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【2】満喫! 南国リゾート! 2

「んー、さいこー♥」

「だな!」


 翌朝、僕とみなもはホテル最上階の展望ビュッフェで朝食を取っていた。

 ウルトラ美麗なオーシャンビューが、最高の調味料だ。


 トロピカルドリンクをしこたま腹に流し込んで、みなもは上機嫌だった。

 前日はなんだかんだあったけど、一晩眠って景色のいい場所で美味いものでも食えば、だれでも気分はわりかしハッピーになるもんだ。


「お食事はお楽しみ頂けましたか?」

「あ、はい……」


 ホテルの従業員と思しきキレイなお姉さんが、ファイルを小脇に抱えて席にやってきた。聞けば僕らの担当コンシェルジュだとか。


 ……コンシェルジュってナニ?


 お姉さんは、髪をキャビンアテンダントみたくアップにしてて、睫毛の長い目が知的で、紺色のブレザーから大人の色気がそこはかとなく漏れ出ている。

 参考までに、胸は多分Dカップ相当と思われる。


 要件を聞いてみると、島のリゾートプランを紹介してくれるらしい。

 お姉さんがカタログを広げると、ジェットスキーやスキューバダイビング、バナナボートにパラグライダー等々、本当によりどりみどりだ。


 するとみなもが、

「わーこれ全部やりたーい!」

「え、……マジ?」


 僕らの向こう数日分の予定が、なんとなく決まった。




 つーことで、食後僕らはホテル近くのショッピングセンターにやってきたんだ。夏物衣類は引越荷物の中で、探すのも面倒だから買っちゃえって、みなもがさ。


 それにしても、このショッピングセンター何なんだ?

 すっげえ大きいし、屋上には遊園地まであるし、地元より全然賑やかだぞ。

 あ……、まずい。

 みなもの目がギラギラしてる。店を複数ロックオンしてるぞ。


「こら、勝手に行くな。初めて来るとこなんだから、はぐれたら合流出来ないぞ」

「んむう~~~~~」


 僕はみなもがフラフラしないように、手首を掴んだ。

 こいつは目についたものに片っ端から食いつく性質があるんで、ぶっちゃけ犬のリードでも欲しいところだ。


 みなもは不服そうな顔で振り返ると、


「はぐれたら場内放送すればいいでしょ? てゆーか、威がちゃんとくっついてくればいいだけじゃんー、は~なしてよ~お店見れない~」


 と、ぐだぐだ言いながら、掴まれた腕をブンブン回して、僕の手を振りほどいた。その瞬間、弾けた木の実のように僕の前へと走り出した。


 そうなんだよな、こいつは。

 昔っからそう。


 いつも自分勝手に遊び歩いては時折くるっと振り向いて、僕がきっちり追尾してんのを確認して、またフラフラと歩き回る。

 振り向くときに見せるみなもの満面の笑顔は、僕が後にいるのを確信してるから出来る表情だ。


 僕だって子供心にはぐれちゃいけないと思って必死にくっついて歩いていたんだ。お前を見失ったりしないさ。


「え? 何か言った?」

 みなもがくるりと振り向いて言った。


 あちゃぁ、声に出してたか。


「ん、何でもないよ。で、次どの店なんだ?」

 僕はみなもを見失わないように、数歩距離を詰めた。




 そんな怒濤の買い物を終えて僕らがホテルに戻ったのは、夕方近くだった。

 部屋に戻って休んでいると、みなもが買い物袋を片っ端から開封して、ソファーでぐったりしている僕の前で、ファッションショーを嬉々として始めやがった。


「明日着てくのどれがいい? ねーねー」

 涼しげなワンピースを二着、交互に胸に当てて、みなもは僕に見せる。


「好きなのにすりゃいいだろ」

 正直けっこう疲れてた。


「彼女の服ぐらいちゃんと吟味してくんなきゃダメだよ!」

 みなもがキレ気味に言った。


「いつから僕達付き合ってんだよ。お前は僕の恋人じゃないんだろ」

 僕は吐き捨てた。


 いつまで経っても僕を恋人認定してくれないのは、みなもの方なんだから。

 ぐっ……、とみなもは悔しそうに一旦言葉を飲み込んだ。そして、


「た、威の巫女、だもん」とボソリ。


「じゃ、制服あるから私服は関係ねえよな」

 僕はソファーの上で、ゴロリと背を向けた。


「……………………威のバカ!」

 一拍置いて、みなものシャウトと共に、僕の背中にはキックの雨が降った。

 二十三コンボだった。



 別に間違ったこと、言ってないじゃん。クソッタレ。



   ☆ ☆ ☆



 翌朝、僕はまたソファで目覚めた。

 昨夜みなもとケンカして、ふて腐れているうちに、そのまま眠ってしまったようだ。ヘンな寝方をしてたのか、ちょっと体が痛いなあ。


「着替え」

 頭の上から、みなものぶっきらぼうな声が降ってきた。


「んあ……」

 まだ明かりに慣れない目で、僕は声のした方を見上げた。

「ぉあよ」


 みなもは、んっ、とソファの前にある籐製のローテーブルを指さした。

 サンドブラストで観葉植物が彫刻されたガラスの天板の上に、昨日買った服や下着が畳んで置いてある。


「悪かった」僕はボソリと呟いた。

 みなもは、「ん」と言って、部屋のどこかへ消えていった。


 僕がシャワーを浴びて出てくると、先に食事に行くと書き置きがあった。

 彼女は空腹に耐えきれなかったらしい。


 遅れて最上階の展望ビュッフェにやってくると、みなもはクロワッサンを口いっぱいほおばりながら、コンシェルジュのお姉さんと楽しげに会話していた。機嫌が直ってるなら、まあ……それでいい。


 今日はお姉さんに、朝市で魚介類料理を楽しむプランを紹介された。

 夕方からは島の神社でお祭りがあるというのでそちらも行くことに。

 マリンスポーツは先送りだけど、正直お祭りの方がいいよ、僕。

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