その場所には、実しやかに流れている都市伝説があった。
本来無いはずのものがでてくる、というよくある類の都市伝説だが、その出現条件が中々に細かくて、しかし曖昧で。
そうして、ほんの少しの好奇心と、ほんの少しの希望を持って、その場所に足を向けていた。
都市伝説が出現する条件は、3つ。
ひとつ、おかしなものを見たことがあること。
ひとつ、とても疲れていること。
ひとつ、本当に困っていること。
曖昧にも程があるそれらに、人々は何度もその場所にトライして、しかし都市伝説には出会えずに終わっていた。
様々なSNSで「挑戦してくる」と報告をしては見つける事も出来ないまま諦める者が山程居り、結局そんな場所はないのじゃないかと何度も存在を疑われては新たな挑戦者が現れ続けた。
無いかもしれない。
けれど、あるかもしれない。
そう囁かれては時に沈静化し、また何故か再燃する噂に、その場所はいつまでもいつまでも、人の記憶の中に残り続けた。
そしてそのうち、誰が言い出したのかはわからないがその場所に入るための条件が語られるようになっていった。
その条件は徐々に「条件」というものから、「こういう事があればそこに連れて行ってもらえる」といった希望的観測に変化していく。
条件は少なく、しかしそのすべてをクリアするのは難しいかもしれないものばかり。
【ひとつ、そこに行って黒猫に出会ったらお前はおかしなものを見ている】
緑色の首輪をした黒猫は突然現れて、ジッと見つめてきた。
【ひとつ、2匹目の黒猫が出てきたらお前は疲れている】
黄色の首輪をした2匹目の黒猫も金色の大きな目で見上げてきて、1匹目の黒猫と相談するような素振りを見せてから背を向けて歩き出す。
追いかけて来ないとわかると立ち止まるその姿は、まるで何処かへ導こうとするかのようで。
【ひとつ、3匹目の黒猫が出てきたら、お前は追い詰められている】
だから、藁にもすがる思いで2匹の黒猫の後を追った。
途中で赤色の首輪をした黒猫が一匹やってきて「このコはどこから来たんだろう」と疑問に思いつつも身体はクタクタで、段々と黒猫を追いかけることしか考えられなくなっていく。
でも、黒猫を追いかけるのは正しいことなのだと、何故かハッキリと、そう確信していた。
【最後に、4匹目の黒猫はお前をそこに導くだろう】
「う、わぁ…………」
そうして、そこに辿り着いた。
何処を歩いていたのかも、どのくらい歩いたのかも分からないけれど、その建物は唐突にぽっかりと、前に姿を現したのだ。
入口には青色の首輪をした4匹目の黒猫がいて、にゃあんと高らかに声を上げる。
「おや、お客さんかな?」
すると、少しして扉が開かれ、また黒猫が、いや、違う、人間だ。
でも、黒猫みたいに見える。
何でだか、どうしてだか、呆然と、ドアから顔を出したその人を見つめて、やがて理解した。
自分、は助かる。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
その言葉を聞いて、なんの躊躇もなく開かれる扉を見て、何故か流れる涙を止められなかった。