「…………はぁ」
重い空気をさらに重くするため息。私は、体をベッドに投げ出して、天井をぼんやりと眺めた。
「最悪……こんなんだからいじめられるんだよ」
自分の言葉が、どこか遠くに感じる。心と体が切り離されてしまったみたい。
でも……悪いのは私をかまった茅野くんの方だ。私のことなんて放っておいてくれれば、私が茅野くんのファンのひとたちに目をつけられることもなかったし、茅野くんが責められることもなかったはずなのだから。
そうだ。私は被害者なのだ。
そう言い聞かせようとする自分自身に、さらに気分が沈んだ。
クッションを抱き締めて背中を小さく丸める。
……どうしよう。明日から、どうしよう。またいじめられるのかな。
また、中学のときみたいに……。
荒波が押し寄せるように、中学の頃の記憶が私を呑み込んでいく……。
* * *
――私は、ひととは違う容姿をしていた。
銀青色の瞳に、白と緑が混ざったような色の髪。
おばあちゃんがロシア人だった私は、日本の血よりもロシアの血の方が濃かったらしく、ハーフである母よりも人目を引く容姿をしていた。
それが理由で、幼い頃からいじめられていた。
特に酷くなったのは、中学三年生のときだ。
クラスの中でも特に目立ってた女子が当時付き合っていた他クラスの男子が私を好きになったとかで、その子が振られたのが原因だった。
私はその男子のことなど全然知らなかった。話したこともなかった。それなのに、彼氏を寝とられたとかいう根も葉もない噂を流されて、それはあっという間に学校中に拡散された。
もともと私の容姿に反感を抱いていた子は多かったらしく、それが一気に爆発したようだった。そして、そうなったらもう、学校という場所で、私の居場所はなくなっていた。
『前々から気に入らなかったんだよね、あの子』
『いつも澄ましてる感じ、ウザイよね』
『人の男とるとか最悪じゃない?』
『性格ドブス』
『キモオタ女』
『ビッチ』
私は、あっという間に孤立した。
……なんで? 私が悪いの? 私はなにもしてないのに。
……じゃあ、私はどうしたらよかったの?
どこにいても、ひとりでいても、寝ていても、聞こえないはずの声がどこからか聞こえてくる気がして、たまらず耳を塞いだ。
思い切り叫べば、自分の声でいっぱいになるかな。
鼓膜を破れば、なにも聞こえなくなるかな。
もういっそ、消えてしまえば……。
当時、私は心の中でずっと叫んでいた。
『死ねよ』
『学校来んな』
『存在が邪魔なんだよ』
クラス中、いや、学校中のさまざまな声が全部私に刺さってくるようだった。みんなが敵に思えた。
忘れようとすればするほど、鮮明に思い出されてしまう。
「…………あぁ、もうやだ、やだ、やだ……」
コンタクトをとって、荒々しく前髪を後ろに流すと、偽りの黒髪がぱさりと床に落ちた。