『チトセ:というわけで、学校じゃないところで会おうよ。週末どこかに行かない?』
会いたい、というストレートな言葉にドキッとする。それに、自覚する。たぶん私も、今の関係に少し、ほんの少しだけ物足りないと思ってしまっていたのだ。
だって、キャンディさんてば学校では全然関わってくれないから……。でも、キャンディさんも本当は私に会いたいと思ってくれてる……?
でも、学校以外でとなると、いつもより緊張する。どうしよう。
『あみ:……ふたりで?』
恐る恐る訊ねる。
『チトセ:いや? 俺といるときなら、あみも素の自分でいられるでしょ?』
『あみ:……まぁ、クラスメイトといるよりは楽かもだけど……でもなぁ』
『チトセ:あ、もしかしてまだなんか秘密にしてる?』
ぎくりとした。私は誤魔化すように文字を打つ。
『あみ:してない!! ……分かった。いいよ』
『チトセ:やった! じゃあ決まりね! どこに行きたいとかある?』
『あみ:えっと……』
それ以上深くツッコまれなかったことに安堵した。
『あみ:特にない。私、あまり人と出かけたことがないから……』
『チトセ:じゃあ、俺が勝手に決めてもいいかな?』
『あみ:うん。お願い』
連絡を終えると、私はベッドの上で手足をじたばたとさせた。
どうしようどうしよう。まさかのキャンディさんとデート……! しかも、ふたりきりだなんて……!! 私、ちゃんと喋れるかな。っていうか待って。その前に私……。
「うそ、ついちゃった……」
私は鏡を見た。鏡に映った自分の姿に、小さく息を吐く。
私にはまだ、キャンディさんに隠している秘密がある。それを知ったら、キャンディさんはどう思うだろう……。
私は味気ない天井を見上げ、悶々と考えるのだった。
* * *
そんなこんなで、次の週末。私たちは初めて学校とネット以外で直接会うことになった。
出かけるときの服装やその他諸々の事情に頭を悩ませていると、あっという間にその週末はやってきてしまった。
デート当日、私はいつもより早起きをして、クローゼットの前に立ち、唸る。
「うーん、服……どうしようかな」
数ある私服を前に、腕を組む。
結局あれだけ悩み抜いて、これだと思ったワンピースまでわざわざ調達したというのに、今になっても決まっていない。
私はクローゼットの端にかかった新品のワンピースを見る。黒地に
届いてみると質感が思っていたようなものじゃなくて、サイズ感や丈もイマイチだった。
こんな微妙な服でキャンディさんに会いたくはない。
今日は初めてのデートで慣れないだろうし、馴染みのものにしようと思いクローゼットを眺める。
けれど……悩む。
ワンピースだと意識し過ぎかな。かといってデート経験がない私でも、さすがにジーパンだけは有り得ないということは分かる。キャンディさんに可愛いって思ってもらうためには……。
と、考えながら時計を見た。針が指し示す時間に、ぎょっとする。
「うわぁもうこんな時間!? まずい! 時間に遅れちゃう!! と、とりあえずこれでいいや!」
悩み抜いた結果、無難に白のブラウスと控えめなブルーの花の水彩画柄のヘップバーンスカートにした。
着替えを済ませると、鏡に映る自分を見つめた。銀青色の瞳と、白と緑が混ざったような明るい色の髪。
周りの子とまるで違う容姿。
「…………」
黒髪の
『素の自分で』
素の自分。キャンディさんの前では、本当の自分をさらけ出しても許されるだろうか。
彼なら、受け入れてくれるだろうか……。
唇を引き結び、覚悟を決めて部屋を出た。