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【7】イクサガミ、転校生になる 4

 「まあいいわ。じゃ、控えってことで私もあんたの巫女にしてもらうわ。

 お飾り巫女なんかに負けない自信あるんだから」


 ツインテールさんは、次期戦巫女になるはずだったのだから、きっとすげーキビシイ修業とかしてて、実力があるんだろう。


「そんなこと言われても……」


 僕の想像も及ばないくらい悔しかったに違いない。

 しかし、僕自身に戦巫女の人事権はなさそうだし、一体どうすれば……

 なんて悩んでいたら、


「威、おまたせー」

「南方くん、遅くなってごめんなさい」


 と、みなもと八坂伊緒里お姉さんがやって来た。

 しかも、仲良く手をつないで。

 いつからお前等はそんな仲良しさんになったんだ? 保健室で、かな?


 結局、ツインテールさんこと明日華ちゃんと僕らは一緒に昼メシを食うことになった。僕は転校早々ブッ倒れたから知らなかったけど、明日華ちゃんも同じクラスだそうだ。OH、なんてこった。

 ぜってえ軍が細工したに違いない。いや、間違いなく。


 僕の新しい学園生活は、早々にカオスな様相を呈してきたのだった。


     ◇


 僕らが学食に行くと、驚くほど周囲が静かだった。

 一瞬みんなが僕らを注目したけど、でもそれはほんの一瞬だった。

 教室での騒ぎがあったから、多分物珍しさで人が集まるだろうと覚悟はしていたんだけど。


 おかしいなあと思っていたら伊緒里お姉さんに、


「その件はすでに処理済みよ」と言われた。


 彼女は一体どんな処理を行ったのか……。


 で、ツインテールさんこと明日華ちゃんはというと、みなもにバッチバチにライバル意識を燃やしつつも平静を装っている。


 ツインテールのせいか、みなもは彼女があの巫女さんだと気付いていないようだ。あの夜は意識が混濁していたからか、そもそも神社での一件自体をあまり覚えていないように見える。


「じゃあ、このへんに座りましょう」伊緒里お姉さんがみんなを促した。


 そこは大きな窓際で、学校の中庭に面していた。

 南国の木や花がたくさんあったり、脇に東屋が据えられた池があったりと、まるで高級ホテルの庭のようだった。


 みんなで席につくと、明日香ちゃんが例の風呂敷包みをテーブルの上にどっかと置いた。


「重そうな荷物だと思ってたけど、それ何だい?」

 と僕が尋ねると、明日香ちゃんは、

「見れば分かるわ」とそっけない。


 彼女が風呂敷を解くと、その中身はなんと彼女のお弁当だったんだ。

 おせち料理を入れるような豪華な塗りのお重の蓋を開けると、中には美味そうなおかずがびっしり入っている。

 それにしても量が多すぎる。


「まさか、これ一人で全部食べるのか?」

「まさか。いつもみんなにお裾分けしているのよ」

「配るくらいなら一人分にすりゃいいのに……」

「これはね、島民に神饌しんせんを分け与えて日々の加護を――」


 とか、急に難しいことを言出した。


 つまり、毎日作ったお弁当を一旦神社の祭壇にお供えして、それから持って来るんだって。

 だから食べた人みんなが神様、つまり瑞希姫の加護がもらえるってことみたい。

 御利益は? って聞いたら、微妙にムッとしながら、海難事故避けとか武運向上とか言ってた。


 それって、学校で配るのに、ほとんどの人は関係なくね?


 それから……昨日から僕と微妙な関係のみなもだけど、向こうも何か意識してるのか、伊緒里お姉さんとばっかしゃべってる。

 伊緒里お姉さんはホスト役に徹していて、僕、明日華ちゃん、みなもと、平均的に話を振っている。


 さすがはクラスのまとめ役、学級委員。

 そんな安心感を振りまいている伊緒里お姉さんを見ていると、自然と心がほっこりしてくる。


     ◇


 昼休みが終わって、四人で教室まで戻ってくると、廊下で伊緒里お姉さんを待ってる男子生徒がいた。

 さっき保健室で彼女が話していた、長男のリク君だ。

 確かに言われてみれば、人狼らしく細マッチョで精悍な感じ。僕よりずっと軍人に向いてそうだ。

 お、なんか女子が数人注目してるぞ。人気あるんだな彼。


「南方くん、うちの弟の陸よ。ほら陸、挨拶して」


 と弟を促す伊緒里お姉さん。

 いきなり紹介されても困るよなあ、弟くん。

 僕もちょっと困ってます。


「威様ですね。姉がお世話になっています。一年の八坂陸です」


 陸くんは僕に深々とお辞儀をした。礼儀正しい子だなあ。


「初めまして、南方です。こちらこそ、うちの兄貴が大変ご迷惑をおかけしてすいません」


 陸くんはしばしキョトンとしたけど、すぐに意味が分かったらしく、


「早く見つかるといいですね」と言った。


「陸、はいこれ。あとで戻してね」

「ありがと」


 彼はお姉さんから墨汁の瓶を受け取ると階下へと走り去っていった。

 どうやら午後の授業で使う墨汁を切らしてしまったらしい。


 年の近い兄弟がいないから、ちょっと陸くんがうらやましく思えた。

 僕の唯一の兄弟は、親子ほども年の離れた琢磨だけ。

 当然だけど、一緒に学校に通った記憶はない。せいぜい、授業参観に夫婦そろって来たことがあるくらい。それも一度だけ。まあ……仕方ないけども。


「南方くん、どうかした?」伊緒里お姉さんが不思議そうな顔で訊いた。


「兄弟……いいなあって。琢磨は親くらい年離れてるから」

「うん……そうね」


 微妙に浮かない顔で返す伊緒里お姉さんに少し違和感を覚えたけど、僕はすぐ忘れてしまった。

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