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第2話

AMアムちゃんのキセキコス激カワ!』

『キセキちゃん神!』 

『女神降臨』

『AMちゃんがクラスにいたら確実に惚れてる』

『スタイル良過ぎだし可愛いし羨ましいー!』

 私のアカウントは今、私のコスプレに対する賞賛で溢れてる。

 昼休み。馴染みの保健室のベッドの中で、私は賞賛のコメントを見て強ばっていた頬を緩ませた。

 私は、SNSエスエヌエスが好き。ネットで絡む人たちは顔も名前も知らない人たちだけど、みんな優しいから。

 みんな、私の容姿を肯定してくれるから。

 彼らはキモいとか言ってこないし、そもそも私が学校でどういう立ち位置かとかも、ネットの人たちはなにも知らないから。

 だから正直、すごく楽。

 私は、動画や画像、メッセージなどで他のユーザーと交流することができる『Re:STARTスタート』というSNSで人気のコスプレイヤー『AM』として活動している。

 もともと引っ込み思案だった私は、小さい頃から学校に馴染むことができずにいた。

 中三の冬、不登校になっていたとき。

 当時大人気だったアニメのキャラクター『すれ違いのキセキ』のヒロイン、キセキのコスプレをした。その画像を試しに『Re:START』に投稿してみたところ、再現率の高さにいきなり五百以上のいいねがついたのだった。

 その日からしばらく、私のアカウントは賞賛の嵐だった。

 涙が出た。みんなに散々罵られてきた容姿を、SNSのみんなは肯定して、絶賛してくれた。

 その日私は、初めて誰かに認めてもらえた気がした。

 それから私は、ネット世界でコスプレイヤー『AM』として生きている。

 AMはアイドル。私はアイドル。

 学校の誰にも知られちゃいけない。現実じゃ絶対見せられない、つくろった偽りの私。だけど、これも本当の私。

 生きることに不器用な私を受け止めてくれるネットは、私には欠かせない精神安定剤せいしんあんていざいのようなもの。

 今度はどんなコスプレしよう。今話題のあのキャラにしようかな。あれなら裸眼らがんでいけるかも……。

 そんなことを思っていると、扉が開く音がした。

 反射的にスマホをシーツの中に隠した。足音が近付いてくる。

 誰だろう。先生だろうか。

 いや……違う。

 なんとなく嫌な予感がした、そのとき。 

 ザッと無遠慮にカーテンが開き、そのことに私は驚いて硬直した。

「……あぁ、見つけた」 

 カーテンを無造作に掴んで私のベッドの前に立っているのは、茅野かやのチトセちとせ

 学校中の女子が王子様といって騒ぐ、眉目秀麗びもくしゅうれいなクラスメイト。そんなひとが、どうして……。

「体調悪いの?」

 涼やかな低い声で、茅野くんは私に訊ねる。

 私はしばらく放心して、ハッと我に返って王子に背中を向けた。慌てて上げていた前髪を下ろして、目元を隠した。

「……な、なに、いきなり入ってこないで。出ていって」

 はっきりと拒絶を口にする。すると、茅野くんは少し沈黙して、言った。

「いきなりごめん。でも少しだけいいかな。実は聞きたいことがあって探してたんだ」

「聞きたいこと……?」

 スマホを制服のポケットに突っ込んで、私はおずおずと茅野くんを振り返る。

 目が合った。透き通るような焦げ茶の瞳に私が映っている。心臓が大きく揺れて、慌てて逸らす。

「……わかった。でも少しだけ待って。寝起きだから……」

「あ、そうだよね。ごめんね」

 さっとカーテンが閉められて、私はようやくほっと息をした。胸に手を当てる。まだ、心臓がどくどくと激しく鳴っている。

「…………」

 さっき、ほんの一瞬絡まった視線。

 私とはまるでべつの世界線を生きる王子様は、私をまっすぐに見下ろしていた。

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