『
『キセキちゃん神!』
『女神降臨』
『AMちゃんがクラスにいたら確実に惚れてる』
『スタイル良過ぎだし可愛いし羨ましいー!』
私のアカウントは今、私のコスプレに対する賞賛で溢れてる。
昼休み。馴染みの保健室のベッドの中で、私は賞賛のコメントを見て強ばっていた頬を緩ませた。
私は、
みんな、私の容姿を肯定してくれるから。
彼らはキモいとか言ってこないし、そもそも私が学校でどういう立ち位置かとかも、ネットの人たちはなにも知らないから。
だから正直、すごく楽。
私は、動画や画像、メッセージなどで他のユーザーと交流することができる『
もともと引っ込み思案だった私は、小さい頃から学校に馴染むことができずにいた。
中三の冬、不登校になっていたとき。
当時大人気だったアニメのキャラクター『すれ違いのキセキ』のヒロイン、キセキのコスプレをした。その画像を試しに『Re:START』に投稿してみたところ、再現率の高さにいきなり五百以上のいいねがついたのだった。
その日からしばらく、私のアカウントは賞賛の嵐だった。
涙が出た。みんなに散々罵られてきた容姿を、SNSのみんなは肯定して、絶賛してくれた。
その日私は、初めて誰かに認めてもらえた気がした。
それから私は、ネット世界でコスプレイヤー『AM』として生きている。
AMはアイドル。私はアイドル。
学校の誰にも知られちゃいけない。現実じゃ絶対見せられない、つくろった偽りの私。だけど、これも本当の私。
生きることに不器用な私を受け止めてくれるネットは、私には欠かせない
今度はどんなコスプレしよう。今話題のあのキャラにしようかな。あれなら
そんなことを思っていると、扉が開く音がした。
反射的にスマホをシーツの中に隠した。足音が近付いてくる。
誰だろう。先生だろうか。
いや……違う。
なんとなく嫌な予感がした、そのとき。
ザッと無遠慮にカーテンが開き、そのことに私は驚いて硬直した。
「……あぁ、見つけた」
カーテンを無造作に掴んで私のベッドの前に立っているのは、
学校中の女子が王子様といって騒ぐ、
「体調悪いの?」
涼やかな低い声で、茅野くんは私に訊ねる。
私はしばらく放心して、ハッと我に返って王子に背中を向けた。慌てて上げていた前髪を下ろして、目元を隠した。
「……な、なに、いきなり入ってこないで。出ていって」
はっきりと拒絶を口にする。すると、茅野くんは少し沈黙して、言った。
「いきなりごめん。でも少しだけいいかな。実は聞きたいことがあって探してたんだ」
「聞きたいこと……?」
スマホを制服のポケットに突っ込んで、私はおずおずと茅野くんを振り返る。
目が合った。透き通るような焦げ茶の瞳に私が映っている。心臓が大きく揺れて、慌てて逸らす。
「……わかった。でも少しだけ待って。寝起きだから……」
「あ、そうだよね。ごめんね」
さっとカーテンが閉められて、私はようやくほっと息をした。胸に手を当てる。まだ、心臓がどくどくと激しく鳴っている。
「…………」
さっき、ほんの一瞬絡まった視線。
私とはまるでべつの世界線を生きる王子様は、私をまっすぐに見下ろしていた。