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第12話

『チトセ:というわけで、学校じゃないところで会おうよ。週末どこかに行かない?』

 会いたい、というストレートな言葉にドキッとする。それに、自覚する。たぶん私も、今の関係に少し、ほんの少しだけ物足りないと思ってしまっていたのだ。

 だって、キャンディさんてば学校では全然関わってくれないから……。でも、キャンディさんも本当は私に会いたいと思ってくれてる……?

 でも、学校以外でとなると、いつもより緊張する。どうしよう。

『あみ:……ふたりで?』

 恐る恐る訊ねる。

『チトセ:いや? 俺といるときなら、あみも素の自分でいられるでしょ?』

『あみ:……まぁ、クラスメイトといるよりは楽かもだけど……でもなぁ』

『チトセ:あ、もしかしてまだなんか秘密にしてる?』

 ぎくりとした。私は誤魔化すように文字を打つ。

『あみ:してない!! ……分かった。いいよ』

『チトセ:やった! じゃあ決まりね! どこに行きたいとかある?』

『あみ:えっと……』

 それ以上深くツッコまれなかったことに安堵した。

『あみ:特にない。私、あまり人と出かけたことがないから……』

『チトセ:じゃあ、俺が勝手に決めてもいいかな?』

『あみ:うん。お願い』

 連絡を終えると、私はベッドの上で手足をじたばたとさせた。

 どうしようどうしよう。まさかのキャンディさんとデート……! しかも、ふたりきりだなんて……!! 私、ちゃんと喋れるかな。っていうか待って。その前に私……。

「うそ、ついちゃった……」

 私は鏡を見た。鏡に映った自分の姿に、小さく息を吐く。

 私にはまだ、キャンディさんに隠している秘密がある。それを知ったら、キャンディさんはどう思うだろう……。

 私は味気ない天井を見上げ、悶々と考えるのだった。

 * * *

 そんなこんなで、次の週末。私たちは初めて学校とネット以外で直接会うことになった。

 出かけるときの服装やその他諸々の事情に頭を悩ませていると、あっという間にその週末はやってきてしまった。

 デート当日、私はいつもより早起きをして、クローゼットの前に立ち、唸る。

「うーん、服……どうしようかな」

 数ある私服を前に、腕を組む。

 結局あれだけ悩み抜いて、これだと思ったワンピースまでわざわざ調達したというのに、今になっても決まっていない。

 私はクローゼットの端にかかった新品のワンピースを見る。黒地に紺碧こんぺきの花刺繍があしらわれた大人っぽいフレンチワンピースだ。この日のためにネットで買ったのだけど……それが悪かった。

 届いてみると質感が思っていたようなものじゃなくて、サイズ感や丈もイマイチだった。

 こんな微妙な服でキャンディさんに会いたくはない。

 今日は初めてのデートで慣れないだろうし、馴染みのものにしようと思いクローゼットを眺める。

 けれど……悩む。

 ワンピースだと意識し過ぎかな。かといってデート経験がない私でも、さすがにジーパンだけは有り得ないということは分かる。キャンディさんに可愛いって思ってもらうためには……。

 と、考えながら時計を見た。針が指し示す時間に、ぎょっとする。

「うわぁもうこんな時間!? まずい! 時間に遅れちゃう!! と、とりあえずこれでいいや!」

 悩み抜いた結果、無難に白のブラウスと控えめなブルーの花の水彩画柄のヘップバーンスカートにした。

 着替えを済ませると、鏡に映る自分を見つめた。銀青色の瞳と、白と緑が混ざったような明るい色の髪。

 周りの子とまるで違う容姿。

「…………」

 黒髪のかつらに手を伸ばして、ふと脳裏にキャンディさんの文字が浮かんで、思いとどまる。

『素の自分で』

 素の自分。キャンディさんの前では、本当の自分をさらけ出しても許されるだろうか。

 彼なら、受け入れてくれるだろうか……。

 唇を引き結び、覚悟を決めて部屋を出た。

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