

 色んな意味で疲れた体を引き摺って基地に戻ると、早速今日から武神器の訓練を始めるとか。


 聞いてないよ? ねえ、聞いてないってば!


 なんつー僕の都合はブッチして、僕とみなもは待ち構えていた難波さんに医務室へ強制連行され、健康診断を受けることになった。

 検査の結果、僕はいたって健康、みなもはちょっと貧血なのでサプリメントをもらっていた。(同時に食事療法も行うらしい)


 検査を終えた僕は、用意されていた野戦服に着替えた。

 おろしたての青い迷彩服はゴワゴワしていて、どーもしっくりこない。

 みなもは海軍の制服……のような違うような、セーラー服にショートパンツ、セーラー帽姿に着替えていた。これはこれで可愛らしい。


 武神器っつーのは、イクサガミ専用のすげー武具で、これがないと抑止力になれないんだ。――詳しくは知らないけど。


 それで、戦巫女は何をする係なのか――これも実はよく知らない。なんで一緒にいないといけないのかも。

 だってイクサガミの仕事なんか、全く興味がなかったんだからさ。


 でも、今の僕は他の何を差し置いても、まずは武神器に慣れないと。

 いつまでも張り子の虎をやってるわけにはいかないからね。


 ☆


 僕がみなもを連れて宿舎を出ると、荷物を山積した軍用トラックと難波さんが待ち構えていた。

 午後の日はまだ高く、着替えたばかりの野戦服には早くも汗が滲んできた。

 トラックの荷台を見ると、ドラムカンがたくさん、それと大きな米袋のようなものが幾つも積んであった。この袋、どうやらセメントらしい。一体何に使うんだろう?


 僕らは乗り心地の悪い車に揺られて数分、滑走路を盛大に横切って、基地のはじっこの空き地に設営されたテントの前で降ろされた。


 テントってのは、いわゆる体育祭の本部のようなもので、机とイス、大型扇風機が置かれ、ご丁寧に野外用の流し台や給水車まで用意してあり、テント内では数人の若い海兵さんが、なにやら作業をしていた。


 ここでお茶会でもするのだろうか?


 ぼろぼろのアスファルトと、砂利、ひび割れたコンクリートが剥き出しになった空き地の周囲は、背後に公道とその境に高いフェンス。前方にぽつんとテントがある。


 右手の二、三十mほど先に高さ十mほどの崖があって空き地を塞ぎ、左手数十メートル先は、さっき難波さんがトラックを入れるのに動かした、低いバリケードで仕切られて、そこから向こうは遠く滑走路に続いている。おそらくここは、使い道のない滑走路のはじっこのようだ。


 そして、前方百mくらいまで空き地が広がり、その先はいきなり海だった。


 海に向かってテントから少し離れた場所に、ドラムカンが数個置いてある。

 そしてその横には、あからさまにアヤシイ人物が棒きれを持って、突っ立っていた。



 ――何なんだ? あれは。



 そのあからさまにアヤシイ人物がこちらに気付くと、大股でスタスタ近づいてきた。

 音楽室の壁にかかっているヘンな音楽家みたいな銀色横ロール頭に瓶底眼鏡、そしてなぜか黄色いエプロンを装備したその人は……


「あーこちら、今日から君のコーチをして下さる……」


 微妙な顔で紹介しようとする難波さんの言葉を途中で遮り、その人物がこう高らかに宣言した。


「今日から君を鍛える、勇者の家庭教師アバンだ。アバン先生と呼んでくれたまえ」


 胸を張り、自信満々にそう言った男は、どこかで見覚えのある人物だった。


「なんだ、店長じゃん」


 みなもさん、正解。

 一カメハメハポイント差し上げます。

 次回のお買い物の際にご利用ください。


「店長、だめじゃないっすか、勝手に入ってきたら。ここ基地の中ですよ?」


 ただでさえ暑いのに、MADAO店長の悪ふざけに付き合うつもりはない。

 だいたいアンタ退役したんだろ?

 この引きこもりめ。


「いや、マジでこの人が君のコーチなんだよ」

 と申し訳なさそうに言う難波さん。


 誰なんですか、貴方をそんな立場に追い込んだのは。

 僕が全力で任命責任を追及して上げます。


「店長ではない。ここではアバン先生と呼べ、少年」


 きっぱりとそう言い放ちつつ、両手を腰に当て、えらそうにふんぞり返るカメハメハクラブ・ニライカナイ店々長の神崎氏。


「まだそのていで続ける気ですか。茶番もたいがいにして下さいよ」

「アバンだけに? ぷぷっ」おちゃらける店長。

「アンタにだけは言われたくなかったよ! もういいから店に帰ってくれ!」


 僕のイライラは頂点に達しそうだ。

 というか、今日はとかくイライラさせられる日だ。


「店長さん、それ絶対ヅラですよね、ヅラ」

 と、嬉しそうに言うみなも。彼女のツッコミは遠慮がない。


「言っちゃダメ!」

 店長は口元で人差し指を立てて、シーッと言った。


「もーやですよ。ていうかゴメちゃんどこですか」

 しょーがないので多少付き合ってやる。


「これでガマンしろ」

 と言って店長は、エプロンの裏側からピ●チュウのぬいぐるみを取り出して僕に投げて寄越した。まるで四次元ポケットだぜ。


「最早ドラクエですらないよ! せめてマムルにして」

 僕はぬいぐるみをみなもにパスした。

 急に黄色い物体を放られたので、みなもが短く悲鳴を上げた。

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